油絵の発展④:15世紀ごろのフランドルとイタリアとの違い

修復を学ぶ

3つ前の記事より油絵の発展のお話を書いております。また2つ前の記事には油絵と写本との関わりについて書きました。さらに直近の記事においては美術史における油絵と「国際ゴシック」との関わりを見てみました。

本日は15世紀における2つの絵画上の勢力、フランドルとイタリアにおける相違を見ていきます。

美術の花形というと「イタリア!」となる方は多いですが(そしてそれは決して間違いでもありませんが)、実際油絵技法の完成はフランドル地方でのことですので、この両者の違いを理解することというのは非常に重要なことだったりします。

実際先の記事の国際ゴシックの記事にてお話しましたが、いろんな王侯貴族に使える画家などの移動によって、いろんな国や地域の文化や技法材料が混合していきますが、それでも現代のようなネットで全てが繋がってる時代とは異なり、いろんな文化が完全融合するまでには本当に多大な時間がかかる時代においては、「その国のやり方、文化、技法材料」というのが結構明確に分かれていたりするんですね。

だからこそですが、クラシカルな作品であるほどに、作品を見ただけで(科学的調査をへずとも)「ここの国の作品」「ここの地域の作品」「時代はここらへん」というのが結構容易に予想することができたりします。

結構今回の記事は油絵保存修復に関心がある場合、非常に重要な内容をまとめた記事になりますので、ご記憶いただけると今後美術館博物館などで古典作品を鑑賞する際に面白かったりするかな…と思ったりします。

なお、いろんな記事で書いておりますが、こういうブログはレポートや論文の参照資料にはなりませんので、学生さんたちがもし読んでいるようでしたら「ふーん」程度に留め、レポートなどに使用するのはやめてくださいね(^^;)。

というわけで以下本日の記事。

15世紀フランドル絵画とイタリア絵画の在り方の相違

古くから絵画の一大勢力であるイタリアではありますが、実は15世紀半ばまで、使われている描画技法はフレスコやテンペラが主流で、油絵がちらほらでてくるのは15世紀半ば以降くらいとなります。

それに対して、フランドル絵画も、15世紀以前は、例えば先のメルキオール・ブルーデルラムの作品の例のとおり、油を使用するといっても、どっちかというと、テンペラがメディウムといったような画材を用いていたわけですが、15世紀初頭、つまりファン・エイク兄弟が新しいメディウムである油の技法を完成させてから、イタリアより先に油による絵画を展開させていくことになります。

このシリーズ最初の記事のとおり、油の使用の始まりや、その使用の歴史のようなものは、明確にはなっていないため、あくまでも今回は古代ギリシャ・ローマを経験していない、アルプス以北の美術文化を基に、油絵技法完成前における初期美術のお話しをしていきました。その上で理解が必要かなと思う部分としては、美術をはじめ文化というのは土着のものを基本に、でも、人や物の流通に影響を受けていくものだということです。  

その上で、それでもなお中世などにおける絵画作品にはその国あるいはその地域独自の特徴があるので、それを以下にまとめますと:

アルプス以北の美術代表であるフランドル絵画の主に15世紀ごろの特徴としましては

  • 基底材としては主に板を使用するが、その素材はおおよそオーク材、日本語だとナラ材を使用。フランドルにおいては基底材が板から布に移行し、布が優勢になるのは非常に遅く、およそ17世紀ごろから布の基底材が一般化。
  • 下地には白亜と膠を混ぜ合わせた水性地を使用
  • 構成を決めるおおよその下描きから、非常に精密な下描きなど、下描きがおおよそ必ずといっていいほどなされている
  • 上記下描きの上には乾性油からなる層、つまり地透層(断絶層)が存在する
  • 上記複数層の上に、絵画層があるが、15世紀フランドル絵画においては、主に油彩での描画がなされる
  • 当時ワニス層はすでに塗布されていたといわれているが、現代においてはおおよそすでにオリジナルのワニスは除去されていることが多く、オリジナルのワニスに何を使用していたのかは不明であることが多い

フランドル絵画に対して15世紀頃のイタリアはといいますと:

  • 15世紀であればフランドル同様主な基底材は板。ただし、使って居る樹種はポプラ材。
  • イタリアにおいては、基底材が布に移行するのは比較的早く、中でもヴェネツィア派は早々に板から布へと移行。よって、基底材が布になるのはフランドルより一足早く、1500年以降頃には板より布が優勢になる。
  • ポプラ材を基底材にしたイタリアでは、石膏に膠を混ぜたものを下地として使用。ちなみにこの下地は水性地。
  • 下地の上には、下描きがある。
  • テンペラにおいて、必ず地透層がないというわけではないが、テンペラの場合は結合材に含まれる余計な水分を下地が吸い取る必要がある。よって地透層がなくても一般的には困らない。
  • 15世紀イタリア絵画の描画材料では、フランドルとは異なり、テンペラを使用。15世紀半ばごろからイタリアでも油彩が使われていくが、それが流布し優勢となるのは16世紀近く。   ※基底材を描画素材においてイタリアとフランドルの間にはタイムラグがあることを理解することが重要!
  • 15世紀イタリア絵画でも、古い文献によると、ワニス層の塗布があったとされる。

今回の記事に限らず、この記事以前の記事()を踏まえて、歴史という縦軸の影響と、同時代の人間の影響という横軸的な影響が必ずどのような作品においてもあること、また、その縦軸横軸如何に関わらず、絵画に限らない同時代の美術や文化の影響、考え方、流行、表現方法など、あらゆることが一つの作品を体現するのに関わってくること、またその理解なしに一つの作品の理解は難しいことが伝わるとありがたいですね。

本日のまとめ的なもの

今回の記事は、結構重要かつ、同じ記事を読んでいても読む前に持っている知識量によって得られる情報量が異なるだろうと思っています。

ブログ主自身がやったことがあるのですが、ほとんど保存修復に関して知識がないころにある短い「絵画保存修復に関する修復報告書」を読み、それを海外留学修了後に再度読み直したときに、全く同じ文章を読んでいるのに、報告者の伝えたいことの浸透率といいますか、読み取れる率といいますか、それが全然違ったんですね…。

多分それは「完成形」というのはなく、人間が進歩し続ける限り、同じものを読んでも得られる情報というのは違うと考えるのですが…。だからこそですけど、ここまで250以上の記事を書いてきているのですが、それ以前にいろんな「言葉」に関してなどの説明を記事にしてきたこそ、やっとこういう記事を書いていることをご理解いただけたらと思います。

過去の記事に専門用語などに関する説明はしておりますので、過去記事をご覧いただけましたら、おそらくより今回の記事の内容はよく理解できると思いますし、あるいはこういうブログ記事をうのみにせず、いろんな文献を読まれることを推奨しております(^^;)。

また、過去記事でも書いているのですが、「なぜそういう技法材料を?」というように「なぜ?」という疑問を持って文献なりこういうブログなどを読まれると、いろんな理解が進むかなぁと思いつつおります。

というわけで本日はここまで。最後まで読んで下さり、ありがとうございます。

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