この記事は紙シリーズの3つ目の記事です。もしよろしければ最初の記事および、直近の記事を先にご覧ください。おそらくそのほうが内容がわかりよいかと思います(ぺこり)。
最初の記事では紙の主要要素であるセルロース、直近の記事のほうではセルロース以外に多く含まれる2つの要素、ヘミセルロースとリグニンについてお話しました。
なぜこういう要素について理解する必要性があるかというと、どういう要素から紙が構成されるか、ということで紙の性質(紙の耐久性など)が左右されるためです。
そういう構成要素のパーセンテージのお話というのはとても重要で、そういうお話をしたいのですが、そのお話のためにも、そもそも紙ってどういう植物からできているんでしょうね?ということの理解というのが非常に大事になりますので、本日はそういったお話をしたく思います。よろしくお願いします。
そもそもに紙となる素材とは
この記事の前の2つの記事にて、セルロースは主要要素、ヘミセルロースはセルロースよりはやや脆弱な要素と説明しました。これに対しリグニンは細胞膜の強化をしてくれる反面、逆にこれ自体が紙の耐久性などを低下させる要素です。
こういう要素の性質を知るだけでも、どういう要素がどういう問題を引き起こす危険性をはらむのかということが普通に理解できると思います。
よく学生などが「和紙は丈夫です!なぜなら構成する繊維が長いから!」というのですが、これは正しいのですが、きちんと授業をうけた文化財の学生がこういう回答をした場合は、ちょっと苦笑い…って感じ…かも…ですね。
なぜならそもそも和紙以外の紙を構成する繊維(素材)が和紙より長「かった」紙というのはどれだけでも存在するからです。ですので、「どういう素材」を使ったのかと「どういう製造工程」をたどった上で、「どうなった」から「結果」こうなったということを考えることが、「なぜ丈夫なのか(どういう点での耐久性の良さを示すか)」ということを明確にするだろうことをご理解いただけたらと思います(単純に耐久性、というと漠然としますが、「どういう点での耐久性?どういう点での良さ?」という分野分けをすると、よりそれぞれの紙の良さが理解できるようになるかと思います)。
今お話しているのは、その中でも、そもそもの「素材自体の持ち味」としてのお話ですね。
こういうことを考える場合、そもそも紙というのはどのような素材でできているのかを振り返ることが大事でしょう。
よく和紙に使われるのは、雁皮、ミツマタ、コウゾですね。ここらへんはよく知られているので特にここでは書きませんが、よく知られているからこそ教養的に名前を知っておくとよい植物ですね(^^)。
その上で他にどのような素材があるかといいますと、ヨーロッパにおいて紙の材料に木材を使用し始める以前は木綿(コットン)が主原料となっていました。ただし、木綿の繊維は上記の和紙の素材と比較すると非常に長く(長すぎ、という)、ゆえに「製紙」上通常のコットン繊維を使用しての製造は難しいことを含め、諸事情から木綿のぼろを使ったり、あるいは綿花の加工工程ででてくる「短繊維」を使用して製造していました。(ちなみにこういった紙以前は羊皮紙を使用していますが、羊皮紙は厳密には(狭義においては)「紙」の定義に収まるものではないことも大事な事項だったりします)。
ほか、ヨーロッパの場合は亜麻が紙に使用されたようです。亜麻、というと絵を描く人はぱっと思い浮かぶと思いますが、キャンバス(画布)の原料ですね(最近は化学繊維が原料のものが安価で出回っていますが)。先の木綿(コットン)もそうですが、「布」として使用できる素材を「紙」として使用していることから、このシリーズの最初の記事で書いたとおり、「(主に)紙の話」なんですけど、別段「紙だけの話をしているわけではない」ということは、重ねてご理解だいたけるかなと思います。また同時に、亜麻の場合「糸」として撚ることができるだけの繊維の長さがあるのですから、決して素材本来として「繊維が短い」わけではないのでは。こう考えたときに、単純に繊維の長い短い(本来の長さ)の話ではなく、「製造過程」の中の違いなどを考える必要性があることも、ご理解たいだけるかなと思います。閑話休題。ちなみに日本では亜麻は育ちにくいので、そもそも日本で画布を作ってはいないはずですし、それゆえ亜麻で紙の製造もしていません。対して亜麻はおもしろいことにイスラム世界の紙における主原料であったといわれています(上記のとおり、ヨーロッパは木材以前はコットンが主原料の傾向)。
これらの他、例えば中国で作られている紙として有名なのが、竹を原料とした竹紙です。今までお話してきた話の内容を思えば、本来自分の国(地域)に植生を持つ植物を使って紙を作っていることが理解できると思いますので、中国で「竹」というのは「ああ」とご理解いただけると思います。…といいながら、ブログ主は中国に行ったこともなく、中国に詳しいわけではありませんので、あくまでもイメージ先行ではあるのですが(苦笑)。
上記のほか、1840年以降になると木材パルプでの紙の製造方法が確立されていきます。針葉樹と広葉樹、どちらも使用されているもよう。安価に、大量に、という良さがあります。
ほか、動物性繊維や化学繊維などからなる紙などもありますが、今は先の記事の3要素についてお話したいので、植物繊維からなるもののみを対象にお話をしております。勿論植物を原材料とする紙もパピルスをはじめとして色々ありますが、あくまでも上記は代表としてご理解ください。もしご興味がおありでしたら、動物性や化学繊維などの紙をしらべてみるのも面白いですし、そういった素材と植物性の紙を比較してみるのも面白いと思います。
本日のまとめ的なもの
和紙の中でもミツマタは日本紙幣に使われる素材なので、我々日本人にとって身近ものといえるでしょう。
紙幣はお財布の大きさやポチ袋などの大きさのよって小さくたたまれるため、折る、ということが前提で作られていると思います。
紙などの繊維は「折る」という挙動をされると一気に弱ってしまうことを考えると、紙幣の丈夫さは本当に驚くべきものだと思います。
ただ、この記事を書く際にネットで少々調べてみましたら、ミツマタはネパールから大量輸入しているようで、ネパールとの交易あっての日本紙幣な模様。和紙とはいっても、日本国内での素材調達が十分にはできないのかと思うと、不思議な感じもしますし、また、どういう土地で育つ植物なのかなど、そういうことへの理解というのも大事なことだなと思ったりします。
これは上記のどの素材でもそうで。現代のように大量に空から海から輸入できる時代ではなかった頃(それが可能でもいま以上に費用や労力がかかった頃)、できるだけ安価かつ良質なものを作ろうとすると、地元の素材や身近な素材が用いられるだろうことは理解できると思います。
そういったものが改良(あるいは質としては改悪でも、安価さと大量生産を目的として)されて、いろんな種類の紙が出てくる反面、それに押されて淘汰されていった紙もあるのかもしれません。
だからこそではありますが、少なくとも現代において市販されている紙なんかは「なんらかの良さ」があるからこそ製造販売されているわけで、「その理由」を理解することも大事なことかと思います。
というわけで本日はここまで。最後まで読んで下さりありがとうございます。
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