欧州で文化財関係の研修を望むなら、先に留学するのが吉かも③

修復を学ぶ

この記事は全5つの記事からなるシリーズですので、どうかこの記事から見ているという方は、最初の記事から読んでみてほしく思います。必要な事項の説明をしておりますので(汗)。

上記を読まれたうえで、この文章を読まれているということは、直近の記事の前提を読んでいただいていると認識しております。

その上でここから本題をお話するのですが、先に注意的としましては、これはブログ主が研修した海外研修機関の「記入すべき書類」の内容からの推察になります。ですので、ヨーロッパの全ての文化財保存修復関連機関で同じことが言えるか否かは疑問ではあります。しかしながら、同じ「EU内」であれば類似した状態である可能性を留意していただきたい程度である旨ご理解ください。あまり当記事の内容をうのみにせずに必ず各海外研修機関のサイト等をご自身で確認するようお願いします。

というわけで本日の本文。

エラスムスによる研修か、修士修了者の研修か: そもそもエラスムスって?

ブログ主がかつて海外研修した先の現在の研修候補者の「要提出書類」には、「エラスムス」かあるは「修士修了」かという、「どういう研修がしたいの?」という選択肢があります。

ここでご理解いただきたいのは「エラスムス」というEU間のシステムです。これに関しましては過去記事に記載しておりますので、こちらを読んでいただけるとよいかと思います。

簡単に言いますと、「エラスムス」というのは、EU圏内の大学内で留学をした際に、留学先でえた単位を元大学の単位として等価評価してもらえるシステムとブログ主は理解しています(ブログ主は留学中、エラスムスを利用していないので、もしかしたら多少の理解のずれがありましたら申し訳ありません)。

ですので「エラスムス」利用というのは、大学在学中の研修を指していると考えます。実際ブログ主自身、留学中の夏季長期休暇中にこの機関にて短期研修の受け入れもしてもらった経験がありますので、「エラスムス」対象というのはこういう1カ月のみの、「進級など」に関わる研修を指すのかと考えます。

なお、海外の大学の文化財保存修復学科の場合、進級案件として夏季休暇中に自主的に外部機関(公的なものでも個人アトリエでも可)にて実技に関わる(臨床的な)研修に携わる必要性があります。この自主的な外部研修をし、実習報告をしないと進級できないため、こういう「エラスムス」案件があるものと考えます(多くの場合、この研修にて最終的な「論文」のテーマ関連を学ぶのが一般的です)。

あくまでも「エラスムス」というシステムはEU圏内で作動しているシステムなので、EU圏外の国が対象になるかは疑問です。日本は勿論EU圏外であるので、このエラスムスシステムの対象とは言い難いです。でも、EU圏内の大学に正規入学しているならば対象ではないかと考えます。

マスター(修士)修了者に対して、どのようなことが求められているのか

次に考えるべきは「修士修了済み」の人間が研修候補対象になる件ですが、どうして「日本の大学院修了済み」の人がこれの対象にならないかといいますと、「日本の大学および大学院を修了しても、EUの大学が求める授業を全て修めたことにはならないから」です。これは、ブログ主自身が日本の大学の文化財保存修復学科で教員を務め、大学院に関しては日本の国立の大学院で実際に学生として過ごし、さらに留学先で大学および大学院を経験していることに基づいての判断となりますが、E.C.C.O.が求める知識・技術・経験は日本での学びと同等ではありません。

分かりやすく言えば、日本での学びは「先生について学ぶ(徒弟制的に、経験的な学びをする)」という傾向が強く、よって学生に修復方法の選択をさせても「いままで使ってきたから」「先生にそう教わったから」が理由としてでてきます。

しかし海外の場合、修復の技法材料の選択理由の問いに対しその解答をした場合、作品に触らせてはもらえないと考えたほうがよいでしょう。なぜならその解答は「作品をみていない」上、「修復材料への理解がない」と認識されるためです。なぜか。それは「今まで使ってきたその素材が、どうして別の作品に対してOKなのか」とは回答していないからです。海外では「経験的にこうだから」ではなく、「論理的な構築」を求めます。

分かりやすくいいますと、同じ病気の人間に対し手術を実施するに際し、違う年齢(生まれたて、十代、二十代、五十代、後期高齢者)の人間に全く同じ処置をするだろうかとか。あるいはアレルギー有の人と無しの人間で同じ対処だろうかとか。それらの手術をする人に対し、「学校でそうならったので」「いままでそうだったので」という理由で患者(およびその家族)が納得ができるだろうか、ということです。「患者(作品)」を見ていないとか、「この人に任せて大丈夫なの?」という心配が出る感じ、実感としてご理解いただけると思います。

上記に対し、「え?じゃあ、【先生がそういったとか、学校でそう習った】以外にどう説明するの?何を言えばいいの?」と思った段階で、EU圏内の思う「マスター修了」の知識を持ちえないということが明白になってしまうので、研修は難しいと思います。

加えて研修機関は「学びの場」ではなく、一人の専門家として役立たなくては意味がありません。「学びの場」として研修参加をするつもりなら、やめたほうが相手の機関のためです。研修は「若手専門家」を対象にしているのです(国によっては、「専門家」として認定されるまでの定まった道のりがありますので、「研修」はその一助としてのプログラムだったりします。つまり、すでに独立してもおかしくない人専用のプログラムだと思えば、自分が独り立ちできる状態かを深く考えるのではないでしょうか)。

実際ブログ主に「その国で研修したい!」と相談にくる人も「板絵を学びたいので、そこで研修したいです」と言ってきます。その段階で、おそらく研修先は「ここは学びの場ではない。学校ではない。うちは、すでに板絵の扱いのわかっている若手専門家を対象に研修を行っている」と返すだろうなぁと推察します(これはかつて、某知人が実際に機関から言われた言葉です。なんでしっているかって?通訳としてその場にいたからです)。だからこそですが、「学びたい」のであれば、ここは素直に研修ではなく留学を選択することが本人および施設のためかと思うのです。

さらに言えば、最近はブログ主が海外研修応募をしたときと求められる資格が違うことから、もしかしたら日本からの研修応募の場合、「エキヴァランス」の提出を求められるのではないかと推察しています。このエキヴァランスに関しても詳細は過去の記事をご覧ください。

このエキヴァランスに関して十分知ることも、重要ではないかと考えるので、次回の記事にその旨ご説明しようと思います。

本日のまとめ的なもの

よく相談してくる方の定型文が「~を学びたいから研修したい」なんですが、上記のとおり研修というのは「学び」の場ではなく、研修先に「役立つ」必要があります。

ですので、多分研修先に聞かれることとしまして、「過去にどういうことを研究」し、それが「当機関で研修することで、どう展開できるか(本人の利益となると同時に、その機関にとっても【ぜひ来てほしい!】【この作品を任せたい】となる利益があるか)」ということだと思います。

過去に学生が「ファン・エイク作品に関わりたい!」ということを言っていました。確かに当時ファン・エイク作品の修復事業を某海外機関にてやっていましたが(しかしすでに終了していたとも思いますが…)、当時ファン・エイク作品に関わっていた面子をしっていたら、こんな言葉は到底いえないな…と思いながらそのメールを読んだ覚えがあります(当時ファン・エイク作品修復にあたっていた人は、大学教員クラスの人メインでしたから…。当然ですよね)。

「こういう学びをしてきたから、これに関する作品(処置)なら自信がある、意見交換によって貴機関にも有益性がある」っていうアピールはありえても、「学びたい」という方が来ることで、その機関にとっての利益は何でしょうか?また、「学びたい」という方に「この作品を担当して!」はないですよね。

研修では作品を任されます。なぜ「大学院で学んだ」という人に対して、「教える」という労力を強いられなくちゃいけないの?ということを思えば、当然のことだと思うのです。医療の現場研修と同じだと思うんですよ。「現場だから」の初めてを教えることはあっても、「それは学校で学んでいるよね」を教えることはありません。

大体の海外研修したいという方の「こういうことを学びたい」は、研修でやることではなくて、留学でやるべきなんだよなぁと日本人の私ですら思うので、いはんや研修先の職員の方をしても同じじゃないかなぁと推察していたりします。

というわけで大分長くなりましたが、本日はここまで。最後まで読んで下さり、ありがとうございます。

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