金箔のお話⑨:いろんな国での箔打紙の違い②

絵画の構造

前回に続き、本日もいろんな国での箔打紙の違いをお話ししていきます。

ちなみに参照している資料は「金沢美術工芸大学 美術工芸研究所」の「世界の金箔総合業さ」です。一般的に手に入れるのは難しいかもしれませんが、おそらく美術系の大学の場合図書館あるいはゼミの資料として存在していると思いますのでお探しください(在庫がある場合は金沢美術工芸大学 美術工芸研究所に相談すると購入することが可能なはずです)。

こういうブログを信用せずに資料を読むべき、というのは、ブログにはブログ主の「主観」が入ってしまっていて、本来の資料の伝えたいこととの乖離がある場合もあるためです。勿論資料の中身をゆがめて書くことはしていませんが、それでも発信方の伝え方の悪さ、そして受取方の受け取り方もありますので…。そういう意味でも必ず第一次資料を読んでみてほしく思います。本当に面白い資料ですので(^^)。

ミャンマーの場合

ミャンマーの場合は、先の記事の中国と同じく「竹紙」を「箔打紙」に使用しています。とはいえ、中国と異なるのは、過去も現在もミャンマーの「箔打紙」は「手漉き」のものだそう(中国の箔打紙については先の記事を読んで下さいね。汗)。

中国と同じく「竹紙」を使っているから何もかも同じか?といえばそうではなく、中国とは違い「灯黒」や「炭黒」の塗布はなく、滑石による潤滑剤が施されているようです。

「滑石」とは「タルク」のことですが(同一のものでも、使用用途や国などで名前が違うというのはなかなかややこしい。汗)、手で触ると滑らかで油を含んでいるようなすべすべさのある柔らかい石です。粉末にして塗料や紙、クレヨンなどの充填材に使用したり、打ち粉的に使用される素材です。

こういう風に考えると、中国の「灯黒」や「炭黒」も「黒」という色が重要ではないはずとお話しした理由が理解できると思いますし、「使用する素材」が異なっても、「何を目的にその素材を使うのか?」ということを考えるのが興味深いですよね。

勿論「同じ竹紙」といっても、国も違えば主成分の「竹」の性質も異なる可能性があり(土壌や竹の種類とか…)、同一の製造方法ではないことも当然考えられるので、「竹紙」自体の性質が異なる上で、添加する素材の意味合いも異なる可能性もあります。

そう考えると、中国とミャンマーの竹紙を実際に比べてみたくなりますね(^^)。

韓国の場合

韓国の場合、過去は「韓紙」で現在は下地紙にグラシン紙を用いた「カーボン紙」が箔打紙として用いられている模様。

ちなみに「韓紙」の箔打紙には柿渋や漆が塗布されていたとされていますが、どうやらその職人さん自身の言ではなく、職人さんのお子さんが日頃見ていた親の仕事の記憶のようです。逆説的にいえばそれほど過去のことではない、ともいえそうです。

「韓紙」は書いている私自身殆ど知らないものなのですが、おそらく韓国の伝統的な紙で、かつ丈夫な紙のようです。現在作られている「韓紙」と韓国に紙が到来した時から古典的に作られてきた「韓紙」はまた別物みたいです。

柿渋や漆がついていた、というのはまた面白いですね。「柿渋」というと最近は「歯磨き粉」や石鹸なんかに入っていて「口臭や体臭を消す」みたいなことで認知されている趣がある気がします(そういう商品ご存知ですか?苦笑)。しかし表具の世界とかだと、名前を度忘れしちゃいましたが、作品本紙を乾燥させたり、ぴんとさせたり、一時的に張り付けておく専用の襖みたいなものの表面に塗るものとして知られているような気がします。「襖みたいなもの」と申しますのは、「板」ではなく「紙を貼り重ねた木枠」みたいなものだからで、その紙の上に「柿渋」を塗るんですね(一度だけ私もこの柿渋塗りに参加させていただいた経験があります)。

柿渋というのは「紙」に塗布すると、紙を硬く丈夫にさせる上に「防水機能」を持たせることができるので、例えば昔の「傘(紙でできている)」に塗っていたりするわけです。

ただ箔打ちには「防水」は別段気にする必要はないはずですので、それことは異なる「機能」を韓国では柿渋に求めたのでしょう。それが「韓紙」という素材と関わりがあるのかも興味深いですし、また、「どのように柿渋を塗布するのか」ということも気になりますね(単に「塗る」と言っても塗り方は様々にあるので、「どう塗るか」で効力が違うためです)。

なお「カーボン紙」とは石油や植物油由来の油煙を紙に塗布したものを指すようですが、これはいわば「複写用」の、文房具屋さんで販売されている「カーボン紙」とは別物なのだそうです。後者は「複写」という「色」が重要なのでしょうが、この「箔打紙」に用いる「カーボン紙の利用目的はおそらく「油煙」による「手触りの滑らかさ、油っぽさ」みたいなものが求められているのでしょうね。

簡単なまとめまで

今回も2つの国を見てみまして、前回と合わせて合計4つの国を比較したこととなります。前回今回とも「アジア」を見ているせいか、似ているとか同じという部分が多く感じられるのが興味深いですね。

また、国の違いで「なぜ違うのか」ということと、同一の国で「なぜ変えたのか」という感じで、「点として見る」のではなく「立体的に見る」ということの大事さもこういう資料は教えてくれる気がします。

もしレレポートや論文のために学生さんが読んでいるとしたら、当ブログを信頼しきるのではなく(資料を参照しながらブログ主の推察とか考えとかが多分に入っているので)、是非本来の資料を探して読み、そして「自分で考察して」みてくださいね。

というわけで本日はここまで。最後まで当記事を読んで下さりありがとうございます。ブログ主自身びっくりしていますが、まだ金箔のお話がつづきますので、今後ともよしなに。というわけでではではまた。

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