作品を計測することでわかること(4/4話)

修復を学ぶ

3つ前の記事にて、作品を計測することの重要性の触りのようなことをお話しました。

本日はその続きです。

3つ前の記事の箇条書きの5つめ「その作品の処置、あるいは保存のための対処をどのようにするかを考察する基盤となる」についてお話します。

作品の損傷状態を診てもらうためのご依頼連絡の際に、作品の大きさを問われるのはなぜでしょう?

今回の5番目の内容は、我々保存修復関係者がどういう風に処置をしていこうかと考えるための要素として、作品の大きさを捉える、ということです。

例えばよく作品修復に関するご質問などで困ったなぁと思うものの一つとして、お電話などで、「うちの油絵作品が壊れていて、修復を考えているのだけど、金額がわからないと怖いし、だいたいいくらかかるか教えて?」というものです(あるいは、「1作品につき、修復にいくらかかりますか」という質問は、興味本位に何度も本当に聞かれます。回答としては、「作品ごと・損傷状態・どこまで処置するか」で異なりますので、作品をお見せいただかないとわからないです、ですが)。

さて、ここで考えてみていただきたいのは、例えば「ノートサイズ」の作品と、「ふすま2枚サイズ」の作品は、同じ金額で修復されると思いますか?あるいは、「運送費用(単純なガソリン代だけでなく、車のレンタル、運送のための処置費など)」が同じだと思いますか?

単純に考えて、「違う」とご理解いただけると思うんですね。ただ、作品を拝見していないのに、「サイズを言ったから、いくらかかるか教えられるだろ!」と言われましても困ってしまいます。なぜなら、調査前にサイズを聞くのは違う意味があるからです。

修復契約が結ばれる前に、事前に作品の簡易的な調査などを行って、おおよその目安をつけてお見積りがなされますが、その際にも、「作品の大きさ」がどれくらいかは告げてほしい理由の一つは、作品の大きさの違いによって、事前調査にかかる人員や時間が異なるからです(大型の作品の場合、人手が要る場合などもあります。小さいサイズの作品より、大きいサイズの作品のほうが、観察するのに時間を要することが想像できるかと思います。「調査する人間」も時間を有り余らせているわけではなく、予定を立ててお伺いすることになりますので、だいたいこれくらいの時間で済むかな?という予測や人員配備のためにも必要な情報なのです)。

ですので、是非、こういう専門のところにお電話する前に、おおまかで結構ですので、作品のサイズを計測(目測)していただけるとよいでしょう(ノートサイズ、ふすまサイズと先にお話したのも、こういう目測の例として、です。損傷している作品を、下手に素人の方が触るのは危ない場合もありますので下手にメジャーなどで測る必要はありません)。

なお、作品のサイズについては、もし額装されているのであれば、作品自体のサイズ(これは額装を解いてまで計測する必要はありません)と、額自体の想定できる大きさがわかるだけで十分です(さらに言いますと、できることであれば、ご依頼の際、メールなどで、作品の画面裏面の写真がついていると助かります。今回はご依頼のための記事ではなく、大きさ計測に関する記事ですので、ここまでとしますが。汗)。

主に作品を適正保存する処置の選定のために、どうして作品の寸法を計測することって重要になるの?

我々修復関係者が作品の調査や処置を目的とする場合、作品サイズは勿論、額のサイズ、額の入れ子サイズ、額の窓のサイズ、カカリのサイズなど、こまこま色々と計測しますが、こういう作業によって、額が作品にとってのオリジナルか否か、作品の損傷要因となっていないか、どう処置をするかなどを考えるヒントが得られます。

いつの時代の作品でも、作品の「現額縁」がオリジナル(当初の額)ではない、ということはよくあります。例えば、ブログ主が過去に修復した16世紀の作品の場合は、「オリジナルか?非オリジナルか?」の瀬戸際みたいな額を持つ作品でして、これの証明をすることが、作品そのものの元のサイズ(および時代性や来歴)を証明することともなった例でもありました。こういうことからも「寸法計測」が作品の「オリジナル」を証明する一端になるとともに、「オリジナルか、非オリジナルか」でできる処置が変わることもあるので、重要なんだよとお伝えできると思います。

あるいは、ペラの作品(画布画で、木枠に張られていない作品。張り代を持たないものも多い)の場合などは、ペラのままでの保存は危険が多いこともありですので、木枠に再張り込みすることが多くの場合求められます。その際、その作品のサイズが計測されていることによって、処置としてストリップライニングやルースライニングに使用すべき材料の計測、新規木枠のサイズの決定(だいたいは市販の木枠ではどうにもならないので、任意の大きさで発注する必要性があります)、額発注時の額の入れ子のサイズの決定など、色々なことを決める要因ともなるでしょう。

そもそもに、作品(および額)の正確な寸法が分からなければ、作品を運搬する際の箱(あるいは同時に作品を長期間保存するための箱)を正確に作ることができません。契約が結ばれる前の調査段階で、適正に計測することで、実際に作品を移送する際に「箱」をお持ちする必要性がある場合は、事前にこちらで箱を用意する必要性があります。なお、箱が小さすぎれば作品は当然箱の中には入りませんし、箱が大きすぎても、逆に作品が箱の中で遊んでしまい、衝撃が発生するのでよいことはありません。適正サイズの箱、適正な運搬、適正な作品保存は、適正な作品のサイズ計測から始まっているのです。

あ、勿論作品自体にきちんと専用の箱があれば、箱を制作する必要はありません。

本日のまとめ

ここまで4つの記事に分けて「作品を計測する」ことの大事さをお話しましたが、いずれも

①作品のオリジナルの状態(画家自身の意志)を理解する

②作品の来歴(いつどこで制作されたのか、過去にどのようなことをされてきたのか、なぜそのようなことをされたのか)を理解する

③未来へ、半永久的に作品を保存するために、どのような処置が必要となるか

といったことに繋がるということがご理解いただけたかと思います(この分け方は、今回のシリーズでの5つの分け方と少々違いますが、内容としては同じであることはご理解いただけると思います)。

文化財保存修復のお仕事に関わらず、いかなるお仕事でもなんでも、「いわれたからやる」とか、「いつもやっていることだからやる」というような感じのものもあるかもしれませんが、「どうしてそれをやるのだろう」「それをやるとどういった利益が得られるのだろう」ということを考えながら仕事をすると、得られるものというのは多いのかもしれません。

ということで、本日はここまで。

最後まで読んで下さり、ありがとうございます。

コメント

タイトルとURLをコピーしました