金箔のお話⑤:こぼれ話

絵画の構造

ながながずっと金箔だけの話をしてきて、まだ書くことがあるのかと言われそうですが…本日はごく簡単なこぼれ話だけ(実はまだしばらく金箔の話は続きます…)。

保存修復という専門においては技法材料、素材の熟知は非常に重要なことではありますが、逆説的にこういう話を聞いて、今まで美術とか宗教とかアイスクリームの上の金箔とか、全然興味なかったけど、なんだか興味がでてきました!みたいな人もでてきてくれたらいいなぁと思いつつ。

そうすると、実際に「金沢で金箔買いたい!」という方もでてくるかと(勿論世の中ネット販売があるわけで、そちらで購入するとお手頃ですが)。で、実際購入する際に「金箔のお話②」でお話ししました金と銀と銅の配合率みたいなことの他に、多分「縁付」と「断切」という2種を見つけることもあるかな、と思いますのでそのお話を。

ここ数年私自身が「箔」を実店であろうとネットであろうと購入していないのでどうだろうなとは思うのですが、一般的に「縁付」は「断切」と比べてお値段がお高かったはず…と記憶しています。というのは前者は「伝統技法」で作られていて、後者は「量産型」らしいからです(量産型とはいえ、別段工場的に生産できるわけではないので、いうほど「量産」なんだろうか…とど素人の私は思うのですが…)。

ちなみに「伝統技法」のほうの「縁付」において、金箔打ち紙には手すきの雁皮紙(兵庫県西尾市製造)を使用するのだそうです。先の記事にも書きましたとおり、箔の質は打紙の質次第、ということですね。

この雁皮紙の紙仕込には藁、卵白、柿渋を用います。すなわち、藁を燃して熱い内に水をかけ、それによってできた水(灰汁)に、卵白と柿渋を混ぜ込んだ液に雁皮紙を漬け込むのです。そうすると紙に艶と強度がでるのだそう。それを機械で打って紙仕込をするのだそうです。

先の記事や上記のようにただ金合金を叩けばいいという話ではなくて、その前段階の準備なども結構大変そうであることが伺えますね。

なお、私自身作品上に使用されている「縁付」と「断切」の見た目の区別がつくかというと、高確率で区別がつかないでしょう…。工芸家の方とか、普段ふんだんに金箔を使って作品を作っている方だったら、使用感とか見え方とか、表現上の問題とか、そういう形で「縁付」と「断切」の区別がつくんでしょうか(でも実際自分で触らないとわからないですよね。出来上がった作品だけではどうにも…苦笑)。

ただ、金箔部分の欠損の修補をする場合、普通の絵画層の補彩をはるかに上回る形でわずかな艶や色味の違いでも顕著になるため、これは非常に気をつかいます。時間に余裕がある場合なんかは、私の場合に限りますが、いくつか模型的なものを作って、色合わせ・艶合わせをしてから、本作の処置にかかるくらいなので、こういう点も金箔の特殊なところですね。

ちなみに先の記事で金箔の4種の大きさについては詳細に書きませんでしたが、以下小さいものから10.9cm、12.7cm、15.1cm、21.8cmの四種類となります。

不思議と半端な大きさだなぁとお思いになると思いますが、これは寸尺に直すと「ああ」となるはず。すなわち、小さいものから3寸6分、4寸2分、5寸0分、7寸2分なのです。こういった箔の大きさからも、伝統に則していることが見えて興味深いと思うのです。

加えてなんでここまで「箔」は薄くしなければならないのですかという疑問もあると思います。特に西洋絵画の黄金背景模写をやると、金箔は1層のみではなく複数層重ねて使用しますので、「もともと厚かったら楽なのに…」と思うところではあります(苦笑)。

でもこれには理由がありまして、金箔は厚いと艶がなくなる上、微細な個所に張り付けることができなくなるためなのだそうです。そうすると上記のように複数枚の金箔を重ねて貼ると最終的に艶がなくなっちゃうじゃないですかと思うところですが、西洋絵画の技法材料の場合それは「磨く」ことで解消できたりします。

この「磨く」という技法はおそらく同じ金箔を使用する「日本画」の場合はできない、あるいは実際やってみたところでおそらく西洋絵画と同じ程度の艶を得ることはできないはずです。それは伝統的な「日本画」の技法が劣るとかそういう「評価」的な話ではなく、単に「物理的にできない」ということと、「日本画が求める美観」としてあと多分西洋絵画が求めるほどの艶は求めていもいないでしょうね。そういう洋の東西の違いを思いながら、双方の作品を色々鑑賞してみても発見することが多いかと思うのです。

日本の伝統でも、西洋の伝統でもそうなのですが、「伝統」とか「古典」と言われるようなものは、一般的に「退屈だ」とか「つまらない」と言われがちではあるんですよね。でもできうる限り「本物の作品」と出会って見てみてほしいなぁと思いつついます。特に金箔とか「箔」関係は、光によって見え方が本当に違うものですので、写真で撮影した「その作品のほんの一面」だけを見ても、その良さが伝わらない気がするのです。

というわけで本日はここまで。当記事を最後まで読んで下さり、ありがとうございます。ではでは、また。

#金箔 #技法材用 #文化財保存修復 #油絵保存修復

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