ニュースによるとベルギーの王立美術館に所蔵されている1943年制作の絵画『La Cinquième Saison』の下から別の絵画が見つかったそう。
ニュースでは今回は赤外線反射法を使っての調査で…と書かれていますが、勿論初期調査およびX線写真など、段階的にあらゆる調査を実施した上で、より明確に違和感といいますか、「びっくり事項」が画像化されたのが赤外線反射法だったのだと推察。
というのは、各調査法には「得意」「不得意」があるからです。X線関係だと「重い原子(いわゆる原子番号表の中で後ろのほうにあるもの)」ほど調査しやすいのですが、軽い原子ほど困難、あるいは調査不可能となります。これに対して赤外線関係ですと、炭素のような軽い原子が反応性を見せるので、『何のための調査か』って大事だったりします。
医療で検査をされたことがある方はお分かりかと思いますが、「検査」ってお金かかります。小難しいものほど高額にお金がかかります。血液検査とか、尿検査に比べて胃カメラ、CTの高額なことといったら…!勿論初期段階検査でも「検査」である限り無料ではないので、「不必要」なことはしないはず。健康体な方に不必要な検査はしませんし、逆に「こういう疑いがある」という方には必要な検査が追加される。そんなものですよね。
で、こういうのは文化財関係の調査も同じで、「すごい機材」がでてくるものほど、当たりまえに調査費がかかります。ですので、「何の理由もなく」調査しないですし、また「理由なしに高度な調査」もしません。少なくとも「作品の下に絵画があるかも」だけで時間と人とお金を使うことはありません。
医療でもそうだと思うんですが、健康診断とかって本当に簡単な調査だけですよね。年齢上がると胃カメラとかの高度調査がでてきますが、一般的に「こういう年齢になるとこういう病気の傾向が…」ってものが調査されるのであって、やみくもに老いも若きも胃カメラとかってわけではないですよね。「必要があって、検査をやる」じゃないと、「あそこの医者は、検査でお金とってもうけようとしている」って疑いもでるんじゃないでしょうか(^^;)。
だからこそですが、文化財においてもすごい機材を使う場合というのは「なんでその調査が必要なの?」というプレゼンやら書類が必要になります。お金を動かす限り、「利益」あるいは「明確な目的(こういう結果を得るために、この機材が必須)」がそこにないと、一般的にダメだからです。
ですので、「すごい機械」とかが出てくる調査の前に、入念な調査をして、『最終的にこの調査内容の確認のためこの機材が必須。おそらくこういう結果がでる』って勝率が求められます。勿論「勝率」ですので、はずれることもありますが、「とりあえずいい機材で調査さえすればなんらかの結果がでるんじゃね?」っていう風には機材は使いません。
ただここが日本と海外の考え方の差でもあり、日本あるあるだとブログ主は個人的に思っているのですが、日本って本当に恵まれた国で。今回のニュースはベルギーで、私自身が7年いた国ですので、日本との落差をよく思うのですが。日本の大学なり機関なりに普通にある機材がベルギーの場合なかったり、あっても使わせてもらえなかったりしました。
失礼な言い方になりますが、日本の場合大学や大学院などの機関であっても、「え、そんな機材あるんだ!」っていうのが揃っていて。特に私が教鞭をとった日本の大学では「目的はないけど、とりあえず機材にかけたら何か論文にかけるものがでるんじゃね?」くらいの勢いの学生が本当に多かった。特に作品観察などを殆どしないままに、です(ベルギーでは普通に観察だけでも週5日、一日8時間、これを2カ月、作品観察に費やしたこともあります)。こういう必死で「作品を診る」ことなく、機材にかけようとする。そこに機材があるから。
でもやっぱり医療に置き換えると奇妙な話だなぁと思うのです。だって患者さん(作品)を、担当医(修復家)がきちんと見ないまま、「CTかけよう」って言いだしたら誰でも「え、なんで」と思いませんか。「ちゃんと診察してくれました?」って思いませんか?なんでそんな早急にCT?何か私の体に問題あるの?って思いませんか?
そういう意味合いで作品そのものと向き合っていないっていうのはそれだけ失礼なことだとブログ主なんかは思っていまして。でもブログ主が個人的にそう思っているのは「最大限患者を診ろ、もうこれ以上ないってほど作品を診たか?」と、それだけをベルギーでは教わったからというのもあるでしょうね。
また別視点でいいますと機材を使う調査って、それだけお金も時間も労力も人も使うので、「経営」ってことを念頭にすると「無駄打ち」できないのは当たり前。お金がどこからでてくるの?ってことを考えると。趣味的に「会社(大学、研究機関)」がだすのか、個人、民間、国みたいな「顧客」が出すのか。前者なら利益なき調査で時間もお金も無駄打ちし続けて赤字経営になる危険性がありますし、後者なら「理由なく、目的なく、得られる利益なく」の研究はスポンサーとしてお金を出してくれるはずがない。もしくは「個人的興味」ってことで調査者(修復関係者)が個人的にポケットマネーから出すのか?って話です。
特にブログ主がいた国際機関もそうですし、今回ニュースになっている美術館も「王立」なので、国民に対して誠実である必要のある場所です(王立の場所は、2,3年に一度、国民に対してその施設が公開されているくらい、「国民の知る権利」みたいなものが発動されているところです)。だからこそですが「マグリットの絵画の下にきっとなにか作品があるに違いない」だけを目的に、こういう調査をしたわけではないだろうなと推察しつつニュースを読んでいますし、今学校機関で学んでいる学生さんには、「機械にかければ」ではなく、「自分の調査の何を補うために?」ということを一度頭において機械での調査を考えるきっかけにしてほしいニュースですね。
ちなみに参照しているニュースはこれは誰? ルネ・マグリットの絵画の下から女性の肖像画が見つかる | ギズモード・ジャパン (gizmodo.jp)です。外部リンクですので、自己責任でご覧ください。このニュースにて、作品の下層にあった女性像の画像を見ることができます。
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