毎度毎度同じシリーズ内で同じ文言を繰り返してはおりますが、前置きとしまして、この用語シリーズはブログ主が海外の大学で留学していた際に、授業でいただいたプリントの翻訳となります。西洋絵画を構成する素材の一つである絵具を理解する足がかりの一つとして記事にしております。ただ、もし文化財保存修復を学びたいなーという方が読まれている場合は、こういう記事のみをうのみにするのではなくて、いろんな文献を比較参照してくださいね(^^)。
また各記事にくり返し書いておりますが、このシリーズは翻訳であることから、文章として固い感じがあるだろう部分、あるいはわかりにくいがあります点、改めまして先にご了承くださいませ(ぺこ)。顔料や絵具に関しましては、現在やっている【用語】シリーズに関わらず、すでに過去の記事で何度か書いている部分もありますので、そちらもご覧いただけるとわかりよいのかな…と思いつつおります。
本日は脂質あるいは油脂類の中でもケシ油(ポピーオイル)のお話と、蝋のお話です。
プリントの本文:結合剤と希釈材15:脂質あるいは油脂3
ケシ油(ポピーオイル)
ケシ油(ポピーオイル)はケシの種子《Papaver somniferum》から抽出される。
ケシ油(ポピーオイル)は亜麻仁油(リンシードオイル)よいも乾燥性は低いが、精製し、中性化し、色を抜き、安定化させることがより容易である。
ケシ油(ポピーオイル)は乾燥や経年に伴う黄化度合が亜麻仁油(リンシードオイル)よりも低い。しかし乾燥しにくい傾向がある。塗膜は長期間べとべとし続ける。
プリントの本文:結合剤と希釈材15:蝋
蝋
蝋は固形で可融性の物質である。結合剤として、蝋には名高い過去がある(ポンペイ遺跡やファイユームの肖像画)。
使用されている蝋は濃くて、色のついた蜜蝋で、おそらく加熱して用いられた。
パリの教会の壁面のデコレーションにおける湿気問題対策として19世紀に蝋の使用が再発見される。
最終的に保護コーティングとして蝋の使用はしばしば言及される。蝋の由来は大変多用である:鉱物性(パラフィンとペトロール由来のミクロクリスタリンワックス)、植物性(ブラジルロウヤシ【カルナウバ蝋】)、そして動物性
プリント本文
Huile d’oeillette
L’huile d’oeillette est extraite des graines de pavot “Papaver somniferum”. Elle est moins siccative que l’huile de lin mais se clarifie, neutralise, décolore et stabilise plus facilement.
Elle jaunit moins au séchage et sous l’action du temps que l’huile de lin, mais elle sèche beaucoup plus difficilement. Les films restent poisseux longtemps.
Les cires
Les cires sont des substances solides facilement fusibles. En tant que liant, les cires ont un passé prestigieux (vestiges dePompéï, portraits du Fayoum). La cire utilisée était de la cire d’abeille, épaisse et colorée, traitée probabalement à chaud. On retrouve l’emploi de la cire au ⅩⅨème siècle pour répondre au problème de l’humidité dans les décorations murales des églises parisiennes. Enfin leur utilisation en tant que revêtement protecteur est souvent mentionnée.
L’origine des cires est très diverse: minérale (paraffines et cires microcristallines extraites du pétrole), végérale (cire de carnauba) et animale.
本日のまとめ
当記事のポピーオイルは、油絵を使ったことがある方なら一度は見たことがあるかもしれない素材ですが、使用したことがある方は全員ではないかもしれません。それほど一般的には「油絵」といえば、リンシードオイル(亜麻仁油)というほど、リンシードオイルは使いよいからです。
対してポピーオイルとリンシードオイルを視覚的としてだけ比較すると(是非画材屋さんで探してみて、両者を見てみてください。^^)、ポピーオイルのクリアさ、色のなさに気づかれると思います。
この色の薄さ故に、絵具製造などの場においては、薄い色の油絵具を練る際には、ポピーオイルを使用するといわれています。たとえば鉛白のように乾燥性を高める顔料かつ、白色の顔料の場合は乾燥性の遅いポピーオイルとはいえ顔料自体が乾燥を早めてくれる上、顔料の白色を濁らせず白色の絵具を生成することができるのでとてもよい結果が得られるでしょうね。
また、ブログ主が過去に修復した画家さんの中でも、非常に色彩を気にする画家さんだったのか、ポピーオイルを愛用していた画家さんというのも存在します。
どんな素材でもそうですが、メリットだけの素材というのは存在せず、必ずデメリットも併せ持っていて。そういう良いところも悪いところもある素材を「どうして画家さんは選んだんだろう」とか「この素材を選んだことのメリットはなんだったんだろう」あるいは「この素材だからこそ発生した問題は?」などと色々考えることがでてきます。
今回から出てきました「蝋」なんかも、「そんなもの作品制作の上で使わないよ」という方もいるかもしれませんが、現代の市販の絵具のような乾燥性のよいしっかりしたペーストを作るには、顔料と油以外のなんらかの添加物というのは必要なはずです。実際絵具に蝋を入れてみるとわかりますが、絵具の塗布層に厚みを持たせたいときに混入すると、よい感じだったりするんですよね。とはいえ、現代の各絵具制作会社さんが自社製品に蝋を入れているかどうかは不明ではありますが、過去に画家さん各々の中で、蝋を入れたことがある画家さんはゼロではないはずです。
蝋を使用することは、絵画を描く人にとっては「使いにくい素材」ということだけが問題となりますが、修復する人間からすると本当に怖い素材だったりします(^^;)。修復の際に必要不可欠で使う道具が、「作品を壊す道具」に早変わりし、また「作品のための素材」が「作品を壊す素材」に早変わりすることがあるからです。
画家さんがどんな素材を絵具混入しているかだなんて、一般的に画家さん自身が公表しているわけなどがないのが通常ですので、だからこそではあるのですが、調査ってとても大事だったりするんですね。
というわけで本日はここまで。最後までご覧くださり、ありがとうございます。
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