絵画を断層状態で観察する:「下地層(地塗り層)」ってなあに――今回は特に油性地に関して――

修復を学ぶ

過去の記事にて、油彩画(テンペラ画含む)は、多くの場合複数の層構造からなるというお話をしました。

また、その層構造において下層から、「支持体(基底材)」「前膠塗り(下膠、目留め)」についても簡単に説明をしました。

さらに「下地層(地塗り層)」についても説明しましたが、「下地層(地塗り層)」は大きく、「水性地(吸収地)」、「油性地」そして「エマルジョン地」と大きくわけることができる旨をお話し、中でも「水性地(吸収地)」のみ説明をしました。

ですので本日は「下地層(地塗り層)」の中でも「油性地」について説明をしたく思います。

とはいえ、正直過去の「支持体(基底材)」や「前膠塗り(下膠、目留め)」、「下地:水性地(吸収地)」のお話についても深くお話したわけではないので、改めて深くお話しなくてはならない部分についてお話することとなると思います。

ですので、もしかしたら簡易的に話すのみでは「油性地」などのお話はちょっとわかりにくいかもしれませんが、後々、改めて詳細説明などができたらと思いますのでご容赦ください。

下地層(地塗り層)に関して:油性地(油性下地)ってどんなものからできているの?

先の記事にて、下地ではなく、「絵具」は何でできているかを復習もしましたが、それは「色を担当するもの(顔料)」と「接着剤的なもの(媒剤、メディウム)」であるとお話しました。

また、この「接着剤的なもの(媒剤、メディウム)」が絵具の性質を支配するため、ここが水性だと「水彩」など水性の絵具になりますし、これが油だと「油彩画」になるわけです。

さらにその構造の在り方は下地においても同様で、「水性地(吸収地)」においては「白い体質顔料」+「膠水(水性の媒剤、メディウム)」あるいは「白い体質顔料」+「白い顔料」+「膠水(水性の媒剤、メディウム)」からなるというおおざっぱなお話をしました。

上記の理屈に当てはめると、「油性地」というものも、「色を担当する物質」と「接着剤的な物質(媒剤、メディウム)」からなるということは想像されるかと思いますし、さらに言えば「接着剤的な物質(媒剤、メディウム)」は「油」ではないかとお察しいただけると思います。

正確には「乾性油」あるいは「加工乾性油」が使われます。

ただし、「油性地」の作り方などを見ると、「油」以外に「精油」が入っていることがあります。

「油」と「精油」はちょっと物が違いまして、この「油性地」に使う「油」は「油絵具」の「油」と同様に、「乾性油」と言いまして、重合反応という酸化反応によって、固化するタイプの油です(ですので、水のように蒸発せず、油そのものが接着剤的に物質を固着させます)。

それに対し「精油」というのは、「アロマオイル」を「精油」と呼ぶことから想像ができると思いますが、「揮発する油」です。

「揮発」というのは、ある液体が常温で気体となって、発散してしまうことです。

ですので、「精油」は油性地の中に「接着成分」のような形としては残りませんこれは「修復する」立場だけでなく、「制作する」立場の人にも十分理解してほしい点ではあります。保存修復を学ぶまで、ブログ主も油絵画家を目指していたタイプの人ですが、この違いを思いの他、理解していなかった過去がありますので…)。

では、何のために加えられるかというと、顔料を「油」だけでは濡らす・絵具として適正に混合することが難しいことから「導入剤」的に添加しているのだと考えます。

さて、こういった「接着成分」として「油」が使われる「油性下地」においては、「色を担当するもの」は何でしょう。

油絵絵具の場合は「顔料」ですね。

というわけで、「油性下地」における「色を担当するもの」は主に「顔料」です。

同じ下地の仲間でも、「水性地」においては「体質顔料」といって「顔料」とは一線を置くものが主となっていたことは覚えていただいているでしょうか。

「下地」なんて、正直絵具で表現した部分と違って明らかに見える部分ではないのに、なぜ「水性」と「油性」で「混入する色を担当する粉末」を変えなくてはならんのだとちょっとなぞですよね。

こういう部分が、先の記事でちらっとお話しました絵具や下地などを構成する素材、例えば顔料あるいは体質顔料のもつ「屈折率」や「被覆力」などに関わる部分です。

ただ、この「屈折率」や「被覆力」は、それだけを説明するだけでもものすごい量の記事になると思うので、とりあえず今は「油性地」のみに注力するためにごくごく簡単な説明に留めさせてください。

また、ごく簡単な説明ですので、多少誤解のある説明もあるかもな点はご容赦ください。

蒸発する「水」と蒸発しない「油」:空気のみが周囲にある「見え方」と、「水」や「油」にくるまれた状態の物体の「見え方」

「屈折率」や「被覆力」を考える際に、自分の身の周りによくある現象を考えてみるとわかりよいと思います。

例えば我々の手を空気中で眺める場合と、お水を張った湯舟の中で見るときというのは同じ肌の色ではありますが、同じに見えるでしょうか?

お風呂の水の中のほうが、肌の色味がくすむといいますか、体調悪そうに見えますね。

このように同じ物体でも、空気中と水のようなもの、あるいはガラスなどにさえぎられた場合には、ごくわずかであろうとも視覚的には違うように見えてしまいます。

この前提で、例えば水性の絵具や水性の下地の場合というのは、「白い粉体」+「水に溶解した接着成分」なので、「水性の絵具」や「水性の下地」の見た目は「水の影響がある」と言いたくなるところですが、実際は水は蒸発して残りません

ですので、水性の絵具や水性の下地の見た目というのは、多少接着成分の影響は受けつつも、ほとんど「色のついた粉体そのもの」の色を我々は見ることができる、という形になっています。

簡単にいえば、「接着剤的な物質」の影響が水性の絵具や下地における「見目、視覚」においてはほとんど「ない」ということです。

しかし、「油絵具」や「油性下地」の場合は、この「接着剤的な物質」は「乾性油」です。

この「乾性油」は「蒸発するものではなく、重合反応という化学反応により、固化する」というもので、こういった素材に「顔料」がくるまれているものからなるのが「油絵具」や「油性下地」です。

ですので、我々が油彩画や、油性の下地を観るときは、水性の絵具や水性の下地を観るように、直接顔料を観れる状態ではなく、油膜を通して「色を表す物質(顔料)」眺めることとなるのです。

このように油でひとつひとつの粉体がくるまれてしまうと、美観として問題が起こるのが「体質顔料」です。

「体質顔料」は「油」で濡れると、本来の白さ保てなくなります

さらに乾性油は「蒸発」せず、そのまま「固化」しますので、「蒸発したらなんとかなる」というわけでもありません

ですので、「乾性油」と「体質顔料」のみの組み合わせでは「白を表現したい」という目的において、不適切な組み合わせとなってしまうのです。

この段階ですでに非常に長くなってしまいましたので、次の記事に続きます。

ややこしい話を最後まで読んでくださり、ありがとうございます。

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