【用語】絵具に関する概要(ベルギーの大学での授業Ver.36 ):結合剤と希釈材16:蝋2

用語

毎度毎度同じシリーズ内で同じ文言を繰り返してはおりますが、前置きとしまして、この用語シリーズはブログ主が海外の大学で留学していた際に、授業でいただいたプリントの翻訳となります。西洋絵画を構成する素材の一つである絵具を理解する足がかりの一つとして記事にしております。ただ、もし文化財保存修復を学びたいなーという方が読まれている場合は、こういう記事のみをうのみにするのではなくて、いろんな文献を比較参照してくださいね(^^)。

また各記事にくり返し書いておりますが、このシリーズは翻訳であることから、文章として固い感じがあるだろう部分、あるいはわかりにくいがあります点、改めまして先にご了承くださいませ(ぺこ)。顔料や絵具に関しましては、現在やっている【用語】シリーズに関わらず、すでに過去の記事で何度か書いている部分もありますので、そちらもご覧いただけるとわかりよいのかな…と思いつつおります。

本日は蝋の話の続きで、蜜蝋についてのお話です。蝋の先の記事に興味があるかたは、そちらを先にご覧くださいませ。

プリントの本文:結合剤と希釈材16:蝋2

蜜蝋(動物蝋)

蜜蝋はミツバチの巣房から熱によって収集される。その後蜜蝋はろ過され、過マンガン酸塩や重クロム酸カリウムなどの酸化剤によって脱色される。昔は日光にさらすことで脱色していた。

形成された酸化生成物は通常注意深く洗浄とろ過によって除去する必要がある。蜜蝋は水に殆ど溶解しない。蜜蝋はしかしながらある種のパラフィンよりも水に対して透過性がある。蜜蝋は芳香性炭化水素や塩素化炭化水素、加熱したエタノールに可溶である。

蜜蝋は62~70℃の間で溶解する。

蜜蝋は埃をひきつけ、経年とともに壊れやすくなる傾向がある。

プリント本文

La cire d’abeille (cire animale)

La cire d’abeille est recueillie en soumettant les rayons des ruches à la chaleur. Elle est ensuite filtrée et peut être décolorée par des oxydants comme le permanganate ou le bichromate de potassium. Autrefois, elle était décolorée par exposition au soleil. Les produits oxydés formés doivent toujours être soigneusement éliminés par lavage et filtration.

La cire d’abeille est pratiquement insoluble dans l’eau. Elle est néanmoins plus perméable à l’eau que ne le sont certaines paraffines. Elle est soluble dans les hydrocarbures aromatiques et chlorés et dans l’éthanol à chaud.

La cire d’abeille fond entre 62 et 70℃.

Elle attire la poussière et a tendance à devenir cassante avec le temps.

本日のまとめ

昔、まだ色々な修復素材の開発がなされていなかった頃、「蝋」は有用な修復素材とみなされていました。完全なる過去形かというとそうではなくて、「蝋を使用したほうがよいかも」という場面もいまだゼロではないという意味では、「今は昔」な素材とは言い難い素材ですが、かといって頻発して使用する素材ではなくなりました。

とはいえ、日本の修復シーンにおいて、ブログ主が知る「その例では蝋を使うのはどうかな?」という例が2つありました。

一つは某所で修復をかじった、ある種美術に関しては専門家ではあるものの「修復に関する非専門家」によるもの。この場合、「こういう修復処置には蝋を使うもの」という思いこみで実施し、「どういう作品である」という理解および、「なぜその素材を使うのか(あるいは使ってはいけないのか)」という自問自答なしに実施したものでした。当然それは「よい修復」と言えるものではありませんでした。

二つ目は、画材屋によるものです。依頼者が「画材屋は素材に詳しいから」と依頼し、そしてたまたま修復に関して知識ゼロではなかった(中途半端に知っていた)画材屋が「勿論!素材に関して画材屋の右に出るものはない!」と、「蝋を使った」例があります。

繰り返しいいますと、現代の修復において「蝋を使う」という技法は比較的「out of date(時代遅れ)」です。単なる流行遅れといういう意味なら問題ないのですが、「問題が大きい」からこそよりよい方法・素材を使うわけで、そこは医療も同じですよね。

そういう意味で、もし絵画修復を依頼した場合、必ず事前に「どういう処置を実施するのか」を問うてみるのは大事かと思います。「蝋」が絶対悪ではなく、場合によっては「蝋」が必然のことは確かにあります。でも、その修復家が「蝋を使う」と言った場合は、必ず「なぜ」その素材を使い、「どういう利点」あるいは「逆にどういうデメリット」があって、その上で「どうしてその選択をするのか」ということを問うた後に契約しても遅くはありません。「蝋」を使った処置は、場合によっては取返しのつかないことになるためです。

そういう意味で、修復を依頼する場合、少しでも理解できない、納得できないということは質問されるとよいでしょう。きちんとした修復家の方なら必ず合理的な理由を話してくれるはずです。

というわけで本日はここまで。最後まで読んでくださり、ありがとうございます。

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