本日から西洋における美術や絵画の発展の歴史について、ごくごく簡略的なお話ですが、書いていきます。
文化財保存修復関係なのに、なぜそんな美術史的な話を?と思うかもしれませんが、作品が制作された時代ごとの発展や特徴、社会的・精神的背景を知ることは、それぞれの作品の時代性や個々の作品の構造の理解、ひいては、作品のアイデンティティやオリジナリティへの理解にも繋がるからです。
勿論、詳細な作品の物理的情報を知りたい場合は、こんな概略的な美術史では不十分ですので、調査対象の作品を様々な視点で調査する必要がありますし、場合によっては科学的な方法を要することもありますが、国や時代の傾向や特徴などを知識として知っておくと、自分の取り扱う作品の特徴と、それらの知識を照らし合わせることで、おおよその推論を立てられる場合もあります。歴史的な話を知ることは、作品への深い理解のために重要な要素なのですね。
さて、西洋美術史的にざっと美術様式の変化を見てみると、例えばギリシャ・ローマ、ビザンチン、ロマネスク、ゴシックなどからはじまり、一般的によく知られているルネサンス、マニエリスム、バロック、ロココ、新古典主義、ロマン主義、写実主義、印象派という流れで、近現代美術たどり着きます。
ただ、ブログ主の手持ちの美術史関係の簡略本(フランス語のもの)は、14,15世紀始まりなのですが、全230ページほどの本の、70ページくらいまでに上記のルネサンス、マニエリスム、バロック、ロココ、新古典主義、ロマン主義、写実主義、印象派くらいは入り込んでしまい、実は残り160ページほど、近現代西洋絵画(あくまでも欧米の美術)のグループ分けがあると考えると、印象派以降は非常に細かい分類になりますし、非常にニッチな世界になりますので、とりあえず今回のシリーズ上はギリシャ美術から印象派程度までをめどにあくまでも簡略に美術史のお話をしていこうと思います。
ギリシャ美術
まず古代のギリシャ美術から始めますが、ギリシャ美術は、幾何学文様時代(前1000~前700)。次にアルカイック時代(前700~前480)。さらにクラシック時代(前480~前323)を経て、最終的にヘレニズム時代(前323~前30)で終焉を迎えます。
ちなみにギリシャでは、紀元前6世紀までに、市民が主体的に政治に関与する権利を持つ、直接民主政治が確立します。とはいえ、選挙権を持てたのは富裕層の成人男性のみでしたので、厳密な意味での民主制ではありませんでした。
また、ギリシャはその風土から農作物が育ちにくく、他国から食物を輸入する必要があったことによって、交易産業が発展していきます。こうして最終的に地中海全体を植民地化させ、その土地の人々を奴隷にし、その奴隷を使った海運交易で発展を見せていきます。奴隷の使用により時間的に余裕ができた富裕層によって文化芸術が発展し、これにおいては、政治体系である直接民主制が重要となります。
政治の決定権を市民が担っていたことから、各々の市民が美術作品ひとつひとつの出資者としての役割があると同時に、一人一人が善良で賢い市民、すなわち、理想的な精神を持った人間であることが要求されました。そういった理想像を求めたのがギリシャ美術です。
こういった理想や完璧といったものを持ちえるものは人間ではなく神ではないか、と考えているのか、神々の姿を象った彫刻が見られることが多い美術です。
ギリシャ美術:幾何学文様時代
最初の幾何学文様時代においては、装飾に限らず、人体や動物のような立体的な形態の表現にも幾何学的造形法が用いられました。例えば人物では、頭部は側面から、胸部と腹部は正面から、腰から下の下半身は側面からというように、部分を別々に認識した上で、人物を全体として組み合わせました。
実際ギリシャ美術の幾何学文様時代の作品の写真などを検索されるとわかりやすいですが、人間などを表現していても「個」がわかる表現ではなく、ある種棒人間的な記号的な表現からなります。だからこそ幾何学文様時代なんですね。
本日のまとめ的なもの
今回の記事などをご覧になるとお分かりになるかなと思うのですが、いわゆるな「美術作品」の見た目だけのお話だけでなく、「なぜそのような表現を?」というような時代背景のようなものも理解すると、いろんな事象が3D的にといいますか、シナプスが色々あちこちにつながるようなそんな感じがする感じがきっとすると思います。
そういう意味合いにおいて、「作品を知る」というのは単純に作品自体の来歴を見るだけでなく、どういう時代背景だったのかとか、あるいは歴史的な流れのどういう部分にあるのかといったこと、あるいは同時代性としてどういう流行あるいは禁止事項などがあったのかなど、いろんな視点で作品を知ると、得られる情報というのはそれに比例して大きくなるんですね。
ただ、実際こういうお仕事をしていても、なかなか時間の関係などで資料調査などに裂ける時間がない!ということはしばしばありまして。そう考えると学生時代というのは、「作品のことだけ」を考える時間があり、非常に贅沢で、潤沢だったんだなと思い知る感じがします。
最近はyoutubeなどでも歴史系の面白いチャンネルなどがありますので、そういうものを利用して、歴史の触りだけでも触れておくのも大分有用かもしれないなと思いつつおります。
というわけで本日はここまで。最後まで読んで下さり、ありがとうございます。
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