絵画を断層状態で観察する:「絵画を支えるもの(支持体・基底材)」をもう少し詳細に観る

修復を学ぶ

ここしばらくの記事にて、「絵画」は「表現を支えるもの」と「描くためのもの」からなるとお話しました。

また、「描くための素材」は一般的に「絵具」ですが、「表現を支えるもの」は専門的に「支持体」や「基底材」と呼ぶことを直近の記事にて説明しました。

ただ、実のところ、絵画というのは「支持体(基底材)」と「絵具」だけでできているのではありません。

特にテンペラ画や油彩画は、何層もの層構造からなるため、どういう層からなるのかなということを理解しないと、作品への理解にはなかなか追いつきません。

ですので今回は、油絵あるいはテンペラ画などがどのような層構造からなるのかを見ていこうと思います。

絵画(主に油絵やテンペラ画など)を断層状態で見ると、どんな感じ?

まず絵画の保存修復を学ぶ際に必ずでてくる図なのですが、一般的かつ理想的な層構造はこんな感じですね(図は『油画を読む展』図録を参照。これは「図録」と書いておりますが、用語説明なども含めて非常に有用ですので、もし絵画の保存修復を学びたいなぁという場合で、かつ購入可能な状態であればお買い求めいただくことをお勧めします。藝大美術館で購入可能…かな?あ、別にこれを購入したからとて、ブログ主には何も利益はございません。苦笑)。

構造の下部分から、「支持体(基底材)」「前膠(下膠、目留め)」「下地層」「地透層(絶縁層)」「絵画層」「保護層(ワニス層)」となります。

図が2つあるのはなぜかといいますと、図の下のほうを見比べていただけるとよいのですが、「絵を支えるもの」、すなわち「支持体(基底材)」が布である場合と、木材である場合のパターンで示されています。

なぜこの2パターンで表現されているのかといいますと、大多数の油彩画(テンペラ画含む)の「支持体(基底材)」はだいたい布か木材であるため、非常に基本的な構造を示すからです。

というところで作品の下部分、「支持体(基底材)」からお話していきましょう。

「支持体(基底材)」って?:すなわち「絵画」を支える存在です

先ほど、布や木材が支持体(基底材)のスタンダードだと書きましたが、

例えば布といってもいろいろありますね。

具体的には亜麻や麻、綿、絹、化繊のほか、時代としてはジュートの使用などもあります。

木材のほうは、国や地域、時代の兼ね合いがありますのでそれぞれですが、オーク材(ナラ)や、ポプラ、菩提樹、シナ、モミなどが使われているようです。

また、布や板はスタンダードですが、逆をいうと、非スタンダードなものも支持体(基底材)に使用されていました。

例えば、軟質支持体としては、羊皮紙や紙が挙げられます。

他方硬質支持体としては、壁面、金属版、石板、ガラスや近年ですとキャンバスボードといったものも挙げることができます。

こういった支持体に限らず、作品を構成する全ての層が、作品に対して「美観」と「保存」の2つの意味合いにおいて役割を果たしています。

例えば、画材屋さんにいってみるとよいのですが、同じ油絵用の画布でも、織りが粗いものもあれば、非常に織りが緻密で目の細かいものがあります。

ただ単に布の素材が何であればいい、というだけでなく、どういう織りのものがほしいのかで、美観が左右されます。

あるいは、大作なのか、小作品なのかで異なる織り方を選択しているのかなといったような画家さんもいます(ご存命の画家さんの作品を扱うことが私自身ありませんので、画家さんから正解を伺ったことがありませんが…)。

支持体によっては、絵具の固着が悪いものがあったり、あるいは湿度変化などで膨張収縮しやすい支持体もあります。

衝撃に弱い支持体もあるでしょうし、振動に弱い支持体もあるでしょう。

時代によっては、同じ大きさの支持体でも、その素材によって全く金額や労力が異なるものがありますので、注文者などの財力などが全く関わらないとも言い切れないと思います。(正直、よい素材ほど高額であるのは世の常です)

ですので、支持体(基底材)を眺めるだけでも、ポテンシャルとして壊れやすい傾向があるのかどうかや、作者の意図としてどのような美観を目指していそうなのか、時代背景としてどうだったのかなどを考察する手がかりになります。

(これらやあるいはそのほかのあらゆることを、一か所だけの観察でわかるというわけではなく、あくまでもヒント的なものが得られるという感じです)

ごく簡単に、本日のまとめ?まで

実際、日本の美術館博物館で作品の裏面を観るというのは難しいのですが、海外の美術館の場合、観音開き形式の多翼祭壇画なんかは、普通に裏面が見れる形で展示がされているので、裏面が見れる展示の場合は、是非見てみてほしいところです。

あるいは、美術館・博物館のキャプションには「布に油彩」や「oil on canvas」のように素材の組み合わせが最低限記載されておりますので、そういう点も含めて作品を鑑賞しますと、新たな発見などもあるかもしれませんね。

本日は以上まで。

最後まで読んで下さり、ありがとうございます。

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