「絵具=顔料+メディウム(結合剤、展色材、媒材)」だけど、「顔料」にも実は種類がある?

修復を学ぶ

ここしばらくの記事のおさらいとしまして、絵具に求められる3つの必須条件として「有色であること」「物質であること」「(描くべき対象に)付着すること」が挙げられるとともに、それとは別に「扱いやすいこと」や「一定期間変化しないこと」が求められると説明しました。

また、絵具は「有色である」要素を満たすものとして「顔料」、そして「(描くべき対象に)付着する」ための要素として「接着剤的なもの」の混合から成り立っていると説明しました。

また、「接着剤的なもの」は、決して「付着」だけの役割だけでなく、絵具の色味や艶に関与するため、油絵具や水彩など、その絵具「らしさ」に関わる要素であるとも説明をしました。

本日はこの「接着剤的なもの」と「顔料」の関係に関し少し専門的に話していきたく思います。

絵具は「顔料+接着剤的なもの」からなる:この「接着剤的なもの」には名称がある

この「接着剤的なもの」実のところ、専門的にはきちんと名前があります。メディウムとか、媒剤とか、結合剤、展色材などですね。

ちなみに似たような言葉で「希釈材」というのがありますが、これと「接着剤的なもの」は異なります。

「希釈」というのは「溶液の濃度を薄めるもの」を指し、接着剤的なもので説明すると、接着力を弱めることを目的に添加させるもので、それ自体に接着的な要素がない、あるいは「弱めたい接着力を持つ何か」よりは接着力がごくごく弱いものと考えるとすっきりするでしょうか。

こういったメディウム(媒剤)に対し、粉末状の顔料はそのつぶつぶの形状を保ちながら、一様に分散する形となっています。例えば、「つぶつぶオレンジ」というジュースには、液体の中につぶつぶのみかんのつぶが分散していますが、大げさに絵具の「メディウム」と「顔料」の関係性をいいますと、そういうイメージです。

何が言いたいかといいますと、「顔料」はお砂糖や塩のように溶解するものではない、ということです。

顔料にも種類がある?:「顔料」と「レーキ顔料」

なぜこういうことを言っているかといいますと、実は絵具として使われている「有色の物体」として、レーキ顔料というものがあります。

いわば、染料が「色の素」となっている顔料です。世の中には草木染とかがありますが、その素材として紅茶とかを使ったものがあります。

紅茶によって染色した草木染と同じに、例えば紅茶などの素材から染液をとり、それで非溶解性の白色顔料を染め付けることによってできたものがレーキ顔料です。

ですので、染料からなる顔料というのも存在しますが、そのあり方は、「染液」の形で使われているのではなく、一般的な顔料同様、とある白色粒子を染めた、粉体であるということが重要だったりします。

ですので、絵具というのは、色のついた粉体がメディウム(媒剤)の中を分散している「分散液」の状態(懸濁液、サスペンション)であるといえます。なお、顔料が肉眼で見える5/100㎜(5000nm)以上を「粗粒子分散液」、光学顕微鏡で観察できる1/10000(100nm)以上から5/100㎜(50000nm)以下を「微粒子分散液」と区別します。

さらに、1/1000000㎜(1nm)から1/10000㎜(100nm)以下までを「コロイド分散」と分類するようです。

この「コロイド分散」はものすごーく小さい粉体とはいえ、「分散」(溶解しているのではなく、粉体がメディウムの中を分散している)状態ですが、もう分散ではない状態がさきほどちらっとお話した「染料」だったりします。

顔料など分散状態のものは「溶解していない」状態、染料は「溶解している」ので、状態としては「真の溶液」の状態にある、というところが大きな違いですね。

ちなみに顔料として用いるものは、5/10000mm(500nm)以上の粒子径のものがよいようですが、だからといってお砂場の砂のような大粒のものでは絵具にならないことはご理解いただけるかと思います。

でも、粒子が小さければ小さいほどいいってわけでもなさそうというのが、面白いところですね。

本日のまとめ

顔料というのはこういう「レーキ顔料」か否かだけではなく、いろいろ分類することができます。

例えば天然か合成かや、有機か無機か、などもそうです。酸に反応しやすいとか、アルカリに反応しやすいなども重要な点ですね。

今回しているお話はもともと大きな塊や砂状のものを砕いたりすりつぶしたものなのか、「白色粒子」を染めたものなのかといった違いとなりますが、絵具自体の性質を理解する上で重要となりますので、頭の端にでもご記憶いただけるとよいかと思います。

でも、実際不思議ではありますよね。紅茶だって、藍染めの染色液だって、「何かを染める」ことはできるのに、それ自体では絵具ではないって(とはいえ、媒洗剤などを使って染め上げているだろうと思いますので、「染色液」のみで染めているのではないとは推察するのですが)。

こういう「不思議だな」「なんでだろ」ってところから物事は発展していたり、発達しているので、是非少しでも「不思議だな」などと思っていただけましたら、ご自身でもいろいろ調べて見られたり、実験などをされてみると面白いと思います。

私の担当しました学生でも、自分で「白色の粉体」を染めて実験した卒論を書いた子がいましたので。

ということで本日はここまで。最後までお読みくださり、ありがとうございます。

※参照:・佐藤一郎、新技法シリーズ 絵画技術入門――テンペラ絵具と油絵具による混合技法――、美術出版社、1999年、p.40

   

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