2つ前の記事および先の記事にて簡単に日本と中国とミャンマー、そして韓国の「箔打紙」の「過去」「現在」についてお話ししました。詳細は2つ前の記事および先の記事をご覧ください。
本日はごく簡単に2つの国のものを見ていきますが、詳細には「金沢美術工芸大学 美術工芸研究所」出版の「世界の金箔総合調査」という資料をご覧ください。当ブログを卒論やらレポートやらに使っても、何もいいことはないので、学生の方はそこは注意して読んで下さいね。ブログには何の信ぴょう性もないですから…。
インドの場合
先の日本、中国、ミャンマー、韓国では様々な素材、様々な製法の箔打紙が使われていましたが、一つ大きな共通点がありました。いわゆる主成分といいますか、主の素材が「植物繊維的なもの」ということです。
これに対しインドの箔打紙は大きな違いを見せます。すなわち過去の箔打紙も、現在の箔打紙も、「羊皮革」からなるそうです。「過去」というのが100年前の話なのか、「紙がなかった頃」なのかが疑問ではあるものの、少なくとも「紙が普及している現在」でも「紙」で箔を打っていないというのが非常に興味深いところです。
また、参照している資料を見ると、この「箔打紙」の「動物革」の作り方は「羊皮紙」の作り方と似ている(私は二度ほど某羊皮紙工房の羊皮紙作成講座にて羊皮紙作りをしているので…)というのも面白いところです。
羊皮紙作りを経験した方だと想像がつくとは思うのですが、動物の革というのは片面には毛穴があって、毛がもさもさに生えています。で、その逆側は脂肪などがついているわけで、これらをなくして「平滑な面にする」というのは、知識と経験と技術が必須なわけです(特に脂肪分をきれいに除去する大変さよ…。涙)。
また、インドの場合「動物革」ではなく「羊皮革」と限定しているのは「宗教」の関係などもあるからでしょうねと思いつつ。
「何かの素材」というのは、古い時代ほど「そこにあるから」ではあるけれど、「宗教」など文化的なものも関わると思うと単純ではなく、興味深く感じるのです。
ヨーロッパの場合
大きな違いを見せた「インド」に対して「ヨーロッパ」はどうかというと、「過去」に使用していた「箔打紙」はインドと同じく「動物の皮革」だった模様。またインドとは違って「動物の盲腸など」のような内臓も使用していたようです。
とはいえ私が参照している資料によると、「動物の皮革」を箔打紙として使用した歴史はそんなに長くなく、「皮革」は16世紀、「盲腸など」は17世紀あたりからの使用の模様。それ以前の場合、例えば12世紀のテオフィルスによると「植物の靭皮繊維から作った紙」を用いたとされ、さらに昔9世紀の「ルッカの手稿」によると「銅の薄板」を使ったとされています。
興味深いのは、動物の革というのは現代でもそうですけど昔々、動物の革が本の基底材だった時代なんかはものすごく高価な素材でした。そもそも「動物」に由来するので、その動物を育てる・捕まえる手間がありますし、その際できるだけ「傷つけない」配慮もいります(これ、革製の鞄や靴を購入するときなどでも非常に重要なことですし、販売する側も「傷」はものすごく気にするはずです。特に高級ブランドほど。こういった実用でなくとも、羊皮紙にするのに傷があるのもよくないので…)。また実際やられるとわかりますが、「動物の革」を「革」や「羊皮紙」にするまでの手間がものすごくかかる!だからこそ羊皮紙などでできている本は「貴族」などのお金のある人間しか手にできないものでしたし、聖職者でも「聖書」を実際に触れたのが高位聖職者に限られた、みたいな話もあるくらいです。そういう高価なものだったんですね…。
だからこそなのか「箔打紙」という「実用品」に使われ始めたのが、活版印刷後(印刷ができる、ということはそれだけ基底材としての紙の普及があるということ)で、かつ大分それが地域に定着した後である、ということが面白い部分であると思います。
対して「現在」はどうかというと、「動物の皮革」を使用していたものは「グラシン紙」に代替され、また「動物の盲腸など」を使用していたものは「プラスチックフィルム」に置き換わっているようです。ここでいきなりプラスチックフィルムという素材がでてくるのも興味深いですし、「なぜプラスチックフィルムなのか」と考えるのも面白いと思います。
また、ヨーロッパでは潤滑剤として「石鹸」と「石膏」を混ぜた粉を使用するとのこと。この場合の「石鹸」というのはおそらく「高級脂肪酸の塩」を指すのかな、と思いつつ。なぜかというと、前記事に書きましたミャンマーの場合の「潤滑剤」が「タルク」で、その触覚的な性質を考えたときに、「石膏」には足りない「油分を含んだ感」「柔らかさ」みたいなものを足すことが目的なのか…と考えたためです。
実際私の思う「目的」みたいなものが正しいのかはわかりませんが、こういう風に考えると、「異なる素材」を使っていても、「同一目的」のために「似た性質のもの」を使うことに至るのか…と各国の箔製造が「できるようになるまで」の課程の努力みたいなものが垣間見えるような気がします。
簡単なまとめとして
ここまで簡単に複数の国の「箔打紙」を見てきましたが、「紙」ですらなかったり、「プラスチック」であったりと、素材自体の色々見られたと思います。
反面、その触感として「油を含んだような滑らかさ・柔らかさ」みたいなものが各国共通で見られているような気がします。
今回私が参照にしている資料では、実際の箔打紙制作の詳細に関してや、各箔打紙で作った金箔自体の特性を比較した詳細などが載っているので非常に興味深いです。
またこのブログに書いていることは、参照資料に私の推察などを加えていますので「正解」とか「正しい」とは限りません。「私個人」は「こういうことが興味深いな」とか「こういうことが面白いな」と思っているだけの話ですので、あくまでも学生の方は論文やレポートでこういうのを使うといいことは何もないので、あくまでも「話半分」でこういうブログを読んでいただけると本当にありがたく思います。
というわけで本日はここまで。当記事を最後まで読んで下さり、ありがとうございます。実はまだ金箔のお話が続きますので、引き続き読んでいただけたら幸いです。ではではまた。
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