金箔のお話②:金箔ってどんなもの?

絵画の構造

歴史的にいつごろから金箔が作られたのか、詳しいことはわかりません。中国では東晋(317~420)時代から使用が認められるとwiki先生にはありましたが、あくまでも参考までに、ですね。ヨーロッパだと5世紀のビザンチン帝国時代の教会で使われていたらしいけれども、こちらもwiki先生ですので(苦笑)。

日本においてもいつ頃から作られ始めたのかは不明ですが、飛鳥・天平のころの寺院建築や仏教彫像に使用されていた模様。洋の東西問わず、宗教関係に使われがちです。

そんな金箔ですが、現代日本においては別段宗教だけでなく金屏風や、西陣織、漆器・陶磁器、額縁、扇子、襖紙・壁紙、それだけに飽き足らずアイスクリームの上に載せてみたりといろんなことに使われています。

現在では多用に使われる金箔、日本では98%だか99%の割合で石川県金沢市で作られています。ですので、今回はその金沢の箔販売店を見学した上でのお話となります。なお、なぜ石川県金沢市がこれほどの産地になったのだろうという疑問がありますが、かつては江戸時代最大の供給源だった「江戸箔」というものもあったらしく、時代の変遷や運、そして土壌のようなものも関係あったのかもしれません。石川県は漆器・陶磁器でも知られている上、特に能登地方の仏壇は大きいので、地産地消的に使う機会も多かったからかも、とか。

製造工程① 金合わせ

金箔はいわば金の塊を叩きに叩いて非常に薄い平面に伸ばしたものを指しますが、実際の製造においてはそんなに簡単な話ではないようです。ひとつは「金箔」とはいえ「金のみ」の箔というのは一般的には販売されていません。なぜかといえば、「金のみ」だと非常に扱いが難しいからです(金の混合率の高い箔ほど、制作時の扱いが難しいので、いわんや製造する時をや、です)。一般的に「金箔」は金以外に銀やら銅やらが混合された金合金なのです。こういう作業を「上澄屋」さんが「金合わせ」という仕事としてやっています。

なお、部分的に私が話を伺った製造販売店独自の商品もあるので「日本基準」とかそういうのではないのですが、おおよその合金の割合としては

最も金の配合が多いもの:五毛色:金含有量 98.912%

一合色:金含有量 97.666%

二合色:金含有量 96.721%

三合色:金含有量 95.795%

四合色:金含有量 94.438%

梅色: 金含有量 90.498%

三歩色:金含有量 75.534%

定色: 金含有量 58.824% :私の記憶が定かであれば、この含有量以上のものを「金箔」として「定め」ているから「基準的な配合量」として「定色」という名称だったはず…です。

この他、銀箔は純銀100%、銅箔も純銅100%。これに対し、「洋金」と呼ばれるものが日本にはあるのですが、例えば洋金三号色は純銅85%と亜鉛の混合物、同じく洋金四号色は純銅87%と亜鉛の混合物のようです(これももしかしたら製造販売のお店によって配合は異なるかもしれませんので、あくまでも参考までに)。

ここで誤解があるのが「洋金」という名前。実際に欧州にも金箔は存在しますが、「金」の配合がないかというとそれは違います。私が知っているヨーロッパ情報はベルギーのものですので、全ヨーロッパでそうですよという話ではないのですが(何しろ日本の金箔だって、一部「その店オンリー」のものがあったりするし…)、金の割合の高いもので94%、低くとも60%は入っているのか…という印象です。あとは金の配合が75%なのを基準に、純銅と純銀の配合の変化で箔の色味を変えたりしている感じがします。ですので、おおよそ日本製のものでいう四合色から定色くらいのものが一般的に製造販売されているので、日本の洋金が欧州で使われている金箔というわけではないことはご理解いただければ。

ここで手持ちの資料をみていましたら、WW1によってドイツ箔の供給が止まったころにドイツに日本の箔が進出したという記載があるので、上記のベルギーの箔の割合の規準も、もしかしたらドイツに進出した日本の箔の割合などとも関わっているのでしょうか…(ただ、WW2には壊滅状態、と資料にあるのでこの時期にはドイツどころか日本でも製造販売していなかったのかもですね)。あんまりこういうことに関する資料が手持ちにないので、想像だけが膨らんでいくのですが。この割合の一致が偶然なら何か具体的な制作上あるいは美観上の理由があるはずなので、気になるところです。

なお私自身もいろんな種類の金箔を触ったことがあるわけではないので、自分の数少ない数種類の箔を扱った経験および、彫刻の修復専門で様々な種類の金箔を触ってきた方の経験によるご意見を参考にすると、制作とかでも一番使いよい上で見た目もきれいなのが四合色の箔だそうで。だからなのか四合色は製造販売の立場からしても「標準色」とされているよう。京都の金閣寺の修復などに使われているのもこの四合色だそうです。

実際の使用感としては(私は四合色以上に金配合の高いものを使ったことがないのでこれは他者さんのご意見ですが)四合色から金配合が上がると扱いにくい反面、色味のきれいさや継ぎ目が見えにくくなる良さがあったり。逆に四合色より金の配合が下がると、不器用でもある程度使いやすさがあります(逆に箔に慣れていると、金の配合が少ない方が使いにくい部分もあります)が、継ぎ目が残りやすいなどの物理的な問題があります。

ま、とはいえワインのテイスティングのように、作品に使われている金を目視で「あ、あれは定色だ」とか「あれは三合色だ、いいの使ってるな」とかそういうところまではわかりませんが(汗。私の舌は雑なので、そもそもに食べものとかのテイスティングもできませんが。滝汗)。あ、でも勿論機材を使えば作品を破壊せず(「非破壊」といいます)使用金属の原子構成を見ることができますので、「定色」か「三歩色」か「四合色」かくらいは判別つくかな?

でも、単純に「箔」といってもいろんな種類があるんだーと知ったり、洋の東西にも関わらず「金箔」の金の含有量の最小率が同じであることに気づくと、奥深く、興味深い感じがしますよね(私だけですか?!)。

というわけで本日はすでに長くなってしまったのでここまで。本日も当記事を読んで下さりありがとうございます。前回と今回で金箔の話、十分だなと思ってのこれなので私自身もどうよ…と思いつつ、次に続きますので是非読んでいただけたら嬉しいです。ではでは。

#金箔 #技法材料 #文化財保存修復 #油絵保存修復

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