光学調査:ノーマル写真ってなあに

修復を学ぶ

直近の記事にて、作品調査の方法の一つ、「光学調査」について少々お話しました。

本日はその中でも「ノーマル写真」について、お話したく思います。

ノーマル写真(順光写真)ってどんな写真?

ノーマル写真とは、別名「順光写真」と言います。

「順光写真」って、ややこしい言葉ですね。いわば、カメラの方向から、写すべき物体、ここでいう「作品」の方向へ光を照射して撮影する方法を言います。

ちなみに写すべき作品の後ろからカメラの方向に光が照射させた状態は「逆光」といいます。写真自体を作品に撮影する際には、かっこいい効果の狙える光の照射方法ですが、文化財保存修復において、こういう光の当て方はしません(^^;)。

言ってみると、写真館で七五三とかの写真を見ますが、ああいう被写体全体をピントを合わせて撮影するような、一般的な方法です。照射する光自体、可視光線ですので、撮った写真はとりわけ特殊なものが写るというわけではありません。

しかし光を照射すると一言でいいましても、日光、月光、電球、蛍光灯、ろうそくの光、夕日など、いろんな光が我々の身の周りにあります。ですが、こういった全ての光の中で、作品の写真を撮るわけではありません。例えば、月光の下やろうそくの光の側、あるいは夕日の光の中で写真を撮ると、一定の雰囲気を得ることができますが、「ノーマル写真(順光写真)」を撮る意味は、そういうったムーディーな写真を撮る、みたいなことではなく、作品を撮影したその日の「作品の正確な記録(正確な色彩などを含む)」をとるためです。

作品の色味やイメージなどを、いくら言葉巧みに伝えようと、「正確な写真」1枚の存在以上の「視覚的情報」に関する正確な伝え手はないはずです。正確に作品の表面的な視覚情報を伝える上で、ノーマル写真(順光写真)は必要不可欠です。

特に絵画は視覚美術であるため、正確な「色彩」情報、形状などに関し適正に記録されることが求められます。ですので、そういった視覚情報が適正に記録されるために、「適正な光」を当てることが非常に重要になるのです。

ノーマル写真(順光写真)にとって、適正な光は非常に重要

なぜ、適正な光が重要か。

二つほど前の記事にて、我々が物を視覚的に認知するにおいて重要なものが3つある(正確には4つある)とお伝えしました。「見るべき対象」「光」「目」(そして4つ目が脳)です。

その中の「光」の話を現在しているわけですが、実は光そのものも、色味や特徴があります。電球の光は黄色っぽく、夕日はオレンジ色っぽく、曇りの日の太陽光はわずかに青っぽい色味を持っています。

この光自体の特性や色味のために、スマホやデジカメなどで写真を撮った時に、「自分の目で見た時より、写真の色味が少し違うな?」ということが起こったりします(フィルムカメラの頃は、カメラだったかレンズだったかの関係で、製造会社ごとの色味の癖があったりしましたね)。

こういう「自分の目で直接見た状態」と「カメラを通してみた状態(写真の状態)」の違いがでる理由は、こういう「光」の色味の違いは勿論、人間が直接見る場合は、「脳みそ」が自動的に、本人が意識せずに、色々補正してくれているから、というのがあります(本人が意識しないうちに、全自動って、脳みその機能ってすごいな!ですよね。 ^^)。

すなわち、電球の光の下で、黄色っぽい光が当たった白いお皿でも、夕日の光の中でオレンジっぽい光が当たった白い紙でも、あるいは曇りの太陽の下で青っぽい光が当たった白い壁でも、「白いものは、光が当たろうと白い」と「光のせいで黄色っぽかろうと、オレンジっぽかろうと、青っぽかろうと、それは白色である」と自動的に補正をかけます。

しかしカメラの場合は「脳みそ」がついていませんので、撮るべき物体に対して「求める光」を照射したり、「ホワイトバランス」を整えるというようなお膳立てをして写真を撮らないと、「人間の目が見た(脳が補正した)ままの色彩」を持つ写真を撮ることはできません。

とは言いましても、最近のデジカメなどにはオートでホワイトバランスの調整ができたりする機能もありますので、そんなに難しい話ではありません。ただ、撮影した写真を一つ一つ作品と見比べながら、撮った写真の色味が本物と違わないことを確認する必要性があります。カメラの癖などもありますので、そこは根気よく調整しながら撮影するとよいですね(^^)。

どんなことに注意して、ノーマル写真(順光写真)を撮っているの?

ノーマル写真(順光写真)は、非常に多くの場面で撮影されます。

例えば修復前、何かの処置の前後、そして修復後というように。処置の数が多いほど、その都度写真を撮ることになります。

その作業の写真毎に作品の色味が違った場合、「この処置で作品の色味が変わった?!」という誤解なども出てきますね(^^;)。それは非常に恐ろしいことです。

ですので、「色味」は本物と同じになるように頑張る必要性があります。

次に、ピントがキチンとあっていること。フィルムタイプの写真の場合、撮影前にピントの確認をしてからシャッターを切りますし、デジカメの場合は撮影後に写真を拡大して、写真の隅々までピントの甘い箇所がないかを確認する必要性があります。ノーマル写真においては「色味」の重要性を非常に協調していますが、あらゆる情報が詰まっている写真ですので、ピントが甘いと「情報不足」で困ることが結構でてくるんですね。

3つ目は西洋絵画関係の撮影で絶対的に求められることなのですが、特に木枠に画布を張っているタイプの作品の場合は、多くの場合長方形か正方形であることが多いので、長方形は長方形として、正方形は正方形として、形をゆがませず撮影することが大事です。

こういうのを「画角を合わせる」と言っているのですが、今、これを読みながら、「長方形を長方形として撮影するって、当たり前じゃん」と思われている方も多いかと思います(私もそう思いますとも!)。ただ多くの場合、意識せずに撮影すると、photoshopなどで確認するとよいのですが、「長方形の作品」が「平行四辺形」や「台形」に写っているのが現実です(^^;)。あるいは、「ただの四角形」である場合もよくよくあります(涙)。

実のところ、私が日本の国立大大学院で絵画の保存修復を学んだ際に最初に学んだのもカメラ(撮影)でしたし、私が大学でゼミの最初(3年生の最初)に教えていたのもカメラ(撮影)なのですが、そのしょっぱなに教えて、「カメラ嫌~!」と思われる理由が「長方形が長方形に写らない」というこの現象だったりします(^^;)。

慣れるとなんとなくできるようになるのですが、それまでがブログ主も長かったです…(遠い目)。ですので、「画角が合わない」と涙目になる学生さんの気持ちは痛いほどわかりつつ、ただ、実際撮影回数を重ねると確実に上手になる部分ですのでね。

こういった感じで、「適正な光」「きちんとしたピント」「画角を合わせる」の3点がきっちりしていることがノーマル写真(順光写真)に求められます。

本日のまとめとして

実際大学機関や研究機関において、光学写真を撮影する際は、ノーマル写真においてもスマホなどは用いず、きちんとしたカメラ(中型カメラなど)を使います。

ですので、一番身近なノーマル写真(順光写真)の撮影でも、それこそ「画角が合わない」ということなどで戸惑うことが結構多いのですが、これが上手にできるようになると、他の光の下でする撮影でも困ることはないかなと思います。

ノーマル写真を含め、光学調査の写真は「未来に伝える情報のための記録」であると同時に、「自分が調査研究をするための写真」でもあるので、「この情報は大事だぞ!」と思いながら撮影していることが現実ですので、光やピントや画角以外にも「このポイントを撮らなくちゃ!」という妥協できないポイントは作品それぞれにあります。

義務的に撮影をするのではなくて、「ここは大事」「これは撮らなくちゃ」と能動的に記録を撮ろうという姿勢が取れると、調査・研究としてよりよいものとなると思いますし、「撮影」に対する苦手意識もだんだんと薄れていくのではないかと、考えています。

とりあえずすでに長くなりましたので、本日はここまで。

最後まで読んで下さり、ありがとうございます。

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