紙ってどんな素材⑱?:動物毎の羊皮紙の特徴の違い:牛、豚

修復を学ぶ

ここしばらく紙の記事を書いていますが、11回目の記事からその中でも羊皮紙の話を書いております。

なお、11回目の記事12回目の記事でも書きましたが、羊皮紙は一般的には「紙」ではない、ということを前提としてご理解ください。

なお、当記事を含む紙シリーズの記事に関してですが、私自身留学中およびその後に個人的に興味があって調べた内容ではありますが、ブログの内容ですのであくまでもレポートや論文に利用するほどにうのみになさらないようお願いします(ま、通常ブログなどはレポートや論文の参考文献にはなり得ないので、その旨をご理解いただければ、当ブログ全体をそのような利用はしないとは思いますが…)。

また、当ブログなどでご興味を持っていただいて、自ら文献などを調べてみよう!という気持ちになっていただけるとすごく嬉しく思います。

ここまで羊皮紙あるいはその周辺に関して書いておりました。また、2つ前の記事ではどのような動物が羊皮紙の素材として使われているかをお話しました。さらに直近の記事では中でも羊と山羊の皮からなる羊皮紙の特徴を少しだけお話しました。ですのでこの記事ではその続きとしまして、同じ家畜である動物でも牛と豚の皮からなる羊皮紙に関してお話します。

牛の皮を素材とした羊皮紙の場合

実のところ、日本語だと羊、山羊、牛のいずれの皮でできたものでも「羊皮紙」ですが、アルファベット言語だともともとは「仔牛」由来の羊皮紙をvellum(ヴェーラム)と区別していたようです。とはいえ、ヴェーラムというのは仔牛の皮のみに与えられた名辞であるというより、書写や絵画に用いる良質な皮をこのように呼んでいるのが一般的である模様。なぜなら一般的には羊皮紙は薄手のものほど良質とされるためのようです。それゆえ今日でも装本業者たちは仔牛、仔羊の皮でなくとも薄手の上物をベーラムと呼ぶことがあるのだそう。

時にはヴェーラムはもっと厳密に「胎内ヴェーラム(スランク・ヴェラム、あるいはユーテライン・ヴェラム)」と呼ばれる生まれたてのあるいは死産の仔牛、仔山羊、仔羊などの薄皮を指すこともあるようです。一般的にヴェーラムは薄くてスムースということで、標準的な高級品であると同時に、生まれたてあるいは死産の動物の場合の皮の場合は最高級の皮紙と評されます。

これはそもそも仔牛の皮というのが(いえ、仔牛に限らず生まれたばかりの生き物皮膚が)薄く、傷もなく、なめらかであることは当然であるとともに、本来「皮のために死産させる」とか「皮のために仔牛を屠る」という順番ではないことから、供給量としても少なく「量産」しがたいものであることが考えられます(よほど裕福な地域や国でない限り、家畜は肉や毛皮など最大限に利用価値がある時点で屠る、あるいはよほどの非常事態において「殺さないわけにはいかない」という事態でないかぎり、「羊皮紙の皮がほしい」、それだけの理由で生き物を殺さないからです。現代では例えばファッション業界で胎児皮を使用する際、母牛ごと屠って胎児を得るという話を聞いたことがありますが、「胎児のためだけに」と思うとどうなんでしょうね…と思います)。そして仔牛など、子供の動物は成獣より当然体格も小さいため、1匹の死産の仔牛などによって得られる皮の量が成獣よりもごくごく少ないことも挙げられます。素材としてそもそも貴重、ということです。

とはいえ、仔牛はうさぎやきつねといった他の動物より大きい皮が得られ、皮質も優れているという特徴があります。また、ベーラムとは本来は大きく丈夫なものを意味する言葉でヴェールなどと同じ語源をもつそうです。皮紙も丈夫で「大きい」ことに特別の価値があったとされます。あくまでも聞いた話だったと思いますが、昔の価値観としまして「大きいことは美しいことだ」みたいなことがあることから、漢字の「美しい」は「大きい羊」と書いて「美しい」のだそう。そう考えると、この羊皮紙の話も頷ける気がします。

なお、薄手のものほど若い動物から得た上物と思いこまれてしまう反面、これは必ずしも正しくはないようです。成熟した動物の厚い皮でも、厚みを上手に削ったり、時には神業的に数枚に剥いだりして薄い皮を得る例も多いのだそう。こうした皮は表面を油でうまく加工すると見かけ上は本物のヴェーラムと大差ないものを作ることができるのだそうで。この加工技術がすでに紀元前から存在したことが、羊皮の遺品から確かめられているという話を知ると、人類の技術向上の背景の面白さを感じますね。。

とはいえ若い皮ほど良質であることは言うまでもなく、その差は製品の肌理に現れるそうです。老いた皮ほど肌が荒く、給水量が多いためにテンペラなどの水性絵具で彩色すると発色や光沢に微妙な差が生じてくるらしいです(こういうのは実際に試してみたいものですね)。彩色ののりの良さも支持体の在りかたとして重要ですね。

ちなみに特に死産の仔牛を使ったものは、西欧では13、14世紀のころまでは、王様や貴族などに献呈する際のとくに華麗な装飾や挿絵を伴う聖典や写本を作る際に用いられた写本に多く用いられたようです。これは描きやすく、また間違えたときに消しやすいためと言われています。英国やドイツでよく用いられています。

豚の皮を用いた羊皮紙に関してメモ程度

直近の記事にて、山羊の皮は毛穴な特徴的で目立つという話をしましたが、その山羊の皮より毛穴が目立つのが豚の皮なのだそう(ブログ主も豚の皮の羊皮紙を見た記憶がないので、あくまでも聞いた話として)。

このような毛穴が目立ちやすいことのほか、宗教上の理由などから写本にはほとんど使用されなかったようです。本のカバーなどには使用されているようですが。

本日のまとめ的なもの

昨年の秋の終わりといいますか、冬の頭頃といいますかといった頃に、牧場的なところに行きまして、山羊も羊も牛もみてきました。勿論生きている動物たちです(^^;)。

そこにいた種類がたまたまそうだったのかもしれませんが、牛の大きさは圧倒的でした。

また、ブログ主は過去に縁あって羊の皮で羊皮紙を作る講習を2回受けているのですが、羊から採れる羊皮紙の大きさはA4サイズ4枚分(つまりA2サイズ位といえばいいのか)だったはずです。生き物の命を頂いて得られる羊皮紙のサイズとして「大きい」と言えばいいのか「小さい」といえばいいのか、ためらわれるサイズであると同時に、結果的に「高価である」理由が納得いきました…。また、きれいな羊皮紙を作成するのに技術や経験が必要なことも。

なかなか羊皮紙自体を見たり触ったりは難しいかもですが、実際の動物を見てみることだけでも、結構いろんな思いをはせることになるのではないかなと思ったりします。

というわけで本日はここまで。最後まで読んで下さり、ありがとうございます。

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