絵画を断層状態で観察する:「絶縁層(地透層)」ってなあに――下地層との関係性――

修復を学ぶ

ここしばらくは下地層のお話をしておりましたが、油絵やテンペラ画を断層状態で見た時に、下から「支持体(基底材)」→「前膠塗り(下膠塗り)」→「下地層(地塗り層)」の次にくる「絶縁層(地透層)」が来ますので、本日はその説明をしたく思います。

『高橋由一から黒田清輝の時代へ「油画を読む」』p.165から引用

絶縁層は下地層と関係性を持つ:下地層の特徴を再度復習

ここまで「絵画を断層状態で観察する」シリーズにおいて、「基底材なしに絵画は成り立たないよ」とか、「下膠がちゃんとしていないと、板絵でも画布の上の絵でも、困ることがあるよ」とか、「下地層は大事だよ」とか色々言っている中で、微妙な立ち位置なのがこの「絶縁層(地透層)」です。

なぜならこの層はあらゆる絵画に100%備わっているわけではないからです。

どういうことかと言いますと、この絶縁層(地透層)の役割のためです。また、この絶縁層(地透層)の役割を理解する上で、下地層を理解することが非常に大事になります。

あれだけしつこく説明した下地層がまた出てくるのかと思われそうですが(苦笑)。

復習しますと、下地層は大きく3つのタイプがありましたね。「水性地(水性下地)」「油性地(油性下地)」「エマルジョン地」です。「エマルジョン地」は「水性下地」と「油性下地」の両方の性質を持つものですので、ちょっと置いておくのですが、あくまでもおおざっぱな言い方をすると、直近の記事にて、「水性地」は「湯舟に接着剤を付けた軽石をいっぱいに満たした状態」と説明しました。対して、「油性地」は、「湯舟に石(軽石でもいいですが浮きそうなので)をいっぱい満たした中に、ゼリー溶液をいっぱい入れた、フルーツインゼリーのような状態」と説明しました。

ですので、「水性地」の場合「湯舟の中の軽石」は、石、といっても沢山穴の開いている物体である上、大気に露出している状態ですので、水を上からかけても、ある程度石に空いている細孔に吸収されるという性質を持ちます。

逆に、ゼリーで全体を囲まれた石(軽石でも可)の場合、どんなに上から液体をかけても、ゼリーの中に水が入ることはありません。

こういう水を吸収する、しないという性質があることから、「水性地」は別名「吸収地」と呼ばれ、対して「油性地」は「非吸収地」と呼ばれています。

この「吸収する」「吸収しない」というのは、「何を」を思われるかもしれませんが、下地の上に重なってくる「絵具」に含まれる水分だったり、油分だったり、そういう液体を吸う、吸わない、と言っているわけです。

下地の「吸収性」を調節する 、それが「絶縁層(地透層)」の役割

大まかに分類して、「吸収する地」と「吸収しない地」がある中で、「絶縁層(地透層)」は何をしてくれる層かといいますと、その下地の「吸収率」の調整あるいは「吸収しないようにする」役割をします。

ここで誤解しやすいのが、「吸収しない地」を「吸収する」ように調整することはできません。

「吸収する地」に対して、「あんまり吸収しないでほしいな」と調整したり、「絶対何も吸収しないでほしい」とすることができます。

もうお分かりですよね。「絶縁層(地透層)」は、「吸収する地」に対して、その吸収性の調整処置をする層であるために、もともと「吸収しない層(=油性地)」に対して絶対塗布しなければならない、というわけではありません。

逆をいえば、「吸収する地(=水性地)」に対してさえも、「吸収してほしい」という欲求の下、作品を制作するのであれば、別段「絶縁層(地透層)」を塗布する必要性はありません。

ですので、ある種制作上の「作業性」あるいは、作品の美観(艶の有無)に対する画家自身の意思、油絵具など絵画技法に対する知識量などが読み取れる部分であったりします。ただし、あくまでも画家自身が自分自身で下地を作成している場合に限りますが。

また、実際私自身、「吸収地(水性地、水性下地)」の上に「絶縁層(地透層)」を塗布して、絵を描く技法を使ったことがあるのですが、「吸収性の調整」を画面全体に一様に実施するには、経験が要るとも実感しています(つまり、私自身の経験上、初心者状態の時は失敗もした、ということです。^^;)。

「経験が要る」とどうして思ったのかといいますと、うまく吸収性の調整ができていない箇所においては、作品の美観上問題が出たためです。油絵の美しさを支えるものの一つは、「艶の一様性」だったりしますが、それが失われてしまう結果となりました。

何が言いたいかといいますと、長々と絵画を断層状でひとつひとつ語ってはいますが、個々で成り立っているわけではないということです。

今書いている内容で、少なくとも「下地層」「絶縁層(地透層)」「絵画層」が非常に密接な関係にあり、お互いに作用しあっていることが伝わればいいなぁと思いつつおります。

本日のまとめとして

本日のお話とまして、「絶縁層(地透層)」は、「下地」との関係が深いこと、また「求める美観(絵画層の見た目)などいよっては、絶縁層(地透層)は必ずしも塗布されない」ことをお話しました。

そうすると、少なくとも「油性地(非吸収性地)」の時は「絶縁層(地透層)」は塗布しない可能性が高いけれど、逆にどういう時に「絶縁層(地透層)」を塗布するの?と思われるかもですね(実際大学で教えていて、結構ここの部分もなかなか理解に至りにくい部分だったように思います)。

ですので、次回も少し「絶縁層(地透層)」のお話をさせて頂けたらと思います。あ、下地層ほどに続ける予定はありませんので、そこはご安心(?)を。

本日も最後までお読みくださり、ありがとうございます。

  

コメント

タイトルとURLをコピーしました