絵画は「絵具」だけからなるものではない:「描くもの(絵具)」と「絵具を支えるもの(支持体・基底材)」との相性の大事さ

修復を学ぶ

先の記事にて、「絵画」は「絵具」だけからなっているのではなく、少なくともそれを「支える素材」がなくてはどうにもならないと書きました。

また、その「支えてくれる素材」が何でもいいわけではなく、「絵具」のような表現する素材との相性を考慮する必要性がある旨を書きました。

過去にも似たお話を書いてはおりますが、重要なお話ですので本日はそういうお話をしようと思います。

「描くもの(絵具)」と「絵具を支えるもの」

美術館・博物館に行きますと、作品の近くにキャプションというものがありまして、そこには作者名、作品名、制作年代だけでなく、例えば「oil/canvas」あるいは「キャンバスに油彩」のような形で最低限の技法材料の情報を教えてくれます。

最低限の技法材料というのが、「支えてくれる素材」と「描くための素材」だったりするわけです。

画家に限らず、立体作品でも、書でも、テキスタイルでも、「物を作る人」は、作る作品のイメージを表現できる技法材料を選択します。

同時に、いかなる画材や素材であっても、万能な素材というのは存在しません。

万能というのは、「他の素材との組み合わせ」というのも含めて、です。

作品は、異なる素材の組み合わせでできている : 作品を生かすも殺すも、素材の組み合わせに関わってくる

本来、制作者は単純に作品のイメージだけでなく、作品を構成する全ての素材における特徴および制限などを克服し、生かして、制作物を作り上げます。

ですので、「よい作品」というのは、作者のイメージに最も適切な色彩や形状をもつと同時に、最もその表現に適した素材と技法を用いたものであるといえます。

というか、そうあってほしいものであります。

例えば、先の記事にも書きましたが、ガラス板の上に水彩で描くことはできないことは、想像に難くないと思います。

あるいはガラス板を金属板にしても同じです。

もっと言えば、金属板は水に触れると錆びるので、ガラス板よりなお、わけが悪いかもしれませんね。

ですので、描くための素材と、それを支える素材との相性というのは表現だけでなく、その保持のためにも非常に重要となります。

ちなみに、こういった「絵画表現を支える素材」を「支持体」あるいは「基底材」と専門的には言います。

まあ、あまり美術館で作品鑑賞する際に、好んで支持体のみを楽しむ方もいないと思いますので、その重要性はちょっと伝わりにくいかもしれません。

ですので、例えば家やお化粧で考えてみましょう。

家にせよ、お化粧にせよ、どんなに仕上げの装飾を飾っても、土台(ベース)がきちんとしていないとどんなに上からごまかしてもうまくいかなかったり、崩れやすかったり、問題がでやすかったりしますね。

ですので、土台、基礎というのは侮れません。

例えば、過去の記事にて、パステルで表現する際はよく支持体に紙を使う反面、和紙は使わないと書いたように記憶しています。

同じ紙なのに、なぜでしょう?

あるいは、同じ西洋由来もので、パステル用の紙と水彩用の紙がありますが、その両者を混同して使ってもよいのでしょうか?

先に回答をいいますと、やめたほうが無難です。

「適正な素材の組み合わせ」には理由がある

先述では、パステルを水彩用の紙の上で用いたり、あるいはケント紙で用いることなどはあまりお勧めできないと書いていることについてのお話をしていくと、例えば水彩用(透明水彩用)の紙が大事にしている部分は、吸水性です。

透明水彩の場合は、絵具をわざとにじませたり、ごく薄く絵具を伸ばす必要性があるので、高級なものであると、いっさいサイジング(紙の表面に膠などで糊付けし、にじみ止めをすること)を加えないものとなるようです。

また、紙の表面は製図用のケント紙とはことなり、やや目の粗いものとなっています。

こういうのも、吸水や絵具の乗り、発色などに関わるので大事なんですね。

これに対してパステルは、いわばチョークみたいな棒状の塊で、別段水で溶かしたりして使うことはありません。

ですので、支持体である紙が吸水性などを持つ必要性はありません。

むしろ、パステル用の紙にとって必要なのは、たやすくへたらない凸凹です。

パステルがどのように紙に色を残すのかといいますと、

紙が大根おろし、パステルが大根のような感じで、紙でパステルを擦り下ろすような感じなんですね。

また、その削られたパステルが、紙の凸凹の内部に入り込むことで、たやすく紙からパステルが落ちないような仕組みになっています。

ですので、パステル用の紙には、大理石粉がすきこまれているものもあります。

「専用の紙」というのは、こういった感じで「表現のために使われる絵具」がより豊かな表現ができるようにできているからや、「実行した表現が、一瞬だけではなく、できるだけ長くその表現が保存できるような機能を持つもの」なんだなというようなことが、ほんの少しでもご理解いただけたらと思います。

本日のまとめ

また今回は、想像しやすいように「紙」や「パステル」を例に挙げていますが、あくまでもこれらは「紙」や「パステル」に限定しているお話ではなく、あらゆる技法材料、あらゆる作品において共通のお話であることをご理解いただけると幸いです。

またとりあえず、本日は「絵を支えるもの」のというのが専門的には「支持体」「基底材」と呼ばれることを覚えて頂けたらと思います。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。

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