紙ってどんな素材⑤?:前記事に関しもう少々説明

修復を学ぶ

ここしばらく(主に)紙に関するお話をしております。

最初の記事においては紙の主要素となるセルロースに関して。2つめの記事ではそのセルロースに次いで紙を構成する2つの要素に関してお話しました。さらに3つ目の記事においては、具体的に紙の素材となる植物に関して簡略かつ代表的なものに限りますが記載しました。そして直近の記事においては、これら先の3つの記事を踏まえ、いくつかの植物に含まれる構成要素の利率についてお話しました。

これら先の4つの記事をその順に読んでいっていただけると、言いたいことは伝わるだろう…と思いつつ、一旦この4つの記事からどう考える?といったような話を書いたほうがよりわかりよいのか…ということで今回の記事を挟んでおります。ですので先の4つの記事で十分言いたいこと、わかりますよ、という方にとっては非常に蛇足的な記事になると思いますが、そこはご容赦ください。

また上記のとおりこの記事はいったん先の4つの記事に関してまとめているようなものですが、これだけを読んでもきっと「なんのこっちゃ?」かと思いますので、もしこういうお話にご興味がおありなら、先の4つの記事をお読みいただいてこちらを読まれることをお勧めします。

なお、もし学生さん方がこのブログを読まれていた場合ですが、レポートにせよ、論文にせよ、参照に「ブログ」は適正とされませんので、こういうものをもってして「参照した」とはしないようお願いします。あくまでも自分の学びにおけるキーワード探しだったり、アイディア探しにはお使いいただく分には問題ありませんし、こういうアイディアをもってしていろいろ文献を探して頂くきっかけになればいいなとは願っております。必ず自ら文献で検証してくださいね(^^)。

というわけで、以下本日の本文。

紙を構成する主要3要素以外の、紙の耐久性に関わる事項

単純に何かを評価するというのは結構ややこしい話でして。だからこそ、複数の視点で評価したり、評価する事項を絞ったりすることが大事になります。

で、今回したいのは、先の4記事を踏まえた上での、紙を構成するそもそもの素材に含まれる3要素に関連した、素材のポテンシャルといったところでしょうか。そのポテンシャルである3要素のみに関し、紙の保ちや耐折力、耐変色性などについて比較したら…ということです。

紙は酸化などにより脆弱化や変色します。ですので、例えば紙を作る際に酸性物質を混入させたり、あるいはサイジングとして酸性物質を塗布したりすると、「素材が常に酸に触れている」ということで壊れやすくなるだろうことは想像できるかと思います(あるいは、適正製造された紙でも、酸性の紙などにくるんで保存するなどもよくないですね)。

紙の面白いところは、その植生としては大事(なんだろうな)なのに、それを紙として利用すると困ったことになる、ということなんですね。

何がいいたいのかといいますと、先の記事の表を見てもらえるといいのですが、木材(針葉樹や広葉樹)ほどリグニンなどの補強要素が多く含まれていて、木綿のようにそもそも茎などを構成せず、何かを支える役割を持たないものは補強要素(リグニン)を持たないんですね(コットンがどの部分からなるかはググるなりしてください)。ブログ主も別段植物関係に詳しいわけではないので、植物が生きる上でいかにリグニンが大事か!なんて話は熱弁できなのですが、茎のように体を支える構造を作るとき、そしてその形態が大きくなればなるほど補強要素というのはきっと必要なんだろうなと推察はできる気がします。だからこそ、草よりは木のほうがリグニン量は多いんだろうと。

反面、別段花も草も木も、「我々は紙になるぞ」ということを意識して生きているわけではなく、人間の都合で利用させていただいているわけなのですが、いざ紙にしてみると、本来それらの植物が直立して体を支えたりする上で重要であるその要素が、紙自体へ攻撃する傾向を持つ、という反転するような状態になるわけなんですね。なんせリグニン自体が酸性ですから。多く含まれないに越したことはない、ということです。

そういう意味合いを持ってして直近の記事を眺めて頂くと、木綿(コットン)からなる紙というのはおよそ100%セルロースからなるわけで、含有要素として酸性化を促す物体がほぼほぼないという意味合いにおいては非常に優秀です。

さらに上記においてリグニンは「酸性だから」とそこばかりお話していますが、リグニンは温湿度変化や紫外線に反応しやすい要素であることから、変色(フォクシングなど)や脆弱化の原因となりえます(二重結合持ちなので、反応しやすい)。

誤解を与えないよう、先にちょっと言っておきますと、変色というのは必ずしもリグニンのみが原因ではありません。たとえば、保存状況が悪くてカビなどが発生したとか、作品を制作する上でのなんらかの所作を要因に最初は目立たなかったものが経年とともに顕著化したとか、制作上保存上なんらかのよごれがついたとか、素手で触ったことによる手の汚れあるいは指紋を元に汚れが明確化するなど、色々あります。

その上で、「紙」というもの自体がそもそも温湿度変化に敏感な素材かつ、紫外線に弱い存在ですので、リグニンだけが悪者ではないのですが、それでも紙の中に含まれるリグニン含有率は低いほうが作品保存の上では助かるでしょうね。

本日のまとめ的なもの

ブログ主は文化財保存修復関係の人間ですので、先の4記事から考えるのは今回の記事みたいな内容とかだったりするんですけど、おそらく違う業界の方が同じデータを見たときなどに、もしかしたら似て非なるようなことを考えるのではないかとか思うんですよね(もしかしたら全然こちらの思いもしないような発想なんかもするんじゃないでしょうか)。

ブログ主が大学勤務をしていたころ、コロちゃんの関係で「可能な限り遠隔で授業をしてくれ」と言われていたのですが、私の授業は講義であったにも関わらず、受ける学生数も100人規模とかではないこともあって、わがままを言わせていただいて、対面でやっていました(当時の大学様、ご容赦くださりありがとうございます。また、学内でコロちゃんが発生しなかったことにも感謝です)。

理由はこういうデータ一つを出しても、学生自身がどう考えるかということと、それらを他の学生と考える機会があればいいなと思っていたからです。考えるだけじゃなく、自分以外の他人がどう考えるかを意見交換することで得られることってあると思うんですね。特に授業の時間であると、あくまでも「かしこまった」話しかしないだろう中で(そして「まともなことを言わなくちゃ」と、逆に頭が真っ白になる人もいる中で)、昼食時や休み時間などの機会に「あの授業ってさー」程度に話をする機会があったら、得られるひらめきとでもいうのでしょうか、そういうものも違うのではないかと思って学校に来てもらっていました。

現在こうやって載せている記事もそうでして。「データ」に関しては事実としてそのまま受け止めてほしくはあるのですが、それをどうとらえるかを自ら考えて頂くのも大事かな~と思いつつおります。

そういう意味でも、たかがブログを妄信するのは怖いですし、もし試験、受験、論文とかのためにこういうブログを読む場合は、あくまでも「ふーん」程度に読んで、参考文献などに使わないことが絶対的によいですよ(笑)。逆にこういうのをきっかけに、いっぱい本や文献や報告書などを読んでもらえたら、嬉しいですね。

というわけで本日はここまで。最後まで読んで下さりありがとうございます。

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