ここしばらく絵画(主に油彩画・テンペラ画)の構造についてお話しておりますが、中でも特に「下地層(地塗り層)」のお話を詳細にお話させて頂いています。
直近の記事では、「屈折率」の簡単なお話や、「物質Aを、その屈折率と近似値の物質Bで覆うと視認しにくくなる」といった簡単なお話をしました。
これら一連のシリーズは体質顔料と顔料の違いを理解するため、ひいては水性地や油性地といった下地に関してや、絵具での理解を深めるためですので、説明が分かりにくかったら申し訳ないですのが、もう少々お付き合いいただけたら幸いです。
道路や黒板にチョークで落書き…、これを水で濡らしてみましょう
さて、先の記事でお話しました、高吸水性ポリマーなどは、空気中では見えやすいけれど、水の中につけると視認しにくくなるということに関連するお話をしたく思います。
数値の話ではなく、多くの方がご経験があるかもしれない事象かと思うので身構えないでくださいね。
昭和の頃に子供時代を送った方、特に都会よりも地方の、のんびりしたところで暮らしていると確率が上がるかなぁと思うのですが、道路あるいは家の壁などにチョークで落書きをしたことがある方、きっといると思います。あるいは、日本で学校生活を送ったなら、黒板にチョーク、というのは鉄板でしょう。
黒板相手でも、道路相手でもよいのですが、そういうものでチョークで絵を描くというのは、道路などの凸凹で、チョークを大根おろしのようにおろしている状態で、道路の凸凹に直接チョークの粉体が乗っかっていたり、凹部分に入り込んでいたりする状態になります。いわば、チョーク粉末が何かの接着剤で黒板等にくっついているわけではなく、さらにいえばチョーク粉末は何かに覆われている状態であはないむき出し状態であることをご理解ください。
ちなみに最近のチョークは炭酸カルシウム主体でできているらいいので、以前の記事で書きました「二大体質顔料」の一つ「白亜」が「炭酸カルシウム」ですので、似たような素材ということです。
さてこのチョークの場合、さきに書きましたとおり、色を担当する粉体の周囲には、別段接着成分が覆われているわけではありません。いわば、おおよそ、物体の周りには空気しか覆われていない状態です。
一般的に、視力の良し悪しは置いておいても、黒板にチョークで書かれた字は読めますよね。人間の目にとって疲れず見やすいという理屈で、黒板にチョークで書かれているはずですので、通常は黒板に書かれたチョークによる文字は視認できる、という前提としましょう。その「見える」という状態のチョークと空気の屈折率を確認しますと、白亜の屈折率がおおよそn=1.5、空気がおよそn=1です。
屈折率が近似値だと「見えない、視認しにくい」と言いましたが、「0.5」差は普通に容易に目に見える状態にあります。
なぜなら屈折率というのは、大きいものでも「3弱」くらい、かな(さすがにあらゆる物体の屈折率を知っているわけではないので、そこは明確ではない部分、申し訳ありません)?さらには絵画関係の素材だとおおよそ「2弱」ですので、「0.5」差というのは決して小さな差ではないということは、ご理解いただけるかなと思います。
しかし、道路の落書きは消さなければならない宿命です。通常日本での場合、黒板にチョークだと黒板けしで消しますが、某古くからある語学教室(仏語)などでは、濡れ雑巾で黒板を拭いていました。あるいは、道路にチョークで落書きをした場合は、しかし道路には黒板消しのようなものはありません。こういう場合にどうするかといと、お水で洗い流します。つまり、ここで想像していただきたいのは、チョークで書かれたものがお水で濡れるとどうなるか、です。
で、おそらく経験のある方、いらっしゃると思うのですが、チョークで落書きした道路を水で濡らすと、わずかにチョークが見えなくなります(色によっては水に濡れても視認しやすいものもありますが、白なんかは結構見えにくくなるかも)。で、やったー、簡単にきれいになったなぁと油断をすると、お水が乾くと落書きのチョークが意外に残っていたりして。きちんとこすり洗いしないと、意外とチョークはきちんと落ちませんよね(苦笑)。
ここで何が言いたいのかといいますと、チョークが水で覆われていると、チョークが見えにくくなるということです。ただし、これは道路がアスファルト色をしているので、なお見えにくくなるのでしょうが、この原理として、白亜の屈折率がn=1.5に対し、水の屈折率がn=1.3334(20度の時)なので、チョークが空気に覆われている時よりも、水で覆われている時のほうが、屈折率の数字が近く、乾いた状態よりもチョークが見えにくくなる現象が起こっちゃうんですね。ただし、水が乾燥すると、またチョークが見えやすくなる。ですので、一時的な現象としてこういうことが起こります。
これは黒板でも同じで、チョークでいろいろ書いた黒板を濡れ雑巾で拭くと、簡単にきれいになる印象がありますが、黒板が乾くと、雑巾で拭いたとおりの軌跡が現れるようなことがありますので、「ちゃんとキレイに清掃したかしていないか」が「濡れた状態ではわかりにくい」程度に、チョーク(白亜)は、水に濡れるとちょっと見えにくくなっちゃう傾向があります。
本日のまとめ
ここで大事なことは色々あります。
まずは大気中で「体質顔料」を見るより、水中の(水に濡れた)「体質顔料」を視認するほうが難しいこと。
この大気の中と水の中の「見え方」の違いは、「屈折率」の違いに関わること(水のほうが大気より体質顔料の屈折率に近い数値を持つこと)。
ただし、チョークの場合は黒板や道路の色も関わっているため、この場合は完全に大気、水、チョークのみの関係性ではないこと。
「水」の場合、特に水に「漬かっている」状態ではなく、水に「濡れた」状態の場合は、「後に乾燥」するため、「濡れた状態での視覚」は「一時的(濡れている期間のみ)」であること。
他にも色々いえることはあるでしょうが、現段階で逃さずご理解いただきたいのはこういったところですね(^^)。
上記は、当たり前言えば当たり前のことなのですが、意外に頭から抜けてしまうことが多い要素ですので。
なかなかこの話、難しいので、先に進まなくて申し訳ありません。ブログ主自身も、なかなか先に進まないなぁと思いつつおります。
同時にさすがに大学で授業をしていた際はここまで細部にわたっての説明はできなかった(時間の関係で)ため、ここまで説明するとわかりよかったのか、結局しつこいとなるのか、微妙だなぁと思いつつ書いております。
読んで下さる方たちにとり、少しはわかりよいとよいのですが(汗)。
本日も最後まで読んで下さり、ありがとうございます。
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