修復家が「オリジナル」を重視する理由④

修復を学ぶ

この記事は一連のシリーズの4回目ですので、可能なことであれば1回目から順に読んでいっていただけますと、話がわかりやすいかなと思います。お手数かとは思いますが、お願いします。

さて、先の記事までは「物理的」な理由の話をしていましたが、「オリジナル」を考える際に実はそれだけではどうにもならないことがあります。

例えば、絵画や書物など、一般的に室内に保管されるものとは違い、建造物、またそれら建造物の装飾する彫刻(西洋の場合、橋や建物、ファサードなどに彫刻が施されることが多い)などは常に変わる気候、風雨に雪、近年では酸性雨や塩害、地震、戦争などにさらされています。

ここで登場するのは日本建築ですが、日本建築は歴史的伝統的には「木、紙」あたりで出来ています。木造建築というやつです。

木造建築でもきちんと使い、手入れをし、修繕し、と使えばそれなりに長く保つようですが、それでも腐りやすく、燃えやすく、食害されやすく、石や煉瓦などの素材よりも通常は保たない素材だったりします。

でも、現代において我々は古い日本建築を見れるじゃないですか!という疑問などもあるとは思います。確かにおっしゃるとおり。でも木造建築である日本の古い建築を未だ我々が見ることができるのには多くの努力がそこにあります。

考えられることは色々ありますが2つくらいを書きますと、まず第一に「権威」や「宗教」の関わる建物は、そもそも建造される段階において一般的に(日本だからという話ではなく世界共通として)「よい材料」「よい技術」で出来ているので、現代の建売住宅とかよりは耐久性がよいことが挙げられます。「権威がすぐ倒れる」とか「永続性を示す宗教がすぐ壊れる」では縁起が悪いといいますか…、説得力がないですからね…。なおここでいう「よい材料」「よい技術」というのは「高級品を使えばよい」とかいう話ではなく(勿論よい素材というのはお高くはありますが)、「危険の少ない土地」に「その気候風土に適した技法材料で」「丁寧に作られたもの」を指します。

第二として、権威性のあるもの、宗教色のあるものなどに関しては、それが大きいほど、そして年季があるほど大事にされ、適正な手入れが常にされるためです。こういう例はちょっと嫌ですが、ユ〇クロの数千円のバッグはお気楽に使えて、雨の日でも雪の日でもどんどこ使うし、ダメになればすぐ捨てるけれども、三桁万円する某ブランドのバッグの場合、雨雪の時に使うのははばかられ、問題が出ると正規店で修理をお願いして長く長く、場合によっては三代にわたって使う感じ、といえば想像できるでしょうか(汗)。

その上でさらにすごい例を考えると、出雲大社や伊勢神宮の「遷宮」のパターンがあります。いわゆる建て直し(部分的補修・修補含む)です。

「遷宮」は非常に特別な形式で、定期的にまるっと建て直すのですが、一般的にはそういうわけにはいきません。でも逆説的に「定期的に立て直す」というのは非常に合理的といいますか、「建て直しそのものが伝統」「建物だけでなく、大工の技術の継承」になるので違和感といいますか拒否感がなくて心理的に非常に不思議なものです。

まぁ、まるっと建て直し形式ではなくとも、多くの場合日本建築においては部分的な修繕などを定期的にしているからこそ現代の我々がそれらを楽しむことができるわけです。

そうすると出雲大社や伊勢神宮のように「まるっと遷宮タイプ」の例が一番わかりやすいですが、我々が見ている出雲大社や伊勢神宮は「オリジナル」ではないわけです。少なくとも先の記事に書きました「物理的な」意味では。

でも「今我々が見ることができる建物が最初に建てられた建造物ではない」からといって「文化財」でも「伝統」でもないかといえばそうではありません。両者の建造物は文化財であったり、その文化的価値が認められています。「物理的にオリジナルではない」のに「価値がある」。先の記事のように「物理的にオリジナルを残せ!」だけであれば話は矛盾してしまいます。

「物理的にオリジナルではない」それでも「建造物的意義と価値の認知」というのはややこしい話ではありますが、これは「遷宮」という名目の下、好き放題に新しい宮を建てているのではなく、オリジナルの素材、オリジナルの建て方、素材の組み方などの「継承」をしているからです。我々は「物理的にオリジナルの建物」を見れるわけではないが、「オリジナルの建物は(通常建て替えないと見えない部分をもってさえも)こうであっただろう」ということが今も見れる、残っている、ということに価値がある、ということです(目で見ることができる、いわばある種の物理的な価値相続です)。

ただ同時に見かけさえ整えばそれでいいのかというとそういう話でもありません。

ここまでですでに話がややこしくなっている気がしますし、長くもなっておりますのでとりあえず本日はここまで。次回はこの続きを書いていきますので、読んでいただけましたら幸いです。

本日はここまで読んで下さり、ありがとうございます。

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