ここしばらく紙の記事を書いていますが、3つ前の記事からその中でも羊皮紙の話を書いております。
なお、2つ前の記事や直近の記事でも書きましたが、羊皮紙は一般的には「紙」ではない、ということを前提としてご理解ください。
また、多くの場合この羊皮紙が「絵画」に使われるという機会は決してゼロではないものの、実際「絵画」としての作品を見ることは殆どないこと。そして多くの場合は文字のための基底材(媒体)になってることから、2つ前の記事より文字に関するお話をしております。
また直近の記事におきましては、壁や石、粘土などを基底材として文字を書いていた頃のお話をしました。これらは普通に色々な本で見ることができますので、ご興味がありましたら是非このようなブログをうのみにせず、それらの文献をご照覧ください。
さて過去の記事に書きました石や粘土、そういったものと異なる記録媒体となると他、何があるか。紙、というもので考えるなら、おおよそ最初の紙といったものとしてパピルスを思い浮かべる人もあるのではないでしょうか。実際紙を知るまでの西洋では、書写材料としてパピルスや獣皮を使っていた歴史があります。
ちなみに英語のpepar(ペーパー)、フランス語のpapier(パピエ)、ドイツ語のpapier(パピア)、スペイン語のpapel(パペル)はいずれも古代エジプトのパピルス(papyrus)に由来するのだそう。
パピルスは古代エジプトで考案され、10世紀ごろまで地中海世界一体に広く利用された写書用の支持体です。最古のものは、エジプト第一王朝期の前3000年頃までさかのぼるのだそう。パピルスの製法については、一世紀ごろに書かれた大プリニウス(古代ローマの政治家、学者 23-79)の『博物誌』にすでにあるもよう。
パピルスはカヤツリ草の一種で、ナイル流域の湿地を中心に自生する草木の茎髄部を原料とします。パピルス(正式名称:シベラス・パピルスもしくはカミガヤツリ)を針で縦に裂き、非常に薄くてなるべく幅の広い帯状片にしたものから紙を作ります。裂く箇所が茎の中心から離れるにつれて紙の質も順次落ちていくといわれています。
なお最上質の紙(パピルス)は、かつてヒエラティカ(聖職者用)と呼ばれ、宗教書にだけ充てられていた模様。「最上質」という言葉から、「品質」があることがわかるとおり、実際第二級、第三級といったクオリティの差がパピルスにもあるとされます。
紙(パピルス)はナイル川の水に浸した板の上で織り上げるようにして作る。なぜならその川の濁った水が接着剤として作用するためだとされます。…。え?逆にきれいな水だとパピルスにはならないの?接着力ないの?とめちゃくちゃ気になりますね(汗)。大丈夫じゃないのかなぁ(とブログ主は個人的に思う次第…)。
このように薄く裂いて、ナイル川の水にさらしたパピルスの帯状片を縦方向に並べて、その長さをできるだけ無駄なく利用しつつ板に張り付けていき、両端のはみ出した部分を切り落としていくのだそう。そのあとで前の帯状片と交差するように帯状片を並べて格子状に作り上げる。それから圧搾機で圧迫し、できた紙葉を天日で乾燥させ、さらにそれらを互いにつなぎ合わせていく…(やっぱりナイル川の汚れた水の必要性ってないのでは…と再度思うブログ主。苦笑)。
また、パピルスの表面のざらつきについては、イノシシや象の牙か、貝殻を用いて滑らかにすることでパピルスの表面を滑らかにするにし、紙(パピルス)に光沢を与える。反面この磨く処置の処方に従って、それだけインクを吸収しにくくなることから、パピルスに書かれた文字は薄くなるようです。こういうの、面白いですね。パピルスの美観を採用するか、あるいは文字の見えやすさをとるか、といった感じでしょうか。
ここまでのパピルスの作り方を簡単に言いかえれば、茎を薄く剥がして、きれいに並べた後にたたいてつぶし、乾燥させて作る、となります。が、ここまででわかるように、パピルスを作る工程においては製紙における「漉く」という工程がありません。すなわち細かい繊維を絡み合わせていないので、パピルスは厳密には紙とは言えないようなんですね。なぜなら簡単にいえば、紙とは、木や草の繊維をばらばらにして、薄く伸ばして乾かしたものだからです。こう考えると現代において「紙」というのは非常に身近で、かつ必要不可欠なものでありながら、「それ自体をきちんとわかっている」とはなかなか言い難いものと言えるような気がします。
とはいえ、見た目としてはパピルスは濃いアイボリー色をした、薄くて平らな原始的な紙のようなものであることは、世界史の資料集あるいは美術関係の本で見たことがある方も多くいることでしょう。そういった美観のパピルスに対し、一般的には葦の茎を削ったペンに、油煙のススで作ったインクをつけて「書く」という行為がなされます。
なお、パピルスの物理的特徴として、折り曲げると割れてしまうことから(いわゆる乾燥した落ち葉がぱりぱりになってしまい、折るとぱきぱきとその原型を保てなくなる感じを思い出していただけるとよいかと)、つくされたパピルス紙片を継ぎ足し、巻物のようにして使っていました。つまり、当時の「本」というのは現代の「本」のように、冊子状ではなかった、ということが非常に重要な点です。
パピルスの良さといえば、専用の植物さえ栽培すれば、手間はかかるものの大量生産が可能という点です。勿論粘土や石とは違い、軽く、運搬もしやすく、貯蔵するための場所をとらず、筆記もしやすいというのも良さでしょう(勿論逆に燃えやすいとか、折れて破損しやすいとか、耐久性の問題で考えると粘土や石に軍配があがりますが)。この利点のため、古代エジプトの主要輸出品になるほど大量につくられ、東アジアやヨーロッパに広まりました。
ブログ主自身、子供のための科学教室か何かで、「パピルスで紙を作ろう」みたい企画がなされていたような記憶がある反面、自分自身でパピルスを作ったことがありませんので、パピルスについては自分でも作ってみたいなぁと思ったりします(笑)。
モノをきちんと理解するときというのは、勿論人にもよるかと思うのですが、私は文献の知識は必須であると同時に、可能であれば体験してみるといいと思っているんですね。
だからこそ縁あって羊皮紙を作る経験をさせてもらえたのは本当にラッキーで。また経験したからこそ、文献などの文字情報が「ああ」と納得いく感じもあります。
もしこういうブログなどを読まれて紙などに関する興味を持っていただけたら非常に幸いであると同時に、できることであればこういうブログは話半分に読んでいただけたらとも思います。是非、ご自身で文献や体験をしていただいて、より深い紙の世界へ旅立っていただけたらよいなぁと願っております。
というわけで本日はここまで。最後まで読んで下さり、ありがとうございます。
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