紫外線蛍光写真の「蛍光」を理解するための基礎化学2:蛍光物質が蛍光する理由

絵画の修復

前の記事の続きで、絵画作品などに紫外線を照射すると、照射された物体の表面を構成するものが蛍光することがあるのですが、その「蛍光」を理解するためのお話をしております。

前回の記事では、原子の構造や電子の配置についてといった高校の基礎化学のお話をしました。前の記事を見ていないよという方で、特に高校の基礎化学、どんなだっけ?と記憶が曖昧な方はよろしければ先に前の記事をご覧ください。

蛍光という現象の原理

ここから本題の蛍光という現象についてお話すると、簡単に言ってしまえば「原子中の電子が特定の光エネルギーを吸収し、さらにそれを放出することで蛍光という現象は起こる」とうことらしいです。

ブログ主が大学で教鞭をとっていたころの授業のパワーポイントから

文化財保存修復における「調査」で紫外線蛍光写真を使うという場合をこれに当てはめると、「原子に照射される光エネルギー」というのが「紫外線」というわけ。

ただしあらゆる物体に紫外線を照射したからと、この「蛍光」反応が起こるわけではありません。あくまでも「蛍光物質の原子」に対して紫外線を照射した時に限ります。

このように「蛍光物質の原子」に特定の光、この場合紫外線を当てると、「蛍光物質の原子」の原子核の周辺に位置している電子はエネルギーを吸収して、さらに外側の軌道へ一時的に移動します。

外側の起動って何?と思われる方は、前の記事を是非先に読んで下さい(苦笑)。簡単に言えば、原子は原子殻の周辺に電子が規則正しく配置された状態で存在しているのですが、この電子の数に関しては原子によって決まった個数を保有することや、原子殻の周りにある複数の起動の中に、配置できる電子の数が決まっているなど、決まり事があるわけです。

通常電子は原子殻に近い軌道から、椅子取りゲームのイスが埋まるように配置されていくのですが、紫外線など特定の光を照射されると、「電子が位置すべき軌道のお約束」を忘れて、電子が外側の起動に移動してしまいます。

しかしながらこの電子の外側の起動への移動は、あくまでも一時的なものでしかありません。

例えば寒い冬に、子供が遠赤外線ストーブで暖をとる(遠赤外線も暖かくなる波長を出しているわけで、身体に暖かいエネルギーが与えられている状態ですよね)と、一時的にとても暖かくなって、家の中にいるより「戸外で遊びたい」となる場合もありますよね。でも、遠赤外線で温められた熱はずっと保有されるわけではありません。寒い外気に熱を奪われてしまうと、どうなるか。身体の冷えた子供はお家の中に戻ることでしょう。

上記はあくまでも「電子」を「子供」と見立て、特定の光を「遠赤外線ストーブの波長」に置き換えましたが、エネルギーが与えられて活発になる様子や、逆に熱が奪われてまた寒い中で活発さが失われる状態というのは簡単に想像できたのではないでしょうか。

このように電子に特定の光を与えて、電子が外側の起動に移動をしたとしてもあくまでも一時的なものに過ぎません。電子が吸収したエネルギーを放出しながら、すぐに元の位置に戻ってしまいます。

すなわち、蛍光物質の電子は、照射された紫外線を吸収することによって、外側の電子殻へ移動して、すぐに熱だったり光だったりのエネルギー放出をするのですが、その放出するもの幾分かが、「蛍光物質」の電子の場合は「可視光線」を放出するわけです。熱なり光なりのエネルギーが放出されると、電子は元の電子殻の位置に戻るという動きをします。

吸収される紫外線の量および、放出される熱や光の割合などはあくまでもわかりやすくした例です。ご注意を。

これが我々人間が視認できない紫外線というものを物体にあてたときに「蛍光」という形で人間にも見える状態になる現象です。人間が視認できるのは「可視光線」に限られていますので、だからこそ「蛍光物質」の電子が「可視光線」を放出する、ということがとても大事なんですね。

ここから本題の蛍光という現象について話していくと、原子中の電子が特定の光エネルギーを吸収し、さらに放出することで蛍光という現象は起こります。つまり、蛍光物質の原子に、特定の光を当てると、電子はエネルギーを吸収して、さらに外側の軌道へ一時的に移動します。でもこの移動はあくまでも一時的なもので、電子が吸収したエネルギーを放出しながら、すぐに元の位置に戻るのね。つまり、蛍光物質の電子は、紫外線を吸収することによって、外側の電子殻へ移動して、すぐに可視光線を放出して元の電子殻の位置に戻るという動きをすることで、蛍光物質は光っているのです。  

でも、なぜ電子が一時的に遠くに移動して、なぜ元の位置に戻るときに放出するエネルギーはそのまま紫外線ではなくて、可視光線なのか、という問題があります。 そこで考えるべきなのですが、電子が原子核のすぐ近くで回っているときと、原子核から遠くの半径で回っているときというのは、どちらのほうがよりエネルギー、つまり引っ張る強さがいる状態でしょうか。

本日のまとめ的なもの

このブログ内でもそうですし、文化財保存修復に関して大学で学ぶ際に、日本でも海外でも必ず「ものを視覚する」ことの構造について学びます。

なんていうんでしょう。目に支障がなく、物心ついたころから「見える」という恩恵に与っていると、「見える、視覚する」ということが当たり前になってしまっているんですね。

小学校の理科でも軽く学んだから、ということもあるのですが、「見えること」が「光(可視光線)」と「物体(見るべき対象)」と「目(および脳)」がないと見えない、という授業を結構軽視してしまう学生さん、結構いるんですね。当たり前のことですので。

でも、上記で書きましたような「見える」システムが分かると、今回の照射した光が「紫外線」で、「見えるわけがないのに」、「蛍光」という形で「視認できる」理屈がストンと腑におちると思うんですよ。

ブログ主も学生をしていたころ、教養科目などで「なんでこんなこと…」と思うこと、ゼロではなかったですけど(苦笑)、「自分の勉強したいことは決まってるから、これ、不要」と思っている勉強の内容が、全然不要どころか「なんであの頃、しっかり向き合わなかったんだろう~!」と誰しもが思うものです(そういう自戒の念をもってして、先生も親御さんも「しっかり勉強しなさい」というのですが。^^;)。

家を建てるときもそうですけど、基礎の部分がしっかりしていると、それに見合った大きな大邸宅を建てることができるのですが、基礎がおろそかだと、いくらその上を豪奢にしようとも、もともと耐久性が悪いでしょうし地震なんかですぐ倒れてしまいます。これから大学などで学ぶ方には、基礎、大事にしてほしいですね。

というわけで本日はここまで。最後まで読んで下さり、ありがとうございます。

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