直近の記事より、(主に)紙に関して記事を書いております。
また、直近の記事においては、主に紙を構成する主成分としてグルコース(ブドウ糖)、セルロース、ミクロフィブリルに関するお話をしました。この3つの単語は紙を理解する上で重要なので、紙の修復に関して興味があるという場合は覚えておくべき単語ですね(だからこそですが、このブログは「こんな用語があるんだ」程度の足掛かりとし、いろんな書籍を調べていただけたらよいですね ^^)。
また、「(主に)紙に関する記事」としているのは、先のグルコース(ブドウ糖)、セルロース、ミクロフィブリルが「紙」の専売特許ではないからというのも直近の記事にてお話しました。
なぜなら上記はが植物繊維の主成分であることを考えれば、綿や亜麻、麻、木材とて小さな単位に分解すればこれらと関わりのある素材であることがお分かりになると思うためです。
ブログ主自身、海外留学での授業にて「紙」の授業(文化財学科全員必須)にて受けた内容ですので、このシリーズでも「紙」という内容でお話しているのですが、上記のことなどを考えると「僕(私)は油絵を専門に勉強したいから、彫刻とか紙とか興味ない」とかいうのは非常にもったいないことをすることになるのはご理解いただけると思います(こういう学生さんが多いので、学生さんや高校生の方も読んでいるかもしれない前提でこういうお話をさせていただいています)。
日本の大学は違いますが、海外の大学においては、医療系と同様に、「眼医者になるから、外科になるから」であっても、すべての基礎を学ぶのと同じに、西洋絵画の保存修復に進むといっても、ガラスとか陶器とか紙とか彫刻とか、その学校で学べることはすべて勉強しました。特に西洋絵画関係に進みたい場合は、結局作品の基底材に木材や紙、ガラスや金属が使われていることもあれば、額縁の素材に木材やガラス、アクリル、金属、べっ甲などが使われていることもあり、本当に多彩な素材への知識や経験がないと怖かったりします。
当ブログを読みに来ている方の中には、学生さんだったり、こういう職業に興味のある若い方がいるのかもしれないので、特に「必須」となっている授業に関しては、「私関係ない」ではなく、どこかでつながっていると理解して学ぶ姿勢が大事であることをお伝えできればいいなと思っています。
というわけで本日は先の記事のセルロースの他に、紙を構成するものに関し記載します。
ヘミセルロースって?
さて、先の記事にて主な植物繊維としてセルロースのお話をしましたが、紙の構成要素はセルロースだけではありません。
このセルロース以外の多糖類として、ヘミセルロースというものも存在します。
このヘミセルロースは直鎖と分枝の混成ポリマー(グルコースや他の糖の混合)からなります。分枝っていうのは、中心かつ主な存在である長ーい鎖に対して、枝毛のように途中から別の鎖が生成されたものをいいます。
分枝の鎖の長さとしては、セルロースよりも短く、セルロースよりも低い重合度です。加えて化学的な安定性はセルロースよりもヘミセルロースのほうが低くなります。つまり、ヘミセルロースはセルロースよりも脆い性質を持つ、ということです。
またヘミセルロースの分子の鎖は親水性があり、水やアルカリに対しては可溶性を示します。
分子の鎖の長さとしてセルロースより短かったり、親水性を示すことから、ヘミセルロースは紙における不安定性の要素となりうります。
同時に水やアルカリに可溶性であったり、アルカリ性で抽出されることから、製造過程の間に除去が可能な場合もあります。
こういったヘミセルロースが先の記事のセルロースに付着している状態で、紙などになっているんですね。
リグニンって?
リグニンは例えば木材の場合、約20~30%ほど含まれ、セルロースに付着している要素です。
複雑な三次元網目構造を形成する高分子化合物でですが、重合度は低いとされます。
先の記事に書きましたミクロフィブリルなどの細胞間の接着や、細胞膜の強化の役割があることから、紙の硬質さの要因となる反面、温度や湿度変化、加えて紫外線に対して反応しやすい要素であることから紙の変色、耐折強度低下の原因ともなる要素です。さらに言うと、リグニン自体が酸性を示す性質を持ちます。
リグニンは水に不溶ではありますが、アルカリ溶液には溶ける傾向があります。また加熱することにより柔らかくなり、可溶性に変質する。さらに加圧によっても可溶性になるとようです。
リグニンの分子構造としては二重結合をもつため、それ自体が不安定な要素といえます(化学が苦手な方の「誤解」あるあるですが、「二重」という単語がつくと、しっかりした結合と思っちゃうですけど、二重結合三重結合などは、反応性が高いので不安定なのです)。すなわちフォクシングなどの損傷を与える要因となりかねないことを考えると、紙の製造段階において可能な限り除去するほうがよいと考えられます。
本日のまとめ的なもの
よくよくいろんな分野で言われることですが、「一方的に最悪」という事象というものはありません。あくまでもあるものの存在、それ自体は中立的なものであり、個性・特性を持つだけのことなのですが、「A」という視点から見ると「素晴らし」い反面、「B」という視点から見ると「困った」ということになる可能性をも持つ、ということです。
ですので、あくまでも文化財保存の視点で見た場合の(作品を長期的に美観的にも物理的にも保つ上で)「よい要素」「悪い要素」であると考えてほしいです。また、もしかしたら作品によってはその「悪い要素」とされる部分を「利用」していることもあるかもしれないので、まずは単純に「いい」「悪い」を評価する、というよりも、「そういう要素、構造からなるんだ」という中立的な視点で見てほしく思います。
その上で、次回の記事にて、先の記事のセルロース、当記事のヘミセルロース、リグニンの関係などを見てもらい、特に制作をする方をはじめ多くの方が「やっぱりその素材を選ぶ」「それでもその素材を選ぶ」ということを考えてみるとよいのかなと、思います。世に市販されている限り、あくまでも「これにおいてはよい」「これにおてはどうかな」と同一ではない視点で商品が選択されているはずです。ですので、一方的に「何が悪い」「何がよい」と言いたいわけではないことはご理解いただけるとよいかなと思います。
というわけで本日はここまで。最後まで読んで下さり、ありがとうございます。
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