油絵の発展②:油絵と写本との関わり

修復を学ぶ
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先の記事より油絵の発展についてお話をしております。

おそらくシリーズで読まないとわかりにくい話かと思いますので、この記事に最初にたどり着いた、という場合、できれば先の記事に戻って読んでいただけたらと思います。

お手数をおかけしますがよろしくお願いします。

油絵と写本との関わり

先の記事でお話しましたように古の技法書を紐解いても、油絵の始まりなどに関しては、詳細には言明しにくいのが現状な反面、油絵の技法を完成させた人物、油彩画の材料選択や描画技術、造形表現を改良・完成させた人物と有名なのが初期フランドル派のファン・エイク兄弟です。

この初期フランドル派などフランドルを含むアルプス以北地域では古代ギリシャ・ローマのような美術経験がないため、美術としては独自での発達を要しました。 

ファン・エイク兄弟らに代表される北方ベルギー絵画はフランドル絵画と呼ばれますが、フランドル絵画の起源は、細密画で彩られた祈祷書の写本の中にあるといわれています。ちなみに、この祈祷書は貴族階級により発注された一点ものの細工書物で、発注者の裕福さが伺えるものでもありました。材料には、基底材には羊皮紙、文字にはインク、文様にはテンペラが使われています。つまり、油絵とはまた違う技法材料からなる、ということです。

14世紀には、貴族階級間の見栄の張り合いのために、祈祷書の高価さや製作技術の高さにおける競争があり、この小さな祈祷書の作成は貴族たちの顕示欲を満たすものとして重宝されました。

ですので当時の職人は、貴族を対象とした顧客満足のためにより高い技術を求め、同時代のイタリア画家の技術を学び、その技術を写本に利用しようとしました。

加えて古の美術様式である「ゴシック美術と帝政末期のローマ美術の特徴」とも写本は結び付きました。

ゴシック美術の特徴は、建築を中心に始まるのが特徴ですが、絵画においては建物との関係から、ボリュームと空間の間のまとまりといった空間支配という傾向が見られます。このイリュージョン的な表現の伝統が、現代的な空間的表現を生み出しました(とはいえ、まさに現代に生きる我々からすると「?」という感じがするかもしれませんが、あくまでもゴシック美術以前の美術史から考えて、という「過去との比較」として考えてください)。また、線的な表現や、自然な動きも特徴です。

対してローマ美術(参照①)の特徴は、古代ギリシャ文化の影響をうけて、理想の体を表現することを大事にしてきた時代を経て帝政末期の4世紀のローマ美術となると、旧来の優美で美しいプロポーションや均等を求める様式よりも、強い精神性が前面に押し出されるようになります。

とりわけ人体の表現は単純化され、着衣の襞は画一的な溝彫りの羅列へと変化していきます。  

こういった単純化された表現とゴシックのイリュージョン的な表現というものが写本の発展に影響していったのです。     

対して写本と結びついた14世紀イタリア絵画、つまり同時代の美術の技術は、イタリア・ルネサンスの中でもプロト・ルネサンス、つまり原始ルネサンスの特徴とるものでした。この原始ルネサンスの特徴とは、奥行きや遠近法、空間構造、ボリューム、心理的表現、そして人間主義的な図像といった美術的な改革です。

この原始ルネサンスの、図像の具体的表現の特徴をいえば、例えば、①聖母マリアへの受胎告知のシーンが建物の中シーンの中であることや、②聖母子像の厳格さが和らいで、より人間らしい表現になったということ、③ひざまずく天使の表現が挙げられます。

こういう14世紀イタリア絵画の影響が、とりわけフランスに拡散、フランス写本の主題に取り入れられます。13から15世紀のフランスにおける写本上、絵画・イラストのようなものは、当初、ページの最初のイニシャルの部分だけイラストによる装飾がある状態でした。

それがページの縁取り部分において装飾がなされ、鳥や花を用いて幻想的な装飾模様がつくようになりました。

特にフランス写本の「ベルヴィーユの祈祷書」において、その特長である、体形の美しいスタイルや線的な感じ、そして優美さを認めることができます。

他、有名で絵画に影響を与えた写本家が複数いますが、詳細には省きます。

こういった写本を通して次には、国際ゴシックの時代がやってきます(先の美術史のシリーズではあえて飛ばしたのでした…)。

本日のまとめ的なもの

あまり日本の美術史の場合、「写本」の話をしないので、結構いきなり油絵がでてくる、っていうイメージがある気がしますし、また、油絵の技法の完成者であるファン・エイク兄弟がいきなりふって沸いてきた、みたいな、悪魔が木のまたから生まれてきたかのようひょっこり感がでてきます(汗)。

でも、そもそもにしてファン・エイク兄弟は写本の挿絵を書いていた経歴などもあることから、写本と油絵、あるいは絵画と写本との関わりというのは直接的なものはなくとも、全体を理解する上では重要なんだと思っています。

おそらくそういう理解があるのか、海外留学ではこの写本関係の授業を比較的しっかり受けたと思うので、「なぜ日本ではこういう部分をやらないのかなぁ」と結構疑問だったりもしましたし、今も疑問です(苦笑)。

とはいえ、色々写本関係は日本語の専門の本がでていますので、ご興味を持たれた方がいましたら、是非読んでみて頂けたらなと思います。

というわけで本日はここまで。最後まで読んで下さりありがとうございます。

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