絵具は何からできている?:接着成分の違いに伴う具体例を見る②

修復を学ぶ

先の記事にて、絵具というのは非常におおざっぱな言い方をすると「顔料(色担当)+〇〇(接着成分)」ででき、この「〇〇」の部分を変えると、水彩になったり油彩になったりするとお話をしました。

また、いくつかの例を示しました。

本日はその続きで、前回ご紹介できず、また興味をもっていただけるかなと思われるものをご紹介したく思います。

「墨汁」と「墨」は何が違う?

まずは墨です。ちなみに墨汁と墨は素材が違います。なのでまずは墨のほう。

墨は「煤(色の部分)+膠(接着成分)」からできています。

この煤を採る材料によって墨の名前は異なり、植物油(日本の場合は菜種油)を燃やしてできた煤を固めて作ったものを油煤墨(茶色を帯びていることから茶墨とも呼ぶ)、松を燃やしてできた煤を固めて作ったものを松煙墨(青味を帯びているため青墨ともいう)というようです。

油からできた煤を水性の膠で練るのかと思うと、少し不思議な気がしますね。

これに対して墨汁のほうは「色担当+ポリビニルアルコール」からなるそうです。

顔料の部分を「色担当」としていますが、墨汁の色として「煤」を使っているのかと、筆者ブログ主自身、疑問です。

実際やってみるとわかるのですが、煤をとるのってすごく大変なのです。

それを合理性と大量生産のための墨汁に、そんな手間は省くのではないかと。

ですので、とりあえず「色の何か」とだけ。

これに対して接着成分にはポリビニルアルコールが使われているとの記述は見つけました。

ポリビニルアルコールとは、我々の身近にある商品だとアラビックヤマトがポリビニルアルコールだったと記憶しています。

下敷きとかに塗り広げて、乾燥させると透明かつしなやかな塗膜ができる素材です。

この成分は20%溶液くらいまでだと水に溶解するそうですが、殆どの有機溶剤に溶解しない性質を持ちます。

また、その溶液はデキストリンやアルブミン、アラビアゴムに似ているとされています。

ですので、水彩絵の具のメディウムにも使われている素材だったりするようですね。

ポスターカラーは何からできている?:「顔料」+「●●」

上記にデキストリンがでてきましたので、「顔料+デキストリン」を組み合わせると何になるかというと、ポスターカラーです。

ブログ主が中学時代のころによく使った素材です。

デキストリンは簡単にいうと、でんぷんと糖の混合物です。

表具の修復の際に小麦粉からつくった糊を使いますが、でんぷんとか糖というのは、べたべたしてくっついて、そして乾燥すると固まる身近な素材ですよね。

そういうでんぷんを200度から250度に熱して作ったものがデキストリンのようです。

アクリル絵の具はどういう絵具?

ポスターカラーがでてきたところで、中学高校で使っていそうな絵具にアクリル絵の具があります。

アクリル絵の具は使用中(乾燥するまでの間)は水に薄めて使える反面、一旦乾燥すると水に不溶性になります。

しかも乾燥(固化)するまでの時間は油絵絵具と比較すると非常に早い性質があることから、絵具の重ね塗りがやりやすいという、いわば水彩と油絵具の良いとこどりをしたような絵具です。

このアクリル絵の具が何からできているかといいますと、「顔料+アクリル樹脂」からなります。

アクリル樹脂自体は水に溶けないのですが、これがいわば、絵具中においては顔料と同じに、水中に分散した形になっているらしいのですね。

だから、水が蒸発しない限り樹脂は乾燥しないですし、絵具は水に溶解したような状態にもなれるという仕組みだそうです。

開発した方、すごいですね。

とはいえ絵画は「絵具」のみからできているのではない:最低限でも「絵具を支えるもの」が必要で、この「絵具を支えるもの」と「絵具」との相性が重要

さて、このように絵具をご紹介してきましたが、

当初お話しましたとおり、「絵画」は「絵具(表現するもの、描く素材)」だけで成り立っているわけではありません。

この絵具を支えるものが必要です。

加えて、「絵具」と「支えてくれる素材」の間には相性があります。

具体的にいいますと、ガラスの上に水彩で絵を描くことはできません。

美術館や博物館で、紙の上に描かれた油絵を殆どみないのはなぜでしょう。

和紙の上にパステルで描くことは全くの不可能とはいいませんが、困難です。

「こういう絵具を使う場合、〇〇の上に描く」というスタンダードが根強く存在するのは、

「スタンダード以外の組み合わせを挑戦する者がいないから」ではなく、それが「表現上」、そして「半永久的に残す」ための最適さを考えた場合に、「絵具と絵具を支えるもの」の間には「よい相性」「悪い相性」というものがあるからと捉えるべきでしょう。

というところで本日はすでに長く書いておりますので、ここまで。

最後までお読みくださり、ありがとうございます。

※参照:・主催・東京藝術大学、NHK、NHKプロモーション、よみがえる日本画――伝統と継承・1000年の知恵――、平成13年、p.32

    ・R.J.ゲッテンス、G.L.スタウト、森田恒之訳、絵画材料辞典、美術出版、1999年、p.77

    ・監修・森田恒之、執筆・森田恒之、横山勝彦、小泉晋弥、降旗千賀子、井口智子、絵画表現のしくみ――技法と画材の小百科――、美術出版社、2000年、p.37、70

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