なぜ油絵の下地には「体質顔料」を「色を担当する粉末」の主体にできない?④:「屈折率の理解のために」-ある物体を、その物体の屈折率と近似値の別の物体で覆うと?-

修復を学ぶ

ここしばらく絵画(主に油彩画・テンペラ画)の構造についてお話しておりますが、中でも特に「下地層(地塗り層)」のお話を詳細にお話させて頂いています。

直近の記事では、「屈折および屈折率」のお話の簡単なお話をしました。

これは体質顔料と顔料の違いを理解するため、ひいては水性地や油性地といった下地に関してや、絵具での理解を深めるためですので、説明が分かりにくかったら申し訳ないですのが、もう少々お付き合いいただけたら幸いです。

もう一度、光(波動)の「屈折」と「屈折率」のお話を

さてさて、先の記事でも、物体を見る際には、「物体」「光」「目(ひいては脳)」が必要だとお話しました。

その上で、この地球において、我々人間が物体を見る際には、おおよそ必ず物体の周囲には空気があること。その見るべき物体の周囲に空気がない場合だと、まぁ、なかなか地球上で「真空」ということはないだろうという前提の上で、例えば水に物体が浸かっているとか、ゼリーに覆われているとか、アクリル、ガラスに隔てられているなどの状態になっていると思います。すなわち、物体と目の間は、地球上においては「真空」ということではなくて、何かがあることを日常生活を思い返してください。空気って、目に見えないのでわすれがちなんですけど(^^;)。

この通常物体を取り囲む空気にも屈折率というものがありまして、これがおよそn=1という数字で表されます(0度、1気圧の場合に1.000292となるようです)。これに対し、水や油、樹脂、絵具の顔料の屈折率はn⋗1となります。ブログ主は屈折率の専門家ではありませんので、断言はできませんが、それでもだいたい絵画に関わる物質の屈折率は数字として、空気よりも大きいことが一般的です。

これだけの説明だと、もう、ちんぷんかんぷんですよね。私も別に物理化学が専門ではありませんので、なかなかかみ砕くのが難しいところです(汗)。

もしかしたら物理の専門家からすると、「それは違う」と言われそうですが、ブログ主はこういう風に理解しているよ、という話を以下にするのですが、二つ(あるいはそれ以上)の物質の屈折率が近ければ近いほど、我々人間の目では認知しにくく、逆に複数の物質の屈折率の差が大きいほど目に見えやすい、ということです。

先の記事を復習すると、「屈折率」は光(波動)の「屈折」と関係性があるわけですが、この「屈折」は「光や音などの波動が、ある媒質から別の媒質に進むときに、その境界面で進行方向を変えること」を指します。この「進行方向の変更」は、「媒質A」と「媒質B」における光の波動の進行速度が異なるから生じるわけなのですが、これをどう視覚として確認しているかといいますと、例えば「大気」と「水」などの異なる物質の「境界線」での光の屈折を「輪郭線」のように我々はおそらく認知しているのだと推察します。

違う言い方をしますと、一般的にこの地球上では(一般的な人々は水中ではなく)大気の中で生活している上、その大気に覆われている多くの物質は大気と全く異なる「屈折率」を持つから視認することができる。逆に物質Aと物質Bがほぼ似た「屈折率」を持つとして、物質Aが物質Bに完全に覆われた状態にある場合(それでも物質AB共に、大気には包まれていないと条件としてはおかしいので、「物質Aを覆った物質Bの周囲には大気があるとする)、おそらく視覚として物質Bを視認することは可能でも、物質Aも一緒に視認することは困難」であると考えられます。

ある物質を、その物質の「屈折率」と同じ(あるいは近似値)の物質で覆うと、視覚的にどうなる?

上記に関わる実験がなされているサイトを発見しましたので、そちらのアドレスを以下にコピペするのですが、こちらの実験は高吸水性ポリマーを使ったものとなっています。ほぼほぼ水の塊のような高吸水性ポリマーは大気の中では簡単に視認できますが、水の中ではほとんど視認することは難しくなってしまいます(参照: 【屈折率】隠れても、水はすべてお見通し | 自由研究におすすめ!家庭でできる科学実験シリーズ「試してフシギ」| NGKサイエンスサイト | 日本ガイシ株式会社 参照日:202年11月3日、外部サイトですので、自己責任でご覧ください)

面白いことに、もともとは同じ「水」からできる「氷」ですが、ほんのわずかながらこの両者の間の「屈折率」は異なります。とはいえ、一般的に想像する「氷」あるいは「水に浮かぶ氷の画」というのは、「氷」がまるまる見えている図を想像するのですが、BARで使われるような氷を想像されるとよいのですが、「屈折率」計測がなされている「氷」はいわゆる不純物も空気も含まれない「氷」を指します(お家の製氷機などで作る氷には不純物あるいは空気が含まれることから、どうしても白っぽい見た目などになります)。こういった不純物や空気が最大限含まれれない氷を水に入れると、おおよそ見えなくなるはずです。たまに角度の関係で輪郭が認識できる程度で。

ただまぁ、「水」と「氷」の関係性はもともと「同じ水」じゃないかということもありますので、理解しやすいのですが、勿論これは異なる物質同士でも、屈折率が近似値同士であれば同様となるでしょう。

上記の実験サイトは視覚的な説明がありますので、私のつたない言葉での説明より、物体とそれを覆う物体の「屈折率」と「見えること」ということの関係性が非常にわかりよいと思います(^^;)。

私が本来お話したい「水性地に使う素材」と「油性地に使う素材」がどうして異なるのか、というのがここにかかってくるということとも、ようやく繋がってきました(長かった…!)。

本日のまとめとして

私たちの身の周りには、実際全ての物体がすぐさま「大気」にのみくるまれているわけではなく、実は他の物体(水とか、ゼリーとか、アクリルとか)にくるまれているものってあったりするんですね。

だからこそ、モノによっては、他の物質にくるまれることで、「見えやすく」なることもあれば「見えにくく(見えなく)」なることもあるんだ、ということが今回伝わればいいなぁと思っております。

多分…ではあるのですが、こういう「視覚トリック」(?)的なものって、絵画だけのことではなくて、おそらく日常的なことだとか、動物の擬態とか、それを利用した科学的製品とか、ありそうなのが化粧品だとか、そういうのって周りにいっぱいあると思うんですよね。

また、こういうややこしい話がちょこちょこ、保存修復の話をする際にでてくるのですが(特に西洋絵画保存修復の場合は)、だからこそ、こういう仕事は「職人的なお仕事」ではないんだなということのご理解に繋がればいいなぁと思いつつおります。

というわけで本日はややこしい話でしたので、ちょっと短めにしてみましたが、最後まで読んで下さりありがとうございます。

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