これはあくまでも文化財保存修復という、「修復」に臨床的に関わる人に限らず、例えば学芸員さんみたいな、「修復」とかはしないけれども作品を守っていることに関わる人を含めた話になります。
また逆説として、「この要件に当てはまらない人は、向いている」とかそういう意味合いでもないことは先にご理解ください。
さらに言えば、この記事で述べる内容は主に女性に関わることが多いかもしれませんが(現代の場合は絶対的に男性に当てはまらないわけでもないとは思いますが)、それは別に性別における差別でもなんでもないことをご理解いただけると幸いです。
あくまでもぱっと思い浮かぶものですが、
- ヒールのある靴が好きな方
- 自分の爪を伸ばしたい方(および爪を塗りたい方)
- 指輪、ネックレス、腕時計、ブレスレットを手放せない方
- 場合によっては「絶対化粧をしたい方」
- 香水、柔軟剤など強い臭いを放つ状態にしたい方
- スカート以外は嫌だという人、仕事であってもそれにふさわしい恰好ができない人
は、文化財保存関係に向かないと考えて頂くとよいと思います。
上記は何が言いたいかといいますと、作品を触った時に、作品を「損なう危険性」を排除できるか否か、ということが言いたいのです。
化粧に関しては、間違って紙作品が唇に当たって口紅がついてしまったらもうアウトです。あるいは、油分を含む化粧品のついた顔を無意識に手で触って、その手で作品を触ったら…?
普段ヒールを履く若い方が「ヒールで転ぶことないもの」とよく言いますが、スニーカーで作品を支え持っていても大変なのに、それをヒールでやるのは、作品への破壊行為に容易につながります。「軽」くて、「壊れにくく」て、「落としても大丈夫」なんて作品、本当にわずかしかないですよ。大概は「重く」て、「壊れやすく」て、「脆い」ものばかり。そんなものをヒールの靴を履いて持つような修復家も学芸員も一人もいません。作品を尊重できないのなら、作品に関わるべきではありません。
なお、ヒールに関わらず、例えば「シークレットシューズ」のような身長をごまかすような靴なんかも含まれます。
爪やアクセサリー、時計なんかはわかりやすいですよね。なにかの瞬間にそれらによって、作品に傷を「絶対につけない」と言えませんよね?世の中には「絶対」はないですから。最初から危険要因を排除する気持ちは大切です。
マニキュア、エナメルに関しては、学芸員さんならOKかもですが(装飾なしの、薄い色なら)、修復をする場合、有機溶剤と切っても切り離せないので、結局無駄になります。現場で爪塗ってる修復家は日本でも海外でも見たことないですね。勿論何かの集まりでおしゃれのために一時的に、というのはありますけどね。
また、最近はあまり厳しくはありませんが、ブログ主が学芸員資格を取ろうとしている時に教えられたときは、洋服のボタン、ジッパー、金具類なども禁止されていましたし、フリルとか、やけに生地たっぷりの袖の服なども、「無意識に作品に引っ掛ける恐れがある」のでダメでした。「やらかしてから」では遅いからです。
臭いなんかもそうです。臭いというのは、臭いの元が大気に拡散して、鼻の「臭いを感じる部分」に付着することで臭うというシステムらしいですが、臭いの元が「大気に拡散」され、作品に付着したら困るからです。「洗剤」「石鹸」など、どうしても必要で、でも臭いのついているものはあります。でも、過剰に不必要に臭いを上乗せする必要はないですよね。柔軟剤でも無臭である、あるいは微香のものがあるはずです。そういうものを選択し、作品に与える影響を最小限にと考えられないのは困ります。
「香りくらい、影響あるわけないじゃないですか」。はたしてそうでしょうか?柔軟剤などに使われる化学物資、香水に使われる揮発性有機溶剤、こういうものが果たして作品に影響を与えないと言えるでしょうか?問題はこういったものが「大気に拡散される」ということです。作品のある場所の大気に。通常我々修復関係者は化学物質も有機溶剤も使用しますが、大気に拡散し、その大気に作品が触れる危険性があるものに関してはよくよく考慮して選別してそういった化学素材、有機溶剤を使用します。やみくもに大気に拡散させません。わずかでも危険があることを知っているからです。
香りに含まれる化学物質、有機溶剤がどういうものかご存知ですか?知っていて「作品に問題ない」と言っていますか?確かに「今すぐ」はそうかもしれません。でも10年後、50年後、100年後の保証はできますか?少しでも「え、わかりません…」と思いませんか?
神経質と思うかもしれません。でも、「自分が保証できないもの」を作品のある場所に持ち込まないことが第一です。それが「自分からいい匂いがすることの方が大事」なら、こういうお仕事はやめておきましょう。少なくとも紙や布、絵画作品に関わらないことです。
勿論香水とかに関わらず、サンマの塩焼きとか肉を焼いた服とかで作品に関わらないですよ(苦笑)。特に紙作品、布作品、臭いつきやすいですからね。そういうので将来的に虫害とかを招いても困りますから。
最後の服装などに関してですが、常識的な判断ができない人はそもそも仕事というものに向きません。文化財関連の仕事は、場合によっては自分の見た目よりも作品を優先する必要がありますので(医師が手術するのに、「術服がかわいくないとだめ~、フリルがないとダメ~」って言ってたら、いやでしょう?それよりも患者へのケアや安全でしょう?)、それが頭にない、あるいは言っても理解できない場合は、作品に関わらないほうが本人にとっても、作品にとってもよいかと思います。
普段パンクルックが好きとか、ゴスロリが好きとか、イガイガトゲトゲとかチェーンがついている服しか着ない、みたいな人もいると思うんですよね。でも、その主張を曲げたくないならそれに合った職業選択を、という感じです。
面白いことに、ある部分においてはヨーロッパのほうがこの規制、緩い部分があるのですが、特に日本画の修復関係の女性の場合なんかは偶々かもしれませんが、仕事中は化粧なし、簡易的な服装の方ばかりで厳しく律している方ばかりです。紙に汚れ(特に油性)付けちゃったり、破いちゃったりすると、もうほんとダメですからね…。
こういうことに関して、「えーっ」と思った段階で、多分向かないと思ったほうがよいかも。
でも化粧っけがない、服が簡素だから、こういう職種に向くよって話でもないことは当初にお話ししていますので、そこは誤解のないように。こういうのは習慣の話で、今若い時点で上記に「えーっ」でも、職業に合わせていける人もいれば、慣習的にOKでもこういう仕事に合わない人は普通にいっぱいいますので。
というわけで本日はここまで。最後まで読んで下さり、ありがとうございます。
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