紙ってどんな素材⑥?:製造段階での耐久性の違い1/4

修復を学ぶ

ここしばらく(主に)紙に関するお話をしております。

最初の記事においては紙の主要素となるセルロースに関して。2つめの記事ではそのセルロースに次いで紙を構成する2つの要素に関してお話しました。さらに3つ目の記事においては、具体的に紙の素材となる植物に関して簡略かつ代表的なものに限りますが記載しました。加えて4つ目の記事においては、これら先の3つの記事を踏まえ、いくつかの植物に含まれる構成要素の利率についてお話しました。そして直近の記事では4つ目の記事の内容をもう少し詳しめにお話しております。

上記5つの記事では、紙となるある種の植物に含まれる要素のみについてお話しています。反面、それだけで物事を評価してしまうと、一般的に言われる「和紙の高い耐久性」みたいな話が「??」ということになってしまうということで、別の視点でも見てみましょうねというのが本日の記事です。

というわけで本文。

紙の劣化現象はどうして起こる?①

先の5つの記事から考えると、「リグニンを含まないコットン紙が最良」のように思えるのに対し、一般的に「リグニンを含んでいる和紙」が通常「よい紙」として認識されていることはよくよくご存じでしょう。だからこそ、「素材うんぬん」以外にも理由があるはずなんですね。

ということで、逆説的に紙の保存性や耐久性が悪くなること、たとえば紙の変色や劣化現象はどうして起こるのかなということを考えてみましょう。

一般的に紙の変色や劣化現象というのは、できたてほやほやの紙では発生せず、ある程度経年した紙において起こります。

勿論、汚い手で触って汚れたとか、紙の上に何かこぼしてシミを付けた、という損傷は経年度合が少なくとも十分起こり得ます。でもそれは「人為的損傷」で、「それを起こした誰か」に原因があることで、「紙そのもの」が原因ではないことですので、そういう「人為的損傷(事故的損傷)」は省いてお話しますね。

その上で紙の劣化や変色現象はどうして起こるのかといいますと、主に紙を構成しているセルロースの一部が湿気を含むことで、加水分解というセルロースの自己分解的な化学変化が発生、その結果として有機酸が生じることで起こるとされています。つまり、今までの説明で書いていた「リグニン」が存在しなくとも、そもそも紙を構成する主要素のセルロースから「酸性物質」が発生するから、といわれています。とはいえ、有機酸というのは弱酸ですので、いきなりすごーい強酸性に傾く話ではないです。

また、この有機酸の発生はいかなる紙においても同じ速さとか同じ量発生するようではないようです。すなわち、「発生しやすい条件」があるらしい。

それはどういう条件かといいますと、いわゆる紙を構成する繊維、セルロースですね、これを作っている細胞膜が破壊された紙のほうが、繊維が完全な状態ものよりも、発生率が高いといわれています。わかりやすくいいますと、繊維の原型があるものほど、「有機酸」を発生させにくい、と考えればいいのでしょう。

そうすると、ここで「素材自体のポテンシャル(つまりはその植物を構成するセルロースやリグニンなどの存在やその利率など)」だけじゃなく、「どう紙を作っているか」という製造過程などへの理解が大切になってくることはおそらく想像できることでしょう。

ここからこれに関して詳しくお話したいのですが、すでにある程度長くなっておりますので、続きは次の記事へ。

本日のまとめ的なものとして

紙が水に弱い、ということは普通に皆さまご理解いただけると思います。

いくら試験勉強がしたいからとお風呂場に教科書を持っていく人はいないと思いますし(べしゃべしゃのぐしゃぐしゃになりますからね)、雨の日の新聞は親切にビニールに包んで配達されることも多いですよね。洗濯機や冷蔵庫などの重量級家電は段ボールに入っていることが多いことから、段ボールがそれだけの耐加重の性質を持っていることは明確ながらも、そんな段ボールも水を付けるとあっという間に腐ったりします。

また、加水分解のいう「加水」というのは何も雨に当たるとか、水に浸かるといったようないかにもぐっしょりということを指すのみではありません。紙は水分を吸収したり放出したりする性質があることから、その保存環境次第では加水されたような状態になったり、逆に必要な水分すら失われた状態になります。

例えばですが紙を取り扱う某お店が、新しい場所に出店した際、商品である紙類が湿気でダメになったという話も聞きます(なお、同じ敷地内でありながら紙の置き場を変えたところ、同じ店内でもその後問題は生じなくなったというのも興味深いところですよね)。

だからこそですが、紙には紙の適正保存環境といのうのがありまして(紙に限らず各種素材の適正保存環境があります)、美術館や博物館なんかはそういうのを遵守し、同時に温度湿度が上下しないよう心掛けながら作品が最大限永く保っていくよう心掛けているわけです。

紙というのは「支持体」、つまり作品を支える屋台骨で、家でいうと地盤のようなものです。これ自体が壊れてしまう、脆弱化してしまうと、すなわちお家の土台がダメになるのと同じで、どんなにその土台の上のものを取り繕ってもどうにもならなくなってしまいます。修復すればいいじゃん、と思うかもしれませんが、土台自体が脆いものに対しては、本当に難しいのでね…。紙自体(支持体自体)が健康であってくれる、これに勝ることってないんですよ。

というわけで本日はここまで。最後まで読んで下さり、ありがとうございます。

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