過去の記事にて、文化財保存修復業界における作品調査の際に、「光学調査」というものを行うという話をしました。
ひとことに「光学調査」と言いましても色々「ノーマル写真」「赤外線写真」「X線(レントゲン)写真」などと様々なな手法を使うのですが、その中の一つが「紫外線蛍光写真」です。
ここで思い出していただきたいのは、いわゆる「ノーマル写真」というのは、我々人間が一般的に視認する形で写真を撮る方法であること。我々が視認する際に必要なのは、「光(可視光線)」「物体」「目」(そして「脳)」であることであって、可視光線の外からの光、例えば赤外線や紫外線を物体に照射しても、我々の目や脳はそれに対して機能的に対応できないんですね(ちなみに鳥類や虫なんかは紫外線領域も感覚として使うことができるようですね)。
そうすると、不思議に思いませんか?我々人間には紫外線を視認することができないのに、そんなものを作品にあてたところでどうだというのかと。
いったん「ものを見る」ってどういうこと?ってことに戻ろう
過去の記事でも「ものを見る」ことについて書いておりますが、ちょっとここで復習。
ものを見る際には、少なくとも「光(可視光線=人間が視認できる領域の光)」「物体(見るべきもの)」「目(および脳)」が必要です。なぜなら、人間の場合の「見る」原理は、光が物体に当たり、その物体の色彩などに相当する光のみが物体から反射され(そのほかの光は物体に吸収され)、反射した光が人間の目に届くこと(およびその目に届いた光を脳が処理すること)で視認されるためです。
物体と人間が真っ暗闇の中にいれば、光がないので見ることができません。
物体と光があっても、そこに人間がいなければ(あるいは目が見えない状態に人間がおかれていれば)何も視覚することができません。
光のある空間に人間がいても、そこに特定の見るべき何かがなければ、人間はなにかを認識することはできません。人間の目に光を跳ね返すなんらかの物が必要です。
この時の光を「可視光線」としているのは、人間が認識できる領域の光が「可視光線」と呼ばれる光の領域で、その領域から外れた光を人間は「視覚」として認識できないためです。「紫外線」というのは「可視光線」の「紫」の領域の外にあることから「紫外線」と呼ばれています。すなわち、「紫外線」は「可視光線」ではない、ということです。
今この記事で「疑問」としていることとして、「視認できない光(=紫外線)」を物体に充てることで、なぜ調査が可能となるのか、ということをどうして提起しているかはこれでご理解いただけるでしょうか?
紫外線蛍光させて人が観察できるのは、「紫外線の反射」ではない
先の「ものが見える」ために必要なことを念頭にいれて場合、紫外線を用いた調査・観察というのは、「紫外線の反射」を見ているわけではない、ということがまず大事です。
また、紫外線の特徴として、物体に当たると比較的すぐに跳ね返るという性質がある、ということを念頭に入れておくことも大事です。
比較対象を出してみると、医療現場などで多用されるX線(レントゲン)写真ですが、X線は物体の中を透過しやすい波長です。ですので、医療でもそうですけど、文化財保存修復でも、人間の目では見えな内部の様子を、観察対象(人体でも作品でも)を切開するなどの損傷を与えずに観察することができるというのが特徴です。こういう芸当は「人間の目(ノーマル写真)」や「赤外線写真」、「紫外線写真」には不可能です。
反面紫外線は物体に当たれば比較的すぐに反射してしまうことから、作品などの表面(1層あるいは2層)あたりの情報を得ることに優れています。身近な例でいえば、普段可視光線下で見慣れているお金のお札や、パスポートの本人情報のページなどに紫外線を当てると、偽造防止のために浮かび上がる文様などが浮き出てきます。これは紫外線に対して蛍光する傾向を持つ素材を使って、こういう仕様にしているんですね。
ここで重要なのは、いかなる素材であっても紫外線を照射されると蛍光する、というのではなく、紫外線を照射させると蛍光する素材は限定されている、ということです。だからこそ、お金のお札もパスポートも、全てが全て蛍光するわけではありませんし、絵画作品も全ての作品が蛍光するわけではありません。
ですので、文化財保存修復の調査・研究において、作品に紫外線を照射させて眺めているのは、紫外線が物体に当たって反射した光ではなく、紫外線を物体に照射することで物体の一部の素材が蛍光した様子、というわけです。
本日のまとめ的なもの
本日のこの記事はあくまでも導入的なもので、次からがお話したい内容になる旨、申し訳ないです。
ただ、ブログ主自身、「文化財保存修復を学びたい!」と考え、某国立大学の大学院の受験に備えて勉強していたおり、「紫外線」「蛍光」って??って思った記憶があるんですよ。なんていうんでしょうね。ちゃんと暗記はするんですよ。でも、腑に落ちきっていない感じを持ちつつ勉強していた、みたいな。
自分自身が一人で勉強していた時に「??」と思っていたことですので、大学で教鞭をとっていた際に、この内容は授業で念のためしていたので、記事にもしてみようと思った次第です(^^)。
というわけで本日も最後まで読んで下さり、ありがとうございます。
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