絵具ってどういうもの?:「絵具に求められる3つの条件」に加えられる、さらに別の2つの条件

修復を学ぶ

先の記事から、あくまでもおおざっぱな言い方ではありますが、「絵画」というものが「絵を支えるもの」と「絵を表現するもの」からなり、その「絵を表現するもの」を違う言い方としていうと多くの場合は「絵具」ということができるとお話しました。

また、この絵具には三つの必要条件があり、それは「有色であること」「物質であること」「付着するものであること」と直近の記事にてお話しました。

これに対し、物理的には「絵具」を構成するものの一つには「顔料」という有色の粉末があるのですが、それは「色彩」を担当するものであり、物質であるという点においては条件を満たしているのですが、「付着するものではない」ということで「顔料」のみで「絵具」としてはなりたたないというお話をしました。

例えばですが、漫画「聖おにいさん」の主人公の一人である仏陀が、砂絵で描いた幻の四コマまんがの話を作成し、それは勿論長く残ることはなく失われてしまうのですが、仏陀はそれを「諸行無常」と述べています。でも、一般的な漫画の描き手も読み手もそんな「諸行無常」は求めていません(苦笑)。

描き手としては、たとえ一人で楽しむ落書きであっても、描き始めたその時から絵が壊れていくってストレスですし(^^;)。購入した漫画が砂絵、というのも困ります(苦笑)。

絵具であるための3つの条件以外に求められる、さらに2つの条件とは?:まずひとつめ「扱いやすいこと」

上記の3つの条件は「絵具であるため」に必要な条件ですが、それに加えて、先の記事にも書きました「画材の博物誌」(著・森田恒之、出版・中央公論美術出版)の中に、絵具に求められる別の2つの条件が書かれています。

一つは扱いやすいことです。

絵、というと美術館・博物館にあるようなものを否応なしに想像してしましますが、紙にクレヨンで描いたものも、授業中に落書きしたものも、美術の授業で課題として描いた水彩も、全て絵には変わりはありません。

こういった「描く」という活動は小さなお子様からお年寄りまでがされるので、年齢や経験を問わず、ず使えるということも、市販の絵具においては重要でしょう。

世の中には「プロ用」の絵具というものもありますし、市販のものではなく画家が顔料と何かを混ぜ混ぜして作ったものといった、「誰にでも」「簡単に」扱えるわけでもない絵具も存在します。

とはいえ、一般的に「絵具」という単語を考える際においては、その使用者は「プロ」とは限らないため、市販の絵具なんかは特にいかなる人にとっても使いやすいということは重要でしょうね。

絵具であるための3つの条件以外に求められる、さらに2つの条件とは?:ふたつめ「一定期間変化を起こさないこと」

そして二つ目の条件は、描いたものが「一定期間変化を起こさないこと」です。

この「一定期間」は絵具(画材)とその使用目的などによって異なります。

例えば絵具の中に分類するのはどうかと思いますが、「チョーク」なんかはどうでしょう?チョークは少なくとも私が小学校から高校までは板書をするための道具でした。

チョーク(あるいは黒板とチョークの関係)というと、日本では「学校の板書」という風に自動的に連想されますが(現代の小中高校でも使っていますよね??)、そもそもになぜ学校ではチョークが使われているのでしょうか?

それは容易に必要な文字情報などを伝達するために記載することができる上、必要とされる短期間の間、その記録を保持でき、まだ同時に必要な際にすぐ消せるからです。

授業が終わるごとに情報が消され、また別の情報を上書きする必要がある場合に、「永遠性のある、ずっと消えない素材」というのは逆に困るわけです。場合によっては、授業内で黒板がいっぱいになってしまって、授業中に先生自らが黒板の一部をさっと消して、次々情報を書いていくこともありましたよね。そういうことに対応できる道具であるからこそ、チョークが選ばれているのでしょう(あと安価であるということもあるかもしれませんね)。

このようにチョーク(および黒板の関係性)は、短期間にいろいろな情報を与える道具としては、非常に有能です。でも、長期記録保持には向きません。

例えば鳥獣戯画が黒板にチョークで描かれていたとしたら、現代まで残ってはいなかったでしょうね。

別の例を出しますと、現在ブルージュにあるヤン・ファン・エイク作『ファン・デル・パーレの聖母子』(1434-1436年制作)なんかは600年近い時間が経っていても、きれいな色彩そのままです(今回のアイキャッチの写真は、この作品の一部です)。

こういうのを観ますと、「自分の絵も数百年残る」と簡単に思うのですが、西洋絵画でいうと15世紀絵画あたりの重要な作品なんかは、もともとの構造として丈夫な部類に入ります。

その丈夫さの要因としては、「作品が壊れない」ための努力を画家が個としてやっているのではなく、ギルド(職業組合)全体でやっていたためです。

絵を制作する上で、人の手がかかってくるのは「画家」だけではありません。

クラシカルな絵であればあるほど、例えば板の上に描かれた絵の場合は、誰がどこでどういうクオリティの木を切ってくるのか、というところから始まり、それを誰がどういうクオリティで板材に加工するのかを経て、さらにその板材を誰がどういうクオリティでくみ上げて、「絵が描ける形に整形するのか」など、「板」という部分だけでも少なくともこういう人の手を経ているのです。

15世紀なんかの時代、絵を描く理由は教会への奉納なわけですので、すぐ壊れるもので制作できません。

なんせ、神の世界という永遠性のあるものを描いているのに、絵自体が壊れちゃ威信が失われますから。

ですので、絵を描く人の技量もそうですが、それを支える人たちのクオリティ、絵を描くための材料のクオリティなどは、ギルドによって現代ではなかなか望めない高品質が保証される形になっていたわけです。

本日のまとめとして:各絵具、各道具…、それらは「用途」「目的」に沿って使うべきもの → 例えばどれだけの期間保たせたいのかなど

ただ、チョークにしろ、何にしろ、「目的に沿った素材」です。

どれだけの間長く保たせたいのかな(あるいは逆に、短時間の記録保持に留め、早急に消すことも求められているのか)、に適したものを使わないと、残したい期間が1時間なのか、半永久的なのかを叶えることは難しいですね。

以上のように、そして先の記事も含めると絵具に求められる必須の3つ条件は「有色であること」「物質であること」「(描く対象に)付着すること」

これに加え、上の3条件よりは必須ではないけれど「扱いやすいこと」「一定期間変化しないこと」が含められます。

この2つの条件に関しては、「必ずしも絵具を使うのが本職の画家さんや、絵画を愛する愛好家に限らない」ことや「絵画」の在り方として「短期間の状態保持でよい場合がある」ことを考えて追加されていると考えられます。

ということで、では上記を踏まえた上で、絵具の構成要素が「顔料」だけじゃなく、他も含まれるんだよという話を次ではもう少し深めていきたく思います。

本日も最後まで読んでくださり、ありがとうございます。

  • 参照: 中村光「聖☆おにいさん」1巻、その7話

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