紙ってどんな素材⑩?:古い紙(100年以上前)の実例

修復を学ぶ

ここしばらく(主に)紙に関するお話をシリーズ的にお話しております。

この記事で10回目なのですが、おそらく最初の記事(1回目)から順に読まれたほうがわかりよいかと思います。もしよろしければ順番に記事を読んでみてくださいね。

特に4つ目から9つ目(直近)の記事にて、紙の保存性(耐久性)の良さというのは、どういう部分に関わっているのかについてお話しています。本日の記事との関わりからも、ご一読いただけると幸いです。

また、ここまでパルプを元とした紙に関しては多くは書いておりませんが、パルプに関してはおそらく4つ目から9つ目の記事の内容を読めば、自ずとどうして耐久性として…ということが推察できるものと考えています。もしかしたら新たに別のシリーズにて詳細にお話するかもしれませんが(^^;)。

なおもし学生の方が当ブログを受験、試験、論文、レポートのために読んでいるようでしたら、ブログはこれらの参照文献にならないことは前もってご理解ください。当ブログに限らず、ブログというもの自体が参考文献にならないはずですから。

というわけで本文。

本(1800年代、1900年代)の紙の比較:比較素材に関し

過去に学生の研究関連で、古い洋本の紙の調査を調査機関にお願いしたことがあります。

うち1つのサンプルはブログ主個人の持ち物でした(比較参照のため)。

学生が調査していた作品(本のページの一部)が1810年前後のものでした。ですので、なんとかそれに近い1820年あたりの洋本を購入し、実際本を手に取ってみたところ、研究対象と比較するには面白い素材であったので一つ目の比較対象としました。

さらにブログ主の個人の持ち物としておおよそ研究対象の丁度100年度ほどの本(1910年程度のもの)があり、さらに確実に調査対象の紙の質とは異なっていた(パルプ紙である予想ができた)ため、全く違う素材からなるものとの比較としてみてみた次第です。

調査結果

1810年ほどの調査対象をAとし、それに対する1820年ほどの作品をB、ブログ主所有の1910年ほどの作品をCとします。

AとBに関しましては、「綿繊維と麻繊維の混合」と評価されました。また、両方のサンプルの綿および麻の繊維とも に1mm 以下に切断されていたようです。加えて、繊維の毛羽立ち(=フィブリル化)も確認されたことから、古着等を裁断し磨り潰してリサイクルした繊
維で作られた紙と推定されました。

なおBの繊維においては上記に加えて天然ないしは人工の樹脂分が見受けられました。

これに対しCは事前予測のとおりパルプからなりました。詳細には「機械パルプと針葉樹漂白化学パルプの混合」と判断されています。なお針葉樹漂白化学パルプは亜硫酸パルプ(SP)とクラフトパルプ(KP)の混合だった模様。加えて無機填料(おそらく体質顔料)が加え手られていたようです。

さらに繊維に関してだけでなく、加工に関しても調査していただいたところ、Aに関しては特に加工が見られませんでした(とはいえ、調査機器で探査が叶わなかった何かが含まれている可能性はゼロではありませんが)。

これに対しBにおいては膠や蝋の成分が見つかったことから、膠によるサイジングや、蝋によるコーティング(紙表面への塗布)の可能性が考えられました。

サンプルCに関してはドウサ引きの形跡がない反面、リグニンや不純物が計測されました。過去の記事にも記載していますが、パルプ素材はリグニン量の利率が高いですし、中でも針葉樹素材は同じパルプ素材でも広葉樹由来のものと比較してリグニン量が上がります。そういう意味では目に見えて「パルプ素材だな」とわかるのは当然だったんですね(^^;)。

さらにサンプル3つの中の填料(例えば体質顔料ですね)についても調査してもらいました。

この結果サンプルABからは填料は見つからず。とはいえサンプルAからは通常紙片に残存しない成分が発見されたところは非常に興味深いところでした。

対してサンプルBにおいては、サイジングはされているが、その際にミョウバンなどは入れられていないことが明白になりました。いわゆる「ドウサ引き」のやり方ではない、ということですね。

最後サンプルCにおいてはおそらく「カオリン」と思われる体質顔料が混入されていることがわかりました。

本日のまとめとして

上記の内容は、おそらく過去の記事を読まない限りは、「だから?」と思って読まれると思います。

そういう意味で、「前知識」として、あるいは「前提として」の理解があって同じ記事を読むのと、全く知識なしに記事を読むのでは得られる「理解」は全く異なります。

また、上記のような実例の内容を知ると、「なぜ」「和紙がよい紙であるといわれるか」ということ、改めて理解でいると思うんですよね。

勿論綿(コットン)自体は和紙の素材をしのぐいい素材でありながら、と「反語」の言葉をを入れた理由も。

コットンだけで紙を作っていない場合もある、古着などが元になっている、細かく刻まれている、その使用(作品としておよび、作品になった後の取り扱い)の是非…。いろんなことが紙、というもののクオリティに関わる、ということがなんとなくでもご理解いただけたら幸いです。

といってもブログ主は別段紙を専門に取り扱っている人間ではありませんけどね(汗)。それでも全然無関係の素材ではないので、最低限勉強しています。もし興味を持たれるかたがいましたら、これを機会に色々調べて見られると面白いと思いますよ(^^)。

というわけで本日はここまで。最後まで読んで下さり、ありがとうございます。

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