油絵の発展⑥:簡易的に、イコンの構造について

修復を学ぶ

5つ前の記事より油絵の発展のお話を書いております。また4つ前の記事には油絵と写本との関わりについて書きました。さらに4つ前の記事においては美術史における油絵と「国際ゴシック」との関わりを見てみました。加えて2つ前の記事では15世紀における2つの絵画上の勢力、フランドルとイタリアにおける相違、それに対して直近の記事では比較として東欧のイコンに関しての概要をお話しました。

ただ、先の記事でも述べましたとおり、かつてロシア正教会だったかの神職関係者とお話をする機会があり、イコンについてお話を伺ったところ、美術史で聞く話とは違うイコンの印象を受けました。

反面何千何万ものロシア正教会の神職関係の方とお話したわけではないので、それがロシア正教における正しい認識であるのかどうかなどは正直ブログ主にはわかりません。

とはいえ、同じ美術を見ていても、使用意図や認識、感覚、あらゆることは同一ではないということは「なるほど」と思った次第です。

ですので、こういうお話を書きつつも、もしこういうことに関し何かご存知の方がいたらお話を伺えたら幸いですし、逆にこういうブログを読まれてもうのみにせず、あくまでも絵画や美術を知るひとつのきっかけとして利用していただけたらと思います。

特に当ブログにて繰り返し書いておりますが、もし学生さんが読んでいたとしても、こういうブログはレポートや論文の参照文献にはなり得ないことは重々ご理解いただいて読んで下さい(ぺこり)。

というわけで今回はイコンの構造について簡易的にお話していきます。いくつかイコンの構造に関する文献を見ましたが、ものによって固有名詞の名称の日本語音声(カタカナ表記)が微妙に異なっておりまして(そりゃ外国語をカタカナ表記するって困難ですからね…)、そういう点におきましてはおおめに見て頂けると幸いです。ですので念のためアルファベットでの記載もございます(滝汗)。ご容赦ください。

東欧のイコンの構造

直近の記事にて東欧のイコンの概要に関しお話しましたし、「なぜイコンについて簡単にお話するのか」という点に関して、15世紀フランドル絵画やイタリア絵画の基底材が板であることに対し、イコンの基底材として板が使われることから前者との比較としてイコンのお話を始めました。

とはいえイコンの構造としては、基底材として布や象牙だけでなくモザイクや七宝など様々な素材が使用されます。しかし一般的には板の上に描かれます。板に描かれたイコンに使用される木材は、菩提樹、楓、もみ、松、白樺、はんの木やオーク材が主ですが、近世では杉も使われるようになりました。

木材を十分乾燥させた後に、画面となる箇所を少し掘り下げて、周囲をフレームのように少し高く残します。つまり基底材は一様に平滑な「面」ではなく、基底材の縁4辺が中央(描画面)より額縁的に高くなっています。

昔は西欧絵画においても画面と額縁が一体型でしたので、形式としては別段特別なものではありませんが、作品と額縁が別々となっている現代から考えると、奇妙かもしれませんね。

ブログ主が今まで数は少ないですが見てきたイコンには額縁がありませんでした。それはこういう形式(額縁一体的な状態)であるからで、別添えの額縁を要さないからかもしれません。

さて、その基底材における画面となるところは、膠を塗りやすくするために粗削りにし、その表面である「コフチェーク」の上に「パーヴェラカ」と呼ぶ麻布を貼ります。そして布の上に、石膏や白亜、あるいは雪花石膏(アラバスタ)の粉末を膠に溶いた「レフカース」と呼ばれる溶液で地塗りを施します。

レフカースが乾燥したら、画面を磨き、その上に輪郭を朱色で隈取り、テンペラ絵の具で彩色をします。テンペラが乾いた後、画像を保護するために「オリファ」(Olifa)と呼ぶ亜麻仁油の層を塗布します。さらに、板自体が反らないように裏面に二本、「スポンキ」(Sponki)と呼ばれる桟木があてがわれています。

イコンの製作においては、直近の記事にてすでに述べたとおり、顔を描く人、手を描く人など、各自の受け持ちがはっきりと定められ、分業によってなされています。背景に色が施されることもありますが、金箔あるいは銀箔が使用されることも少なくなく、とくにロシアイコンにおいては銀を用いるものが多く見られます。

本日のまとめ的なもの

2つ前の記事や今回の記事のように、同じような基底材を使った絵画作品と言いましても、国や地域によって詳細が異なることはご理解いただけたでしょうか(たとえ時代が似ていても)。

このシリーズ上では本当にほんの簡単なお話しかしておりませんので、是非ご興味があったらご自身でも色々調べてみてほしいです(^^)。

また、古典絵画であるほどにこういった地域性がある程度わかっていると、構造などの観察だけで、別段科学的な調査なしでも、ざっくりではありますが、作品の時代背景のおよその検討がつくこともあります。特に古典絵画においては。

これは作品のアイデンティティには、制作した時代や地域、歴史、人などが影響しあうからこそなんですね。

だからこそですが、文化財保存修復においてはその作品のアイデンティティのベースとなる、歴史や地域性、もちろん画家本人のことなどを理解することが重要だったり、あるいは材料や構造について学ぶことが大切だったりするんですね。

作品についてより多く理解できているほどに、より安全に作品に対応できるわけですから。作品自体を理解せぬまま、無視したまま、作品を処置しようなんて、恐ろしい所業なんですよ…。

というわけで本日はここまで。最後まで読んで下さり、ありがとうございます。

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