紙ってどんな素材⑨?:製造段階での耐久性の違い4/4

修復を学ぶ

ここしばらく(主に)紙に関するお話をシリーズ的にお話しております。

この記事で9回目なのですが、おそらく最初の記事(1回目)から順に読まれたほうがわかりよいかと思います。もしよろしければ順番に記事を読んでみてくださいね。

特に4つ目から8つ目の記事にて、紙の保存性(耐久性)の良さというのは、どういう部分に関わっているのかについてお話しています。本日の記事との関わりからも、ご一読いただけると幸いです。

また、8つめの記事までの間にパルプを元とした紙に関しては多くは書いておりませんが、パルプに関してはおそらく4つ目から8つ目の記事の内容を読めば、自ずとどうして耐久性として…ということが推察できるものと考えています。もしかしたら新たに別のシリーズにて詳細にお話するかもしれませんが(^^;)。

なおもし学生の方が当ブログを受験、試験、論文、レポートのために読んでいるようでしたら、ブログはこれらの参照文献にならないことは前もってご理解ください。当ブログに限らず、ブログというもの自体が参考文献にならないはずですから。

というわけで本文。

紙を構成する「繊維」以外の素材

実のところ、紙を構成しているのはシリーズ中過去に書いてきました「繊維的な存在」以外に他の要素もあります。

例えば

  • サイジング
  • 体質顔料
  • 結合剤
  • 染料、色素
  • コーティング剤

です。

サイジングに関しましては、過去の記事にてわずかながら説明しておりますので、ここでは割愛します。

体質顔料も過去の記事で説明しておりますが、紙の製造における意味合いと、油絵にて用いる意味合いは変わってきますので、少々だけ説明を。

紙を製造する際に、繊維的なものだけでなく体質顔料を混ぜあわせるのは、紙の特徴を改良するためです。例えば紙の不透明度や、白さ、表面の滑らかさなどを好みのものにするためです。

これに対して結合剤は何のために使うのでしょう。先ほどの体質顔料のような「粉末」を紙の製造に用いるのでなければ、おそらく結合剤を入れる理由は大分減るのではないでしょうか。

なぜなら紙は本来細い繊維同士が絡まりあって支え合っているものですが、粉体というのは、どうやっても絡まり合えない物体です。ですので、紙としてなりたつために(粉体を繊維に付着させるために)結合剤が必須になります。

あるいは紙自体の力学的な耐久性や、紙の水に対する耐久性を改善するために混ぜ合わされます。

では、染料や色素はどうでしょうか。例えば紙を白くしたいという要望に従って使用されます。あるいは逆に赤い紙がほしいとか、黄色い紙がほしいとか、そういう「白色以外の任意の色を持つ紙」を制作するために使用されます。子供の頃に使った折り紙なんかはそういう例ですよね。

最後はコーティング剤ですね。一番最初のサイジング(サイズ)と何が違うのか、ちょっと悩むところですね。簡単にいうと、サイジングというのは、多孔性の物質の表面に接着成分を塗布しえ、その「小さい穴」を埋めてしまう(場合によっては必要次第で完全に埋めていない場合もある)作業です。「穴」がなければ、その上から水性のもので描いても、描いた絵具がにじまない、シャープな描き味になります。

これに対してコーティングですが、紙の特性を改善するために塗布されるものです。例えば紙の不透明性、白さ、表面の滑らかさ、艶、多孔性、印刷適正を改善するのが目的での塗布となります。

だからこそですが、サイジング(サイズ)は描く面の表面に主に液体状態ものが塗布される形となりますが、コーテイングの場合はペーストであったり、あるいは浸漬していたりするようです。

また、コーティングの場合の塗布は片面の時もあれば、両面であることもある模様。印刷適正のようなものを改善するのであれば、両面印刷したい紙のために両面にコーティングが必要であることは必然ですよね。

今回は本当に簡略ではありますが、こういった紙を構成する部分などがどのような素材でできているのか。紙の骨格をなすセルロースを傷つけるものではないのか?もしくはセルロースとの関係性がよいものであるだろうか?あるいは加えられているそれらの素材自体が耐久性のある素材なのだろうか?など、色々なことが考えられるでしょう。

勿論時代によって紙製造の過程の中で、どういう素材が加えられているのかも違いますし、どういう方法で添加されているのかも異なってきます。こういう素材だけでなく、「技法」の違いでもおそらく耐久性というのは変化するとも考えられます。

そう考えるとパピルスなんかは非常にシンプルで、でも耐久性があるんだなぁと感心する部分がありますね。

本日のまとめ的なもの

紙、と一言に言いましても、本当に色々あります。さらに、作家があれこれ紙以外の素材を使って作品を制作するため、さらに「紙」の耐久性というのはややこしい話になってきます(汗)。

ただ「ややこしいから、もう、どうでもええねん」ではなくて、もともと丈夫な素材であっても、加える素材によってはその丈夫な素材をも弱らせてしまうため、「残したい、長持ちさせたい」という作品を制作する場合は、是非素材や技法を吟味してほしく思います。

そしてそれは紙にのみいえることではなくて、布や板を使う油絵も同様であることは、おそらく薄々気づいてもらえているのではないでしょうか。1つ目の記事を読んでいただければ尚更…。

表現のために素材をどのように使ってもいい、というのは、表現者の立場からすると正義なのかもしれません。そこは保存修復関係者が阻止できる話では全然ありません(^^;)。

でも、「作品を残したい」と思う場合、また、「作品を購入してもらって、長くそれを残す労力を相手にかける」ことを考えた場合、「プロ」として、「長く残る」方法で制作するのが基本ではないかと時々個人的には考えてしまいます。だって、長持ちしない家電とか、長持ちしない車とか買わされたら「サギだ!」って思いますよね。高額なものなら尚更。

そういう視点で考えてみますと「作品を残すのは学芸員(あるいは個人購入者)の役割で、作者の私はしーらない」っていうのは一般的な製造販売ではありえない話だと思うのです。だって半壊れの作品(すぐ壊れる前提の作品)を売っておいて、「すぐ壊れた」っていうのは困りますから。

現代にクラシカルな作品が残っていることで、「どんな作り方をしても、残す人間が頑張れば、作品は残る」と誤解しているのかな?とついつい邪推してしまいます(苦笑)。クラシカルな作品は「永きに渡り遺る」よう、素材も技術も精査されたものが駆使されていることをご理解いただけたらと思います。クラシカルなものほどそうです。現代に近づくほど壊れやすい。

誤解していただきたくないのですが、自分自身が絵を描いていたころは知らなかったことですので、誰かを責めたいという話ではありません。

少しずつでも知っているかたが増えることが、ひいては作品が残る道だと思うからです。「処置する人間(修復家)」が必死になっても限界があります。支払いをする側にとっての金銭的な限界も。だからこそ、そもそもに「壊れやすい作品」が減ってくれたらな…と思うのです。いえ、私自身の作品も、決して壊れにくい作品ではないので人のことは言えないんですけどね(汗)。

というわけで本日はここまで。最後まで読んで下さり、ありがとうございます。

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