文化財(絵画)保存修復において基本であり、最初に行われると同時に最も大事とされること:「作品を知ること」「作品を理解すること」

修復を学ぶ

先の記事にておいは、医療であろうと、修理であろうと文化財の保存修復であろうと、「若いころの姿」や「新品の姿」に戻すということは物理的にも倫理的にもできないですし、そういうことを求めての処置じゃないよというお話を書きました。

なぜならば、ということで「文化財(絵画)の価値」は「美的価値」だけではなく「歴史的価値」もあるから、というのが基本の考えにあるためです。

これの説明は本当に文字数が必要なので、語弊があるかとは思いますが、簡単にいいますと「ちょっとでも傷や汚れのある作品は、文化財としての価値はない!」という考え方とは異なり、むしろ時を経た上で得たなんらかのものは一見「ダメージ」のように見えても、「価値」であることがあるからこそ「美観」と「歴史」、「ダメージ」と「価値」の間で適正判断をする必要性があり、その適正判断がない限りは「適正な修復」ができないことになります。

だからこそ絵画の保存修復関係者のお仕事は、オリジナルの作品の上から絵具を塗るお仕事ではないですし、最重要な仕事は「絵筆を持つこと」ではない、ということは多少ご理解いただけただろうか…と思いつつおります。

ということで、ここからは「処置に至るまでの絵画(文化財)保存修復における過程」、というお話をしていきたく思います。

最初に実施すると同時に、最も大事なこと:「調査対象を知る」「調査対象を理解する」こと

さて、以前の記事で「絵画作品(文化財)」というのは人間と同様「唯一無二」の存在であり、大量生産されたものとは異なって代替えやスペアがないことから、オリジナルの保持が大事とお話しました。

また医療などの業界では、「病気(事故)したら直せばいい」ではなくそもそも論として「病気やケガをしないような予防的措置」をしようとしているのと同様、文化財(絵画)の保存修復の世界でも「壊れたら直す」ではなく「損傷しないように予防的保存」を考えるのが主流です。

上記のようなことを実現するには、まず何をすべきでしょうか?

それは医療でもそうですけど、「対象を知る」ということがなされます。

実際みなさんがお医者さんに行かれる際、お医者さんにお目にかかる前に一枚紙を渡されます。

そこに「名前、住所を含む連絡先、年齢、生年月日」から始まり

「本日の体温」

「今日はどういう理由できましたか」

「現在かかっている病気はありますか」

「今継続的に使用している薬の有無およびその薬の名称」

「アレルギーの有無」

「既往歴(有の場合は、いつ、どういう病名)」

「妊娠などの有無」などなどを書く必要があります。

さらにそこからお医者さんにお会いして「今日はどうしましたかー」という第一声から問診、触診が始まります。

病院にていろいろな検査が増えていく理由:一般検査のみでは不明点がある場合や、「~の疑い」などがある場合に、「疑われる何か」をより明確にするため

来院理由が風邪などの軽い症状のものであればそこで終わることもありますが、いろいろな疑いが推察される場合に、だんだん検査が増えていきます。

例えば血圧、尿検査、血液検査、心電図、エコー、レントゲン写真、CTなどなどですね。

病院に行くときというのは、放置するのが不安なほど体調が悪い場合であることが多いと思いますが、そんな時にあれこれ検査が多いと「無駄に検査して、お金を稼いでいるのでは?!」とあらぬ疑いを持ち始めて、腹が立ち始めることもあるでしょう(^^;)。

検査だけではしんどさは全く軽減されませんからね。

でも、一般的に病院の検査というのは

  • 患者さんを知る(体質とか、体の強さとか、薬などの耐久度とか)
  • 体調不良の原因を知る
  • ①、②を踏まえて治療方法、対処方法、予防方法を知る

のために実施しているはずです(私は医療の人ではないので、推察ではありますが)。

我々患者の立場の人間からすると、例えば歯医者さんや外科医さんの治療や内科医さんの「お薬出しますね」的なものが見える部分ではあるのですが、実際的にその部分というのは上記の検査を踏まえてのことのはず。

だからこそですが、実際的な「治療が上手」というのは「手先が器用」とか、「処置が高速で流血量がごく少量(患者にとっての負担が軽度)」「切開サイズが小さくて負担が小さい」などの技術は勿論、その手仕事の下には「適正な患者さんへの理解と判断」というベースがあってこそだと推察できます。

手技がどんなにうまくても、患者さんを十把一絡げに見て適正理解をしていなかったり、そもそもに問題原因を見誤っていては意味がないからです。盲腸に対して、神業の便秘の処方をされても救われないのと同じです。

そういう意味も踏まえて、一般的に我々がお医者さん、特に歯医者さんや外科医さんのような「手技」のお医者さんを見ても、「職人」とはいわないはずなのです。

なぜならばそのお仕事のベースには、例え手技のお仕事であっても多くの知識や経験が必要不可欠であることが推察できるからです。

こう長々と非医療現場の人間が書いているのは、

文化財(絵画)の保存修復の世界においてもすべき工程が同じであるからです。

次回はその点について説明したく思います。最後までご覧いただき、本当にありがとうございます。

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