この記事のタイトルとおり、西洋美術での金箔の使用方法と技法に関わるお話しの3回目です。タイトル通り続きものですし、特に前回の記事が非常に中途半端なところで終わってしまい、今回はその中途半端なものの続きですので、先に前回の記事を読んでいただけると話が分かりやすいかと思います。お手数をおかけしますがその旨ご理解いただいて、当記事をお読みください。ぺこり。
前回の記事では、西洋絵画などで金箔を使用する際は、金箔の特性(このブログでは4つほど特性を挙げています)を生かしていること、そしてその特性を生かす上で硬質の基底材を用いたほうが物理的にも美観的にもよいのではと考えられるとお話ししました。その上で、西洋絵画において伝統的に金箔を使用するのは木の板の基底材の上だったりします。
その理由は前の記事にて長々と書いておりますが、端的に言ってしまえばこの世に「鏡部分」が折りたためる「鏡」、あるいは「紙や布のようにしやなかな鏡」が存在しないのと同じです。鏡は「一様に平でなければ屈折してしまい【全ての光を反射する】という鏡の特性を発揮できないから」です。
とはいえ勿論木の板のその表面はつるつるではなく、鏡面様ではありません。剥き出しの板の上に直接金箔を貼ってしまえば、布や紙を基底材とした作品と同じに、金箔のぴかぴかきらきら感を得ることは不可能となります。
なので「適正な技法材料で下地を塗布し、金箔の下層を一様かつ平滑にし、その上に金箔を貼って磨く」ことでつるつるな面を獲得する必要があるのです。洋の東西に関わらず、実のところ絵画というのは何層もの層構造になっているのですが、これは例の一つではありますが、「目的」とか「理由」とかがきちんとあって、さらにそれは「適正な技法」と「適正な材料」が用いられていることで結果がでてきます。
先の記事に書きましたとおり、紙や布のようなものの上に、「硬い層を厚く塗る」ことは作品の美観を保つ上でも、物理的に作品を永く遺していく上でも適正とは言い難い。それは日本画だから、和紙や絹の上だからではなく、西洋絵画、亜麻布の上の油彩画でも同じこと。
日本画の場合、「巻いてあるから(掛け軸や巻ものや巻子本)」や「本のページのように読む際に変形するから」のように理由を述べましたが、そうでなくともどうやっても避けることのできない変形理由があります。温湿度の影響(こちらはまだ多少コントロールできるものですが)や、重力です。どんなに大事大事に保管したいかなる油絵でも、布の上の作品は重力に負けて経年とともに必ず変形します(勿論技法材料やサイズなどの様々な要因により、変形度合は大きく変わりますが)。この変形とともに、布の上に硬く厚い部分があると、その硬く厚い箇所に亀裂が入って剥落するか、あるいは基底材自体がその硬く厚いものの重みに耐えきれず破れる・変形するが起こります。
しなやかな基底材(紙や布)の上にしなやかな上層(物理的に厚みのない上層)であれば、そうした作品の修復は適正かつ比較的容易に実施できるのですが(ただしこれは技法材料的に適正である、ということが条件ですが)、変形した布の上に固焼きの厚みのあるお煎餅を載せたような状態で、作品の変形を修正しようにも(あるいはお煎餅的な上層の変形のほうを修正しようにも)それは容易ではない(あるいは不可能)であることは想像に難くはないことでしょう。
とはいえ、では西洋絵画(油絵)作品で、画布の上に金箔を貼った作品がないかといえば、そうではありません。
とりわけ有名なのは世紀末美術・ユーゲンシュティルの画家、グスタフ・クリムトでしょう。この画家は布を基底材としたものの上に金を使っていますが、同時に気づくことはその使用の仕方が非常に日本画的である、ということです。この画家が浮世絵や琳派の影響を強く受けていることは有名で(ジャポニズムですね)、実際その金箔の使い方は日本の襖絵や屏風絵的であることはおそらく誰が見ても気づくことです。
クリムトの「接吻」の背景なんかは、13~15世紀西洋宗教絵画に見られる金箔の使用とは異なり、おそらく砂子やあかした金箔を膠などの接着剤で貼っているのではないかなぁと推察される表現となっています。日本美術によくある表現ですね。この方法の場合、金箔のキラキラぴかぴか感は排除することになりますが、布の基底材の上にて安心して貼れると考えたのかもしれません(単純に技法としても日本美術の模倣がしたかっただけかもしれませんが…)。
さてさて。ここまでのところ、金箔をきらきらぴかぴかの鏡面様にするには、一様に平滑に磨かなくてはならないという話ばかりをしていましたが、非常に面白いことに、《金箔をどのように接着するか?》ということも、きらきらぴかぴかと実は関係するのです。
ということで本日はすでに長く書いていますので、ここらへんにて。当記事を最後までお読みくださりありがとうございます。次回の続きも是非読んでいただけましたら幸いです。ではでは、また~。
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