今回は、留学関連で、保存修復関連学部のある大学の入試の実際をお話しようと思います。 ただ、これは私が留学した大学の入試ですし、また、それももう 15年以上前のことですので、同じ保存修復学科のある大学でも内容が異なること、 あるいは私の留学先であっても、時間の経過とともに、入試内容が変わっている可能性が 高いことをまずご理解の上、読んでいただけるとありがたいです。
入試の日程は7日間:最初の5日は専門関係
入試受験の手続きをすると、大学からA4用紙100ページのコピーが渡されます。 そのコピーには1枚につき2ページ分の論文のコピーが印刷されている(もちろん非日本語)の ですが、まずその論文のコピーを面接試験までに読解し、要約し、 質疑応答のための用意をします。
試験自体は7日間ですが、うち土日を挟みますので、2週間にわたる試験となります。
最初の5日間は『専門関係』の試験となります。 すなわち、ブログ主の場合は「文化財保存修復」の学科に入りたかったわけですので、 その学科に関わる試験を受けるわけです。
おそらく順番としては間違っていないと思うのですが、 1日目に模写(紙に水彩で、与えられた作品および、そのカラーコピーを基に実寸模写。 トレーシングペーパーの使用禁止)。 2日目に模刻(1日目の模写の題材のモチーフを、水粘土で模刻する) 3日目に充填整形(ただし、充填剤は通常のものと異なる) 4日目に1日目の模写を飾るための「マット」の窓を手作業で形成 5日目に作品調査 ■時間は朝9時から夕方18時まで。 ■その間部屋や大学の出入りは自由(ただし、朝9時の集合・入室には必ずいる必要がある)。 ■課題は一日に1つずつ増えていくが、5つの課題がとりあえず5日目の終了までに 終えられればよく、その時間配分は個人で設定する。 そういう感じだったので、「マット」作成のために、適正なカッターを買いに走った (試験後には画材屋は締まっているので、試験の最中にトラムにのって画材屋に走りました) のを今でもよくよく覚えています(笑)。
すでに文化財保存修復を日本で学んでいた後での入試なので、試験内容にビビることは ありませんでしたが、逆にこういうのを18歳で受ける場合は結構ハードルが 高いかもしれないなと振り返ると考える次第です。 ヨーロッパには別段入試専門の画塾がある様子はありませんし(少なくとも当時は)、 ましてや充填整形の仕方なんて、私も日本の大学院で初めて学びましたからね。 やり方を知っていると困らないのですが、知らずに試験を受けるのだったら 怖いなと思います。
あ、でも、そういえば、私の留学先ではないですが、別の国立大学の試験も、 充填整形補彩が試験項目に入っているので、入学前にすでに最低限修復処置ができないと、 入学できないという西洋系大学の不思議(^^;)。
入試日程は7日間:残りの2日は共通試験と、専門の学科と面接
試験も2週目になると、「専門」ではなく、全ての学部希望者共通の試験が2つでてきます。
一つはデッサン。でも、面白いことに、日本の美術系大学のデッサンとは中身が異なります。
日本で私が大学生をしていたころは、美術系(油絵科)に所属していましたので、 高校および浪人時代は画塾にいっておりました。 ちなみに当時は藝大の倍率が40~45倍ほど(20人定員に1000人前後の受験者)、ほか 公立および私立の大学で12倍前後のころですので、美術系大学入学に多浪は当たり前でした。 なので、受験用のデッサンといえば、石膏像とか静物とか人物とかを、とにかく見たままに 正確に、ありのままに描くというのを身につけておりました。
でも、西洋の入試の「デッサン」って違うんですね…。 課題はいくつかあって、そのいくつかの殆どは、正確にいえばクロッキーのような感じ。 最初が5分から始まって、だんだん短い時間に変えていくって感じだったかしら。
で、最後の課題が、「タイトル」を言われ、その「タイトル」に合うデッサンをしろ、 とのこと。 いわば、「制作」だったんですね。制限時間1時間くらいだったかな。 でも、何にびびったかというと、たまたま隣の席だった受験者が、紙を折り始め、また、 他の素材を貼り合わせ始めたから。 「えええ!それをデッサンと、あなたはいうの?!」って(苦笑)。 なんといいますか、何をしたら入試としてO.K.なのかが不明というか、 なんでもありなのかというのが、日本の入試を経験していると不気味で(^^;)。 ま、結果的に合格しているのでいいのですが。
上記のデッサンの試験が確か午前で、午後に専門の学科試験と面接があったように 思います。 学科試験を受けている最中に、受験番号の若い順から呼ばれて面接を受けるので、 結構集中力に欠ける試験だったような気がします。 学科試験は全て論述形式で、文化財保存修復の基礎が分かっていないと、 たとえ「決まった定説の回答」がないとしても、だからこそ回答が難しい感じの試験 だったように思います。 大学院じゃなく、学部段階の試験ですが、「学科が分かっていないと合格しない試験」 というのは西洋あるあるなんですかね(苦笑)。 実はいまだに学科試験の内容の一つは覚えているのですが(結構インパクトが強かったから)、 逆にそのために「専門」のほうの面接で何を聞かれたかは全く覚えていないですね…。
最後に受けたのが全学部共通の面接試験。 入試手続きをした段階で学校からもらえる100ページコピーを基に、面接官と対話する というやつですね。 仏語が母語ではないので、手心を加えてくださった試験だったと記憶していますが、 それでも論文を読んでいないと答えられない質問がなされるので、冷や汗ものでした。 昼間は実技とかの試験を受けて、帰ってきて夜の夜中まで論文読んでだったので、 試験自体に響かないかもひやひやしましたし。
でも、実際入学して気づくのですけど、この面接試験でやりたいことって、 「論文を読む」ができるかどうかの確認だったんだなぁと思うのです。 なぜならですが、必ずしも全ての授業においてではありませんが、 一つの授業を受けるたびに、資料コピーが最低100ページついてきたからです(笑)。 もっといえば学年が低いほど必須教科が多いので、私は履修免除をしていたけれど それでも授業を半年に12個とっていたので、単純計算で、1200ページ参照資料を 読解する必要がありますし、大学の場合レポートでそれとは別に資料探して読む必要が ありますので、短期間にこれだけの量が読めないと、大学で苦労するよ、という そういう試験だったんだろうなと思っております。
本日のまとめ
正直高校生とかがこういう試験の話を読むと、留学に対して ビビッてしまうだろうなぁと思いつつ。 反面、ブログ主の留学先は少なくともその国内では「厳格」であることで有名らしいので、 西洋の全ての学校がこういう形で試験をしているわけではないと思います。 でも、少なくとも西洋世界の入試の場合は、「文化財保存修復」に関して「イメージ」ではなく 「どういう専攻か」ということをきっちり理解している人のみが入学できるような 形になっているような気がしています。
ブログ主が留学していた先だけなのか、あらゆる西欧の学校がそうなのかは不明ですが、 西欧の場合、能動的に学ぶ学生が尊ばれていて(これは語学学校であってもです)、 先生が教えてくれるのを待ってる、みたいな態度だと学生生活として損しちゃう気が しています。
ですので、入学後はもちろんのことではあるのですが、入学前から少なくとも 入りたい専攻(このブログでは絵画の保存修復の話をしているのでそういう 専攻なわけですが)について「イメージ」で語る、ということがないように、 自ら本などを読んで調べることって大事だなと思います。 もちろんこれは留学だから、という話ではなく、日本の大学や大学院を受ける場合も 同様ですが。
「結局いつも、本を読めに尽きますか!」と言われそうですが、本日はここまで(^^;)。 最後まで読んで下さり、ありがとうございます。
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