本日は文化財保存修復における、撮影のお話…といいますか、カメラのお話です。
過去の記事でも書いておりますが、文化財保存修復におきまして光学調査というのは非常に重要な要素となっており、例えばノーマル写真、斜光線写真(側光線写真)、赤外線写真、紫外線蛍光写真、X線(レントゲン)写真などを実施します。
これらの撮影におきまして、X線写真以外は(場合によってはX線写真すらもですが)修復家自身で撮影することが一般的ですので(かつてブログ主が臨職をしていました東博や、海外研修先の国際機関では専門の方が撮影していましたが、それは恵まれた環境といえます)。
ですので修復家というのは結構いろんなことができないといけないのですが、カメラへの理解やその扱いへの理解なども求められます。とはいえ、プロのカメラマンのような「制作」的な撮影ではなく、文化財の情報を嘘偽りなく、誇張もなく、そのままに撮影できる必要がある、とご理解いただけるとよいでしょう。
まぁ。こういう話をしますと、「普段からインスタのためにスマホで写真を撮っているから大丈夫!」とか、「なぜわざわざカメラで撮影する必要性があるの?」ということが問われます。
最近のスマホというのは本当に便利だなぁとブログ主も実感はするのですが、カメラ、特にある程度の性能を持つカメラで得られる情報量というのはスマホでは得られないものだったりします。
また、先の『文化財の情報を嘘偽りなく、誇張もなく、そのままに撮影できる必要がある』ということに対し、スマホの撮影では必要を満たすことができません。少なくとも文化財保存修復という業界における「必要な情報」を獲得することは困難となります。
ですので、少なくとも日本の大学あるいは大学院においてはゼミ配属された段階で(院ならすぐに、学部なら3年生程度で)最初に習うのがカメラの扱いじゃないかなと思います。作品を触るより前に、光学調査を各自が実施できる必要があるためです。
また、ものの在り方としてですが、撮影機器としてはスマホありきではなくて、先に存在していたのはカメラです。また、現代ではデジタルカメラが主流ではありますが、カメラの中でもデジタルあきりではなくアナログ(フィルムカメラ)が先です。あくまでも現代主流の撮影機器の主流は、過去の撮影機器を発展させたものと考えると、物事を理解する上でフィルムカメラについてお話をすると、現代の機器についても理解しやすいと考えます。
なお、蛇足ではありますが、ブログ主が大学の教員をしている際も、ゼミに入ってきた学生にいの一番に教えたのはカメラの話でした。まさに最初に本日の記事の通り、フィルムカメラの話から説明したものです。
勿論学生全員が「フィルムカメラから学んでよかった!」とは思っていないとは理解しています。反面、ある学生が卒業した後の就職先(文化財関係)で、「今もフィルムカメラを使う!」ということで、「授業でフィルムカメラの在り方」を教えてもらっていてよかった!と教えてくれたことがありました。
「いまだにフィルムカメラを使っている場所があるのか?!」と思われそうですが、そんなに変な話ではないと思います。勿論理由は人それぞれではありますが、ブログ主が某国立大学大学院の院生だった頃の担当教授は、当時すでにデジカメが存在しているにも関わらず、アナログカメラしか使いませんでした。理由は非常に明確で、「デジカメは後で加工ができることから、やろうと思えば嘘がつける。本当に嘘いつわりのない事実を伝えられていることにならない」と、非常に厳格なお考えをお持ちでした。
勿論学生をしていたころのブログ主は少し「めんどくさいなー」と当時は思ったものですが(^^;)、しかし当時非常に高価で貴重な中型カメラを使った光学調査をさせていただけた経験は代えがたいもので、またそのおかげでこういう記事も多少書けるという意味合いで非常にありがたい勉強をさせてもらいました。また、本来は教授のおっしゃるとおりフィルム撮影が最良とは思う反面、デジタル主流の現代でフィルムカメラの中型カメラを購入する難しさ(特に金額)や、かつてよりも現像・紙焼きが高額になってしまったことにより、なかなか難しくなったなと思います(なお、白黒写真の現像と紙焼き位ならブログ主でも最低限できますけどね)。
閑話休題。かつての学生の経験もそうですし、ブログ主の経験も含め、フィルムカメラの知識が最終的にデジタルカメラの知識にきっと役立つと思い、今回こういう話をしてみようと思った次第であります。
ということで本日はすでに結構長く書いておりますのでここまで。また次回からカメラの話をしていきたく思います。最後まで読んで下さり、ありがとうございます。
コメント