過去の記事にて油絵修復する際には、まず「作品を理解」して、「損傷原因を理解」して、さらにそれを踏まえての「保存修復処置計画」を立てる必要がありますとお話しました。
その中でここからは作品への理解というものをもう少し話していきたく思います。
とはいえ、私は絵画(油絵)の保存修復を専門としていますので、あくまでも絵画作品への理解、ということでやっていきましょう。
そもそも絵画ってどういうもの?:絵画を言語で表現すると?
そもそも論とはなりますが、「絵画」というものを言葉で説明する場合、皆様ならどう説明しますか?「絵」あるいは「絵画」といっただけでなんとなく「それらしいもの」が頭に浮かびますので、わざわざ「絵」「絵画」を言語として説明するとなると難しいですね。
ちなみに専門的な話ではなく、一般論の確認としまして電子辞書版となりますが、明鏡国語辞典にて「絵画」という言葉をひくと、「線や色彩を使って、平面上に計象を描き出したもの」と書かれています。
普通「絵画」というものに対して、こんな小難しいことは言わないとは思いますが、でもあえ言葉にしていうならこんな感じかもしれないと、納得されるのではないでしょうか。
でも、我々修復関係の場合、物足らない感じがしますので、もっとしっくりくるものはないかと、同じく電子辞書版にはなりますが、ブリタニカ国際大百科事典を参照しますと、「なんらかの支持材、場所の上に各種の顔料によって形象を表現した芸術」とありました。
我々が使う専門用語とはちょっと違いますが、「支持材」という表現を支えるものと、顔料という描くための素材について述べられていることがわかりますね。
ですので、「絵画」というものをあくまでも構造的におおざっぱにとらえると、少なくとも「絵画を支えるもの」と「絵を描くためのもの」という2つが必要になることがわかります。
実例で言いますと、よく就学前のお子様などは紙にクレヨンでお絵描きをしますが、「絵画を支えるもの」が「紙」「絵を描くためのもの」が「クレヨン」ということになります。
「絵具」は何でできている?:「顔料」+「?」
さて、とはいえ、ブリタニカ国際大百科事典の表現中には一般的にはあまり聞かない単語がありました。
「顔料」です。
おそらく「顔料」が何かということを知っていると、先のブリタニカ国際大百科事典の説明だとちょっと足りない…?と思う方もいるかもですね。
なぜかといいますと、先ほど絵を構成するものをあくまでもおおざっぱにいえば「絵を支えるもの(例:紙、布、板)」と「絵を描くもの(例:クレヨン、水彩、油絵具)」とブリタニカ国際大百科事典を基に説明しましたが、そもそもに「絵具」は「顔料」のみではなく「他の物質」と一緒に作られるのが一般的だからです。
ただ、ブリタニカ国際大百科事典がそこをあえて「顔料」と書いている意図も推察はできます。
あくまでも推察にはなりますが、ブリタニカ国際大百科事典は「顔料を元とする『視覚的に見えるもの』で描く」という至極当たり前の話がしたいのだと考えています。
あくまでも一般論ではありますが、「絵画」は視覚芸術ですので、視認(目での認識)できることが前提となるからです。
絵画は視覚芸術:視覚に訴える顔料は主に「色彩」などを司る役割があるけれど…?
以前どこかの美術館で、視覚的に不自由な方でも楽しめるようにと「触れる」展覧会があったように思いますが、今思い返しましても悔やまれますが、どのような展示物だったのだろうなぁと想像しかできません。
果たしてそこに絵画はあったのか、と。
また、有名な日本人ピアニストの辻井伸行氏がまだ幼かったころに、お母さまが目の不自由な藤井氏に対し「目が見えないから」と美術館・博物館を避けたりせず、むしろお母さまがそういうところに藤井氏を連れて行って作品を言語化してお伝えされたとうお話を何かで読んだ気がします(うろ覚えで申し訳ありません)。
なににせよ、一般的には「絵画」というものは視覚上位の美術で、多くの人は視覚を頼りにそれを楽しみます。で、その視覚的刺激において、「色彩」を担当しているのが顔料である、ということです。
上記のような言い方をすると、なんとなく想像がつくかと思いますが、実際のところ、絵具は「顔料」のみでできているわけではありません。なぜなら、絵具に求められる役割は大きく分類してもいくつかあるのですが、その中で「顔料」が果たす役割は主に「色彩」。
絵画の画面上に表される、美しい青も、激しい紅も、清らかな白も、それらの色彩を担当する顔料あってこそ。
このように顔料は「色彩」を担当しますが、反面実のところ顔料のみが色彩に関わるわけでもありません。ややこしいですが。艶であったり、色の深みであったり、場合によっては色彩そのものにも顔料以外の素材が「視覚的」に関わってきますので顔料のみで表現ができるわけでもありません。
そういう意味合いにおいて、ブリタニカ国際大百科事典の表現は我々の専門でいえば十分とは言い難い、ということになります。
本日のまとめといいますか、なぜこんな話をしているかというような理由みたなものとして
上記のような話、そして今後続くお話は、オタクがオタク要素をばらまいている状態ですので、事典や百科辞書的には、そして一般生活上はなんら問題ないことです(笑)。
こういう例は正しくないかもですが、一般生活の中で、市販のカレー粉を使えばおいしいカレーはいくらでも作れますが、カレー粉を開発している人とか、カレー専門店をやっている方は、自分でオリジナルのカレーを作っていたりしますよね?(もしかしたらカレー専門店でも、効率の良さから自分でスパイスの調合とかをせず、市販のカレー粉で作っているかもですが。汗)よもや、新しいカレー粉の開発に際し、他社のカレー粉をベースに開発していたら、問題がありまくりですよね(笑)。
こういう風なイメージで、どんなお仕事に際してもとは思いますが、専門的にお仕事をしようという場合は、オタク的である必要がありますので、ご容赦くださいね。
次回に続きます。本日も最後まで読んで下さり、ありがとうございます。
※R.J.ゲッテンス、G.L.スタウト、森田恒之、新装版絵画材料辞典、美術出版社、1999年、P.35
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