光学調査:側光線(斜光線)写真ってなあに

修復を学ぶ

直近の記事にて、作品調査の方法の一つ、「光学調査」の中でも、「ノーマル写真」について少々お話しました。

本日は「光学調査」のお話の続きで、「側光線写真(斜光線写真)」についてお話します。

そういえば、この「光学調査」のシリーズにおいて、最初に説明しておくべきことだったのですが、「写真」を使う調査であるのに、どうしてブログ上でなかなか写真を実際に出さないのか、ということを思われるかと思います。

しかし調査写真に関する権利というのは、作品を所蔵する側にあり、こういう調査写真を調査自体に使うことや、学術研究(大学などの授業での利用)などに使用することは可能なのですが、不特定多数が見ることができるネット上に勝手に載せることはできないため、当ブログ上でも写真を載せておりませんし、そういった写真がなかなかネット上に落ちていないのもそういう理由からであることはご理解ください。

「側光線写真(斜光線写真)とは」どんなものなの?

「側光線写真(斜光線写真)」は、字面から想像するに、「側面から」あるいは「斜め方向から」光を当てて撮影する写真、ということはなんとなく推察されるかと思います。そしてその推察通りでございます(^^)。

撮影現場を真っ暗にまでする必要はありませんが、やや暗めの状態にした上で、作品の側面や斜め方向から光を当てつつ写真を撮り、作品上にある凸凹を明らかにして観察することを可能にする方法です。

もっと端的にいえば、作品の外観の形状を観察するのに適した光の当て方といえるでしょう。

直近の記事の「ノーマル写真」に話を戻しますと、こちらはカメラのある方向から被写体に向かって光を照射する形になるので、どちらかというと作品の凸凹よりも色彩やイメージをキレイに撮影することが可能になります。

よく「女優ライト」と聞きますが、あれも、女優さんの正面から光(強め)を当てて、しわなどが見えないようにしている撮影方法ですね。さすがに作品撮影時に、女優ライトになるようにしているわけではありませんが。

逆に、顔の凹凸などを見せたい場合などは「影」があるとわかりやすいので、顔の横から光を当てると「陰影のはっきりとした」写真を撮ることができます。

こういう性質を利用しているのが「側光線(斜光線)写真」なんですね。

こういった「側光線(斜光線)写真」を利用して、作品の外観の形状を観察してどうなるの?という疑問を持たれると思いますが、この調査によって、「どのように画家が作品を描いているのか」といった技法材料に関することや、場合によっては作品の制作年代や制作地域に関する検証といった作品のアイデンティティに関わることがわかったり(作品の構造など作品理解に繋がる)、あるいは支持体の変形や絵画層上に見られる問題など、作品の損傷の発見およびその発生原因究明に関わることがわかることがあります。

反面、この「側光線写真(斜光線写真)」という方法においては、作品のイメージや色彩と言った部分ではなく、あくまでも物理的な作品の外観・形状をみるためのものですので、この調査方法で作品の美観や描かれているもの、作者の美観に対する意図などを捉えることについてはなかなか困難であることはご理解ください。

「側光線(斜光線)写真」で何が観察できる?

「側光線(斜光線)写真」を用いてよく観察する部分といいますと、例えば作品の筆跡の有無や、その形状を見ます。筆跡やその毛状をただ眺めているわけではなく、それらを観察することによってどういう風に描いたのかということや、絵具の塗りの状態(厚みや一様性の有無)、絵具の粘りの状態(ひいては絵画層の壊れる要因や、壊れやすさ)などを見ます。

あるいは、作品の支持体が板である場合、板材の製板や、個々の板材の組み上げなどに使用された道具痕を観察したり、あるいは幸いにもギルドのマークなどが存在している場合には、作品のアイデンティティが一つ明らかになる可能性が考えられます。

ただし、上記の板を基底材にしている場合は、「道具痕がない」「ギルドのマークがない」ことがすなわち「ある一定の時代の作品ではない」という証明にはならないということもややこしいところです。というのも、後年の処置によって、支持体裏面などに手が入ってしまっている(痕跡やマークが失われてしまう)こともあるためです。ですので、そういった後年の処置などの可能性も含めて基底材を観察する必要性があります。古い作品ほど、後年に処置や手入れがされている確率は高くなりますからね。

あるいは、基底材が画布である場合、画布に生じた変形のような損傷を観察することができます。こういった画布の変形が発生すると、それに伴ってその上層にある下地層や絵画層、ワニス層が損傷することはままあります。ですので、画布だけでなく、絵画層などもよくよく観察し、損傷はないか、それらは基底材の損傷と関わりのあるものかなどを見ることも大切ですね。

本日のまとめとして

作品の正面から光を当てる、あるいは側面から光を当てるといううように、光の照射の仕方でものの見え方が変化すること、そしてそれを利用して作品を観察することで、見てくるものが変わってくるよということをご理解いただけるとよいなと思います。

また「側光線(斜光線)写真」撮影のための光も、一方から照射するのに限らず、色々な方向から試してみる(作品の裏表も含め)と、それこそ視点が変わるので面白い結果が得られるかもしれませんね。

というわけで本日はここまで。

最後まで読んで下さり、ありがとうございます。

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