絵画の損傷を大きく分類してみる:自然発生的な損傷について

修復を学ぶ

直近の記事まで、非常に長いシリーズで絵画の構造についてお話をしていましたので、ブログ主自身の気分転換としましても、ここから少しだけ絵画の損傷のお話をしていこうと思います。

とはいっても、絵画の損傷というのは本当に色々ありまして。ごく簡単に大きく3つくらいに分類してみましょうかというお話です。

絵画の損傷を大きく3つに分類してみる

本日するお話は、あくまでもブログ主が留学した際に学んだ分類ですので、日本的な分類の仕方ではないかもと思っています(少なくとも私自身は日本でこのようには学んでいないので…)。

ですので、あくまでも「こういう分類の仕方もあるのか」程度でご覧いただけるといいかなと思います。大学で教鞭をとっていた際は、この分類のとおりに教えていたので、もし私の教え子の方がこの記事を読んだら、「ああ」と思い出すものもあるでしょうと推察します(^^)。

さて、絵画の損傷に関し大きく3つに分けると以下のようになります。

  • 自然発生的な損傷 → 老化現象、先天的理由によるもの
  • 事故的な損傷 → 本来おこるべきではない後天的理由によるもの
  • 過去の処置に伴う損傷

以上の3つです。

自然発生的損傷について:さらに大きく2つに分けてみる

上記だけでは全く説明がないので、ひとつずつ説明を加えていきますと、「自然発生的な損傷」はさらに2つに分類することができます。

一つは経年に伴って発生するもの。脆弱化、酸化、劣化、老化と呼ばれるようなものです。

美術作品は生き物ではありませんが、いかなる物質と同様に、文化財も制作されてこの世に誕生してから月日を経るに従い、年をとるということです。

実際どういうことが発生するかといいますと、画布の弛み(重力が関わるので、不可抗力です)、画布の張り代の脆弱化、ワニスの変色みたいなことが挙げられます(勿論それ以外もいろいろありますよ)。

ちなみに、絵画層の亀裂そのものを分類しましても、亀裂によっては自然発生的な亀裂もありますので、どうしても発生してしまうものはありますし、あるいはむしろ「美しい亀裂」とされるものもありますので、なかなかややこしいものです。

そして自然発生的な亀裂に分類されるもう一つは、先天的な理由による損傷です。

先天的っていわれても「?」と思うのですが、簡単にいうと、もともとの特性として発生しちゃう損傷ってことです。

もっとかみ砕いていいますと、油絵作品含む各種絵画作品は、様々な物質で構成されていますが、各素材の関係やそれぞれの物質が複雑な層構造上、バランスの取れた状態で共存してくれないと、アンバランスな、長期保存しにくい存在になってしまいます。

たとえば絵具を作るさいに、どんな素材の組み合わせで作っているかな?とか。例えば水彩絵の具でガラス板の上に描いても、残らないのはわかるよね?とか。そういう「組み合わせ」の適・不適によって、作品の保ちやすさ、壊れやすさというのは決まってくる部分ってあるんですよ(いかなるように作品を描いても、モナ・リザみたいに数百年も、勝手に作品が保つなんてこと、ないんです)。

ですので、画家さんが用いた技法材料次第で、制作後早急に作品が損傷するなんてことは、よくよくあることです(これ、現代作品本当によくあります。実のところ、壊れやすいのは古典作品ではなく、近現代作品だったり…)。

あるいはですが、画家さんの絵具の使い方うんぬんなどの前に、時代背景とか化学の発達度合とか、そういうのとかもあったりします。すなわち、それまでその世界になかったものが、化学的な発達で現れたり、あるいは逆に考古的な発見などで「こういう素材を使おう」と再発見されたり。あるいは戦時中などは衣食住に困る世の中ですから、絵を描くためのあれこれにも困ったのでは?と考えますよね。

いろんなものが新しくでてきた時というのは、逆に「長期間の保証」については未知だったりするので、大概初期段階では「改良」を必要とするものがでてきたりね。あるいは絵具としてよさそうだと、出現当初ものすごく使われたけど、後年使うべきではなかった素材として認定されるなど、リアルタイムの段階ではよくも悪くも正しく絵具の素材などの評価はできなかったりしますからね。

だから悪意とかそういう意図があってそういう素材を使っているわけではなくて、「当時は良い」とされていたりするけれど、年月が経って「真の評価」がでた素材などもあるみたいな。そんなこともあります(こういうことが怖くて、保存修復家は修復をする際に「製品」を使うのではなく、すでに分かっている素材から自分であれこれ用意することが前提なのです)。

「損傷の原因」ひとつとっても、こうやって色々なのでね、素材自体を多角的に理解することも必要ですし、またその作品が制作された時代背景などを知ることも重要だったりするんですね。

まぁ、先天的理由による損傷を非常に簡単にいえば、「こんなん使っていたら壊れるでしょうが!」とか「こんな使い方していたら壊れるでしょうが!」って制作のされ方をしていたら、そりゃ何も制作後に悪いことしていなくても勝手に壊れるよって話です。

本日のまとめとして

本日は損傷を大きく3つにわけたものの中でも、「自然発生的な損傷」についてお話してみました。これをさらに2つに分けると、「経年」と「技法材料などに因る先天的なもの」となります。

人間だって、年月過ぎれば肌も荒れやすくなりますし、体力もなくなりますし、筋力も衰えますからね…(遠い目)。歳をとる、ってことは抗えないですし、自然発生的なことですよね。こういうのと同じに作品も「経年」するんだと思うとよいかと。

そして作品を構成する素材自体が適正ではないとか、あるいは作品を制作する上での技法材料が適正でなければ、「壊れやすく」なります。こういう作品は、後にどんなに温湿度を厳密に整備したなかで保存しても、適正な作り方をした作品よりは壊れやすかったり、あるいは修復しにくかったりするので、ややこしいですね…。

ただ、ある種の損傷が経年によるのかなとか、あるいは「技法材料の問題かな」とか、こういうのもある程度であれば目視調査で判別できる部分ですので、こういうのがわかると、「どういう理由で作品が壊れたのか」という部分がわかる、ということになります。

こういうのはほんと、ずっと作品との対話となるので、難しいけれども興味深い部分ですよね。

というわけで本日はここまで。最後まで読んで下さり、ありがとうございます。

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