3つ前の記事より、ブログ主が海外の大学で留学していた際に、授業でいただいたプリントの翻訳となりますが、「顔料」というものを理解するために、用語の勉強として記事にしております。2つ前の記事、直近の記事もよろしければご覧ください。
このシリーズは翻訳であることから、文章として固い感じがあるだろう部分があります点、先にご了承くださいませ(ぺこ)
また、すでに過去記事で「顔料」に関してや、今回のプリント翻訳内容の専門用語(「屈折」「屈折率」)などに関して説明しておりますので、より詳細に理解したい場合はそれらの過去記事や、専門の本などをご覧いただけると嬉しいなと思います(^^)。
プリントの内容:(先の記事の続き)物質と光
光は作品を構成する層内を往復し、そこで様々な現象を引き起こす:屈折、拡散、吸収。
層の被覆力があるほど、ますます光は層中を移動する経路中において、光自身が多く失われる。よって最終的に層の被覆力が大きいほどに観察者の元に届く光の量は少なくなる。
この不透明度はなるほどそれぞれの顔料粒子の上を反射する光の量による。これはこの不透明度それ自体が屈折率の異なる働きだからである。
もし2つの屈折率が同一の場合、完全に顔料粒子を横切る光の反射はなくなる。ただ、カラーフィルター効果のみが残る。
層を透過する光の割合は、顔料および結合剤の屈折率の違いによる。
光線が結合剤から顔料粒子の中を通過する際、屈折率の違いが大きいほど光線は反れる。光線が反れるほどに、光線が観察者のもとに戻る可能性は低くなる。
油絵具が経年劣化によって、より被覆性が衰えることはよく知られている。
みずみずしいリンシードオイルの屈折率はn=1.48であるのに対し、古びたリンシードオイルの値はn=1.57に達する。これは幾種もの顔料の屈折率に近づくことになる。
■顔料の屈折率の例
- ウルトラマリン 1.5-1.6
- プルシャンブルー 1.56
- スマルト 1.49-1.52
- マラカイト 1.65-1.90
- カオリン 1.56
- 石膏 1.62-1.59
- ボーンブラック 1.65-1.70
- 鉛白 1.94-2.09
- 亜鉛華 2.02
- シリカ 1.55
プリントの内容:重要な要素
- 屈折率
- 着色力:これは混合物の中の顔料の「強さ」、すなわち、その混合物に色彩を与える能力である。ある種の顔料は「侵襲的」である。
- 被覆力:下層の顔料の上に塗布される上層の顔料が下層の顔料を覆い隠す能力。顔料の被覆力は使用する結合剤との関係がとても深い。
- 吸油量:100gの顔料に対し、(油絵具を練る際に使用する)へらにも練り板にもくっつかない密な絵具ペーストを得る上で必要とされる油量。吸油量は顔料自体の粒子の細かさや形状による(実際に顔料はそれぞれ特有の形状や表面を持つ)だけでなく、多少なりとも、混合するべき油のもつ「顔料を濡らす」気質も関わる。
本日のまとめとして
今回の記事の前半に書いております「屈折率」に関しましては、過去記事でも色々ご説明しておりますので、もし気になりましたら、そちらをご覧いただけると幸いです。
また、着色力、被覆力、吸油量などに関しましは、あくまでもさらっとしたことしかプリント上では説明されておりませんので、こちらはまた後日詳細にお話できたらと思っております。
絵画の保存修復含め、文化財の保存修復というお仕事は「手のお仕事」という「脳みそ」を使わないお仕事を思われがちですが、こういう「理屈」を理解する必要性があることを考えると、「壊れている→手を入れなくちゃ」のお仕事ではない、ということはご理解いただけると思います。
日本の場合、大学でも大学院でもそうではないのですが、文化財保存修復における先進国である西欧世界などにおいては、近現代において講義の半分は物理化学関係となっています(この講義には、実技は含まれていませんが、実技を含めても、全授業の1/3以上は物理化学の授業と言えると考えます)。
この物理化学への理解を求める状況は、今後要求されはしても、減少することはないと考えます。これは文化財保存修復関係にかぎらず、いかなるお仕事でもそうだとは思いますが。
ただ結局のところ、文化財保存修復関係のお仕事は、手技は当然できるべきですし、物理化学、歴史、文学、語学など、できなければならない部分があまりにも広すぎる傾向があるのですが、「こういう業界で頑張りたい」という気持ちがあれば、苦手なものも少しは我慢して勉強できるかなと思うんですね(^^;)。…と、ブログ主自身、自分自身にいいきかせている部分があるのですが(汗)。
でも、時間がかかっても、学んだことが本当に腑に落ちたときの喜びみたいなものがあるからこそ、そして理解できるほどに作品への安全性を確信できるからこそ、頑張ろうって思える気がします。
というところで、本日はここまで。
最後までご覧くださり、ありがとうございます。
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