ここ連日、絵画(主に油彩画・テンペラ画)の構造についてお話しております中、直近の記事においては「絵画層」を構成する絵具の中でも、「色を担当」する「顔料(あるいは体質顔料)」の分類の一部についてお話しました。
本日は同じく絵画層を構成する「絵具」の中でも、「油絵具」における「接着成分」である「乾性油」ってどういうものでしょうというお話をしていきたく思います。
過去の記事の復習的に、油絵具における「接着成分」について:「乾性油(あるいは加工乾性油」とは?
まずは復習となりますが、絵具というのは「色を担当する粉末」とそれらの粉末をまとめたり、ペースト状にしたり、基底材に固着させるための「接着成分」的なものからなるというお話を過去に何度もしました。
また、この「接着成分」の違いによって、絵具の名称が変わったり(例:水彩絵の具、油絵具、テンペラ絵具…)、あるいは絵具の性質が変化します。
特に今までの記事で何度もお話しているように、「油絵具」における「接着成分」である「乾性油(あるいは加工乾性油)」と膠やアラビアガムなどの違いは、水や樹脂が蒸発・揮発などをして接着成分が残るからという経過をせず、「乾性油(あるいは加工乾性油)」が酸化重合という化学変化をすることで、3D構造を築くという形で固化する(油は蒸発してなくなるなどはせず、そのまま残って固化する)ということが起こることが簡単な説明にはなりますが、大きな違いの説明となります。
こういった油絵の「接着成分」である「乾性油(あるいは加工乾性油)」の代表的なものがリンシードやポピーオイルです。過去の記事でもご説明したとは思いますが、更だ油やオリーブオイルなど、身近に色々な油はあれど、どんな油でもよいわけではない、ということです。
「乾性油(あるいは加工乾性油)」とはどんなもの?:一般的なサラダ油やオリーブオイルとは何が違うの?
過去の記事などにおいても、「油絵に使う油は、サラダオイルなどではない」というお話は何度かしました。では、なにが大きく異なるのでしょうか?
回答としましては、あくまでも見かけ上としてではありますが「乾燥するか否か」です。まぁ、何度も「乾性油(あるいは加工乾性油)」という名称を使っているので、これは目新しくもないですし、想定内ですよね(^^;)。
その上で、ではどういうものが「乾性油(みかけ上乾燥する油)」であるのかを考える必要性があります。一応、それには条件があるようです。
その条件とは即ち、油が乾燥するには、その中身に不飽和の脂肪酸が最低でも65%以上であることが必要と言われています。
この時に、「不飽和脂肪酸」ってなんぞやということが分からないとちょっとわかりにくい話になるのですが、よく化学の話(高校化学)では、「飽和」「不飽和」という単語がでてくると思います。
単純に「飽和」をデジタル大辞泉で調べると①「含みをもつことのできる最大限度に達して、それ以上予知がないこと」②「ある条件のもとで、ある量が増加していき、それ以上増加しなくなる最大限に達した状態」③「やっていることに飽きがくること、疲労とは区別される」とあります。ちょっとわかりにくいですかね?
べつに日本大百科全書(ニッポニカ)で調べますと、色々かいてあるのですが、「一つの平衡状態とみなさる」という一文が一番しっくりくるように思います。
ちなみにデジタル大辞泉によりますと、「平衡」とは、①「もののつりあいがとれていること。均衡」②「つりあいがとれて物事が安定した状態にあること」、③物体または物質に変化を起こす原因がありながら、それらの効果が相殺し、一定を保っている状態」とあります。
つまり、「飽和状態」というのは、わざと化学的な専門的な言い方をせずに説明すると「安定して、一定で、変化が起きにくい状態」というのをいうわけです。
なぜか、なんですけど、これはあくまでも文系の人間の認識であって、専門で化学をしている方からすると「そうではない」と言われそうでもあるのですけど、「化学変化」が起きる時というのは、「安定に向かうため」だとブログ主は理解しているのです。
いわゆる、よく冒険家とか、挑戦者とか、格闘家とかが「今までにない何かを!」とどこか(一般人にとっては)突拍子もない挑戦を求めて化学変化というのが起きるのではなくて、少なくとも一時的に、あるいは永続的に、「化学変化をしなくてもいい姿」を求めて変化する、という印象なんですね。
よく学生に対して説明していたのは、「安定した生活がしたいわ~、でも一人では不安だわ~」っていう独身者がいるとして、一応「最近独立した自営(給料は変動)」とくっついてみたものの(化学反応、しかし不飽和(不安定)状態)、別のところから「公務員(高給料、安定職業)」がでてきたときに、そっちにのりかえる(化学反応、飽和状態)みたいなものですよという話です。で、よほどその結合した相手と相性がよい(飽和状態、安定状態)である限り、それを超える条件がなかなかでないので、他に反応しなくなるわけです。
で、物にはもともとの状態として「不飽和」な要素を多くもつものと、「飽和」な要素を多くもつものがあるわけで。絵画業界における「油」としては、液体が固化するという特性が必要になるわけだけれども、それって「変化」であって、「液体がずっと液体でいるという安定」ではないことですよね?ですので、変化を起こす要素である「不飽和」な要素というのが必要不可欠になるわけです。逆に「飽和(安定)」しているならば、「液体はずっと液体」みたいに「変化(ショック)」をしないわけですから。
大学で説明する際は、もう少し基礎化学(高校化学)的な説明をしていたのですが、ブログ上、図の準備などの面倒もあり、ちょっと断念(苦笑)。
本日のまとめ的なもの
本日は少し高校化学的な話が入ってきて、難しかった点もあったかもしれませんね(^^;)。
とはいえ、過去の記事で説明しているとおり、現代の文化財保存修復の業界において物理化学の知識は不可欠です。いろんなことを腑に落ちる形で理解するためには、少なくとも基礎化学(高校化学)の知識は必要と考えて頂けるととてもよいですし、ブログのいうことがわからないなぁという場合に、基礎化学の参考書などを読みながら考えてみるのも一つの方法かとも思います。
大学で教えていた頃からお話していたことですが、ブログ主自身、高校時代化学は本当に苦手でどうしもようもなかったのですが、その理由のひとつとして「なぜそんな高度なことを学ぶ必要があるのかわらかない」ということもあり、いまひとつ勉強に身に入らなかったんですね(今思えばなんてわがままな…という感じではありますが。汗)。
ただ、どんな方でもどんな職業の方でもそうなんですけど、「これがわからないと自分の職業に響く」とか、「これが知りたいから」とか、「これができたらもっと自分のやりたいことができる」とか、目的を持つと、皆さん苦手なことでも克服されるので(私自身、こういう職業を目指したときに、化学必死にやり直しました。笑)、もしこの職業などに興味を持たれた方がいる場合は、「仕事に必要」ということで頑張って勉強してみてほしいなと思います。
ということで、本日も最後まで読んで下さり、ありがとうございます。
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