作品を計測することでわかること(3/4話)

修復を学ぶ

2つ前の記事にて、作品を計測することの重要性の触りのようなことをお話しました。

本日はその続きです。

2つ前の記事の箇条書きの4つめ「計測した時期の作品サイズがオリジナルのサイズか否かを推察することができる(この場合、他者の意志の介入によってサイズ変更されたのか、あるいは画家自身の意志に基づくものなのかということを考える必要性がある)」についてお話します。

作品の大きさが、オリジナルの大きさか否かを確認する

作品のサイズが変わる、ということは意外とよくあります。

理由は様々ですが、大きく分けると①画家自身の意志(手)によるもの、②画家とは全く関係ない赤の他人の利益・意志・目的に準じたもの、③過去の修復(といっても近現代的なものではなく、特に修復倫理の確立前などの)の際にある種の理由によって行われたものがあると考えます。

なににせよ、①の画家の意志(手)によるもの以外は、「非オリジナル」の行為ですので、不適切な行いです(とはいえ、③の過去【むかしむかし】の修復に関しては、倫理・経験・歴史などの積み重ねのなさなどに因る部分もあるので、「不適切」には変わりはないのですが、「責め」られるかというと微妙です。いわば、全く文化財修復経験のない大学生などが、知識も指導もないままに、作品を壊さず、可逆性もあるような、間違いをおかさないまま、現代の修復倫理などをも侵さない方法で修復することを求めるようなものですから。そんなの不可能だってわかりますよね…。あ、だからって、現代において、知識も経験もない人が文化財に処置をして、「ダメだった☆」っていうのは、もうアウトですので、そういうことではないこともご理解ください。歴史的に知識も経験も科学技術なども持ちえない、という意味合いですので。汗)。

①の画家自身の手によって作品のサイズ変更がなされる、というのは、拡大にせよ、縮小にせよ、結構あります。画布画ではよくあることですね。

例えば17世紀の画家、ヨルダーンスなんかは自分の作品のサイズ変更(拡大)を結構やっている画家として有名ですし、近現代の画家さんでブログ主がよく見るパターンですと、風景画家さんのパターンです。特に、現地で描くタイプの方。現地で描いている時は、そのサイズ(構成)でよいと思って描いていたが、仕上がった作品を家などで落ち着いて眺めているうちに、「こういう構図のほうがよくない?!」と縮小したりする画家さんの作品、よく見ます。

これに対して、②で示しました第三者がサイズ変更するというのは、近現代ではほとんどないことかとは思いますが(と信じているのですが)、昔々の場合だと、いわゆるお金持ちの貴族様とか商人とかが、「自宅に絵を飾る」ときに、「既存の作品の大きさだと、うちのリビングには大きすぎる」だのなんだのと、作品の縮小(いわば、元の作品の大きさより小さくカットするなど)をしていたことがあります。拡大はまだいいのですが(拡大のために付属した部分を取り除けばいいのですから)、縮小の場合、どうやってもオリジナルの状態には戻せなかったり、難しかったりするので、悲しいものです。

最後に③ですね。経済的利益などとかではなく、昔々などの修復処置としてなされた処置として、というものです。例えば板を基底材としたものであれば、板そものもが生物被害などに合ってしまい、特に作品の縁部分などがとうてい作品を支えられる状態ではないなどの際に、基底材もろとも切り落とすことで、作品への更なる被害を抑えようとするなどはあるでしょうね。

あるいは、画布画の場合は、張り代部分が傷みきってしまい、画布を木枠に張り込めなくなったなどで、絵画層のある部分を張り代にしてしまうことなどは本当によくよくあります(ですので、近現代の修復で、その旧処置を手当し、新規の張り代を取り付けて、本来の大きさや美観を取り戻すような処置がよくなされます)。

オリジナルのサイズじゃないって、わかるの?オリジナルのサイズってわかるの?

色々なパターンがありますので、「絶対に」「100%」元のサイズか否かをはじめ、サイズ変更した作品に対して元のサイズがわかるのかと言われれば、NOです。特に古典作品などは、一つ前の記事で書きましたとおり「定型」ではないため、「定型サイズとは違うから」などでの評価・判定ができないためです。

ただ、作品中あるいは、作品の外に色々なヒントがありますので、それをつなぎ合わせた結果として、「おそらく元のサイズとは違う」「元の大きさはこれくらい」という推察程度は立てられることも多いことでしょう。

例えば、先の例に出しました風景画家さんの作品の場合は、「サイン」の位置などでも「画家の意志」を見ることができます。ただし、これは同じ画家のサインの位置の傾向なども見る必要などがありますが、「サイン」が絶対的に画家本人のものの場合は、作品の仕上がりの姿としてそこにサインがあると考えられるので、推察要素としては重要となります。

画布画の場合は、「張り代」の有無が重要となりますが、古い作品の場合は「張り代」のないいわゆる「ペラ」と呼ばれる形のもの(あるいはペラ状態の画布を裏打ちして木枠に再張り込みした作品)が結構あります。この場合、張り代だけでなく作品の絵画層部分も失われている可能性もあるので、慎重を要しますが、まずはguirlande tensionの有無を確認する必要性があるでしょうね。いきなり横文字を出してきたなと思われそうですが、この単語の正式な日本語訳ってなんだ?とブログ主自体困っておりますので、ご容赦ください(汗)。

縮小している作品の場合、作品自体を見て「窮屈だな」など、空間として違和感などを観察してみるとよいかもしれません(ただし、画家自身の傾向などもありますので、あくまでも作者あるいは作品の時代性、アトリエなどが分かる場合は、それらの傾向を先につかむとより正確性がでるかと思います)。

ちなみに、2つ前の記事に例で書きました家具の一部とされていた板絵に関しましては、ブログ主自身色々調査しまして、元のサイズはこれくらいだったんじゃないかという推察なども仕事として出してみています。ただ、縮小された(支持体がカットされてしまった)作品に関しては、本当のサイズというのはね、本当に難しいです(汗)。こういう時に、タイム風呂敷とか、タイムマシンがあるといいのになと結構思ってしまいますね。あ、でもタイム風呂敷があれば、文化財保存修復のお仕事もらくちんといいますか、こんな専門のお仕事、必要なくなってしまいますが(汗)。

本日のまとめ

ブログ主自身も、実際お仕事として作品に携わるまでは、こんなに作品のサイズって変わってるの?!とは知らなくて。

だから、最初にサイズ変更された作品が出てきたときはびっくりしましたし、戸惑いました。

なぜなら、我々の仕事は「オリジナル」を冒すことはできないので、作品が「オリジナル」の状態である必要があることから、まず「オリジナル」の状態ってどんななのということを知る必要があることや、サイズ変更を実施したのが「画家本人の意志」なのか、「他者の目的の下」なのかを区別する必要があるためです。

古典作品などの画家など、とっくの昔に亡くなっているのに、「画家の意志かどうかって!」って思いますよね(苦笑)。でも面白いことに、十分に調べると、「おそらく…」というヒントが出てくるもので。ほんと、そういう意味で、文化財保存修復の関係者というのは、「壊れてる、手を入れよう!」ではないということが伝わればいいなぁと思います。

本日もすでに長く書いておりますので、以上にて。

最後まで読んで下さり、ありがとうございます。

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