光学調査:X線(レントゲン写真)ってなあに?①

修復を学ぶ

しばらく諸事情で異なるシリーズを挟んでおりましたが、光学調査シリーズの中では直近にて、作品調査の方法のひとつである「光学調査」の中でも「紫外線蛍光写真」についてお話しました。

本日は「光学調査」のお話の続きで、「X線写真(レントゲン写真)」についてお話していきます。

X線(レントゲン)写真って、どんなもの?

X線写真、別名レントゲン写真といいますと、おおよそご自身あるいはご家族やお友達など、周辺の方が父度は歯医者さんなどで撮影されたご経験がおありのように思いますので、どういうものかということはイメージ可能かと思います。

このX線(レントゲン)写真と他の撮影方法との違いを近いするために、まず簡単に他の撮影方法である「ノーマル写真(マクロ、ミクロ、側光写真含む)」「赤外線写真」「紫外線写真」と分けて考えますと、「ノーマル写真」は作品の美観、外観の記録を目的とする方法です。

次に「赤外線写真」は作品の絵画層の下にわずかに透過するため、下絵の観察などに向く方法でした。しかしながらいかなる絵画層の厚みでも、いかなる下絵の素材でも下絵の全てを拾えるわけではありません。下絵の素材には炭素(C)が含まれていることが条件としてありました。

最後に「紫外線」は物体に当たるとすぐに反射してしまうことから、作品の表面の情報、すなわち油絵作品やテンペラ作品の場合であれば、ワニス層の有無及びその状態、あるいは補彩や加筆の有無やその状態の観察に利用される方法です。

これらのいずれの方法をフィルム撮影するとどうなるでしょうか(今はデジカメが主流ですので、フィルムカメラを使ったことがある方がこの記事を読まれている割合は少ないかもしれないですが…。汗)。

上記のような、ノーマル、紫外線、赤外線のような撮影方法の場合、「カメラの中」にフィルムを設置して撮影します。つまり作品に可視光、紫外、赤外に関わらずそれらの光を当てて、それらの光が作品の表面などより反射してフィルムまで届くことによって記録としてとらえるというのがここまでの光学調査の共通点です。

それに対し、撮影の状態から、X線(レントゲン)撮影は異なります。

ベルギー王立文化財研究所/ KIK/IRPAから頂いた資料より、1:基底材、2:下膠。3:下地層、4:下描き、5:絵画層、6:グレーズ(絵画層の一種)、7:ワニス層、8:補彩、9:デジタルカメラないしはX線フィルム、IR:赤外線、UV:紫外線、RX:レントゲン写真

上の図をご参照ください。図の下半分の7(~8)層ほどの重なりは、絵画作品を層状として見た状態です。その層状の部分からわずかに離れたところにある長方形が、各種「フィルム」です。さらに、IR、UV、RXというアルファベットとともに矢印が描かれていますが、IRは赤外線、UVは紫外線、RXがX線を示します。

さて、X線と他の光線(IR、UV、上の図にはないですが、可視光線も)との違いは何かは想像できますでしょうか?

X線は、波長の反射を利用した撮影ではない、ということです。他の波長が作品という「物体」に当たったところで、作品へのもぐりこみの度合は変わるものの、反射するという性質はどれも同一であることに対し、X線に関しては「波長の物体への吸収あるいは透過の違い」の度合によって撮影する方法だからです。

もうちょっと簡単にいいますと、X線フィルムの前に作品という「障害物」を置いた状態にして、X線を照射すると、「障害物」である作品に塗布されている絵具や、あるいは支持体の素材などに波長がさえぎられたり、あるいは素材によってはなんの「障害」にもならず作品を通り抜けてフィルムに照射されたりされる、フィルムへの波長の照射の違いによってイメージが焼き付けられる方法です。

専門的な説明をしますと、物体を構成する原子量、あるいは作品を構成する物質の厚み・密度の違いなどによって、X線の吸収や透過の違いが異なるという原理を利用した光学調査がX線(レントゲン)写真という調査方法です。

X線を人間や生物に対してであれ、絵画を含む文化財に対してであれ照射して、そのX線が対象(人間や生き物、あるいは絵画を含む文化財)を透過するほどX線がフィルムに当たる、ということはお分かりいただけるでしょうか?このように物体を通して、X線がフィルムに届くほどフィルムが黒っぽくなる反面、作品を構成する素材によっては、その素材がX線を透過させないこともあります。そうするとどのようにフィルム上で写るかといいますと、フィルム上では白っぽく写ります。

このX線(レントゲン)写真を用いる調査の利点としては、医療での使用と同様に、別段生き物や作品を切り開くことがないままに、通常肉眼では見ることのできない物体の内部、絵画でいえば支持体や絵具層の内部の状態を観察することができるためです。お医者さんでX線をとる場合、身体にメスをいれないままに歯や骨の様子、あるいは副鼻腔炎などの様子など、いろいろわかったりしますね。

絵画保存修復においては、ほかにも下地層の塗り方や材料推定などに役立つ場合があります。さらには、作品の損傷状態、修復履歴の有無など様々な情報を得ることが可能です。

本日のまとめ

上記のような説明を大学の授業ですると、だいたい学生さんは罠に引っかかってくれまして、X線写真をまるで史上最高の調査方法であると認識してくれます。

とはいえね、正直授業をしておりました身としましては、別に「罠」を張っていたわけではなくて、「えっ!そんな風に誤解をするんだ!」と結構驚いておりました(苦笑)。

何度も繰り返しお伝えしていることとは思いますが、「たった一つの調査方法」では「正しい答え」に必ずしもたどり着けません。

複数の調査を実施して、それら複数の調査が同じ方向を示したところで、初めて「推察が正しい可能性がある」と考えることができます(この段階でも断言は難しいです)。

そういう意味で、「ある一つの調査が、それのみで完璧である」ということはありえないんですね。

だからこそ、色々な調査を実施する必要があるわけなのですが。

というわけで、本日はすでに長くなりましたので、以上にて。最後まで読んで下さり、ありがとうございます。

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